今年6月、中国の海域を航行していた貨物船に乗っていた約20人の船員のうち、韓国人船員2人がまるで蒸発したかのように失踪した。失踪したのは、機関長とその部下の機関士だった。乗船評価をめぐって対立していたとされる二人の失踪とともに、厨房で使われていたナイフも2本が消え、2カ月近く経った今も発見されていない。一緒に乗船していた他の船員たちは依然として下船できず、上海近海に停泊している船内で生活しながら調査を受けている。
釜山(プサン)海洋警察署によると、6月23日午後7時30分ごろ(現地時間)、化学製品運搬船A号(16,000トン級)が中国の海域を航行中に韓国人の船員Bさん(50代)とCさん(30代)が失踪する事件が発生した。
パナマ船籍のA号には、失踪した2人を含めて韓国人船員9人(航海士等)と、フィリピン人など外国人船員14人が乗船していたという。船の所有者は日本企業で、釜山にある企業が人員の派遣など船員管理を担当していたとされている。
事件の関係者によると、失踪者2人のうちBさんは機関長、Cさんはその部下の機関士だった。機関長が下す「乗船員評価」をめぐって2人が対立していたとされる。この評価は通常、6カ月ごとの契約終了時に実施され、船員の昇進などにも影響を与えるという。
事件は大半の乗員が就寝中の深夜に発生したとみられている。当日、A号の厨房で使用されていたナイフ2本が消え、失踪したBさんの部屋には大量の血痕と、急いで掃除しようとした痕跡があったという。血痕はBさんの部屋からA号の船尾まで続いていたとされる。
Bさんの部屋のドアには「休憩中なので邪魔しないで」といったメモが貼られていたが、多くの船員はその筆跡がBさんではなく、Cさんのものに似ていると証言している。その後、BさんとCさんはともに姿を消し、現在に至るまで行方は確認されていない。
この事件は釜山海洋警察にも報告されたが、捜査は中国当局が担当している。海警の関係者は「事件の捜査および失踪者の捜索に協力したいと中国側に要請したが、すべて拒否された」と明らかにした。
現在、A号は上海近海に停泊しており、韓国人7人と外国人14人の船員が引き続き乗船している。事件の関係者であり、船の管理も必要であることからA号での生活を続けているが、拘束期間が長期化する中、不安や精神的苦痛を訴える声も上がっている。元々船員たちは居室のドアに鍵をかけずに生活していたが、今回の事件を受け、多くの船員が鍵をかけて就寝しているという。
約50年にわたり外航船で働き、中国にも頻繁に出入りしてきたある船長は「このような場合、閉鎖された船内での生活が長期化するにつれて船員の不安感が高まる。今の船員たちは『監獄ではないが、監獄にいるような感じ』という焦燥感に駆られているはずだ」とし、「船の管理も困難になり、二次的な事故などにつながる危険性もあるため、迅速な対応が必要だ」と指摘した。また「外部からの信頼にも関わる問題であり、船会社も非常に困難な立場にあるだろう」と述べた。
韓国海洋大学海洋警察学部のチェ・ジョンホ教授は「状況を見る限り、単なる失踪ではなく殺人事件の可能性もある。ただし失踪した船員の所在や遺体が確認されていないため、依然として『失踪事件』として扱われ、捜査も長期化しているようだ」と語った。さらに「外国の海域で発生した事件ではあるが、もし(A号が)韓国船籍であれば、外交部などが管轄権を主張し、乗員や船舶の引き渡しについて有利に交渉することができただろう。しかしパナマ船籍であるため、交渉力が比較的に弱い可能性がある」と指摘した。
これについて、外交部は「わが国の在外公館は(中国側と)関連協議を継続しており、韓国人船員や失踪者の家族と連絡を取りつつ、必要な領事支援を提供している。協議が進められているため、具体的な内容は説明しがたい」と明らかにした。
2025/08/12 06:55
https://japanese.joins.com/JArticle/337437