国際秩序が、大国の現代版重商主義と帝国主義的振る舞いが幅を利かすものへと急変しつつある。1~2世紀前の大国が貿易戦争や植民地争奪戦まで繰り広げたのとは、やり方が少し異なるだけで、本質は類似している。米国のトランプ大統領は敵と同盟国を区別せず、高い関税障壁を設け、天文学的な規模の投資金を強奪しており、ロシアのプーチン大統領はウクライナ領の強制併合の試みをやめない。国富を増やし、領土を拡大し、自国の安保と国際的影響力を維持・拡大しようというのだ。
トランプの振る舞いは、18世紀式の重商主義と変わるところがない。重商主義は、外国にできるだけ多くの品物を販売し、外国の商品の購入は最小限に抑えて多くの黒字を残すことを目標とする。その成果は貿易黒字の規模と国庫にたまった金銀の量で測られた。そのために高率の関税や商船略奪などのあらゆる手段を動員した。保護貿易政策は国家間の緊張と対立を引き起こし、貿易戦争にとどまらず軍事的衝突にまで至った。19世紀中盤から後半には植民地を政治、経済、軍事的に支配し収奪する帝国主義が勃興し、列強は植民地争奪戦まで繰り広げた。あげくの果てに、20世紀に入って大英帝国の衰退と新興大国ドイツ、日本の浮上という勢力移行期を迎えたことで、2度の世界大戦にまでつながった。不幸にも、このような悲劇的な世界史に無知なナルシストのトランプは、重商主義時代の指導者のように貿易をゼロサムゲームだと考えている。米国は依然として世界最大の富裕国でありながら、敵国はもちろん同盟国からもたかられてきたという根拠のない主張を展開し、怒りを表出する。かつては武力を動員した「砲艦外交」で弱小国を強圧したとすれば、今は米国市場へのアクセスの遮断と安保提供の撤回をちらつかせて脅迫する。カナダ、パナマ、グリーンランドには領土強奪までほのめかす。史上最強の米国の軍事力の威勢に押され、欧州連合(EU)などもあえて盾つくことはしない。「国富を増やし、領土を拡大する、改めて成長する米国」になるだろうと約束するトランプの今年1月の就任演説は、単に聴衆を喜ばせるための修辞ではない。強奪の手法は異なるが、帝国の本性をあらわにしているのだ。
大国の指導者同士が会って弱小国の運命を決めるというのもそっくりだ。トランプとプーチンは先日アラスカで会い、ウクライナの終戦交渉をおこなった。プーチンはウクライナの要衝を差し出すことを要求し、トランプはプーチンの側に傾いたようだった。ウクライナのゼレンスキー大統領と欧州の首脳はホワイトハウスを訪ねて1000億ドルにのぼる米国製兵器の購入を提案し、トランプを翻意させようとした。ゼレンスキーは、米国の曖昧な安全保障の約束とプーチンとの2国間会談の開催は得たものの、果たして領土割譲という壁を乗り越えられるかは疑問だ。合意に達したとしても、ロシアに占領された領土を永遠に奪われるかもしれない。弱小国の悲哀だ。トランプは今年初め、ウクライナの領土に言及しつつ、「いくつかの資産(assets)を分割するつもり」と語っているが、彼にとって領土分割は一種の不動産取引のようなものだ。
トランプは非常に危険な世界観を持つ人物だ。貿易で重商主義的に思考するのと同様、外交安保では大国の指導者同士の交渉で国際秩序を決めるやり方を好む。互いに相手より上位に立つために激しい競争を繰り広げつつも、同時に利害が合う部分ではためらうことなく「共謀」するやり方だ。弱小国にとっては非常に残忍な、大国同士の取り引き式外交の帰還だ。恐らくプーチンにウクライナ領の一部を譲り、トランプはグリーンランド、パナマ運河などの領土確保を試みる際、プーチンと中国の習近平国家主席の黙認を得ようとするだろう。このような無謀な試みは、東アジアにも破壊的な結果をもたらす恐れがある。トランプとプーチンの「取り引き」が現実のものになると、中国に誤った判断をさせる可能性もある。中国の台湾侵攻というパンドラの箱が開く可能性もあるということだ。
一時、経済的相互依存の深化は国同士の衝突のリスクを低下させるという認識が広がっていた。しかし、米国が経済的相互依存の断絶をちらつかせて利益を得ることで、それは今や強圧の「武器」になってしまった。両刃の剣だったわけだ。そのうえ韓国は安保依存度まで高いため、トランプの餌食になる最悪の条件を備えている。このような乱世を乗り切るためには、何よりも経済と外交安保の領域での自強、サプライチェーンと輸出先の多角化、中堅国の連帯が緊要だ。最悪の状況が起きても予防または早期の回復を可能にする体制を整えなければならない。李在明(イ・ジェミョン)大統領は韓日首脳会談で、環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)のような経済協力体への加入を積極的に提案する必要がある。韓米首脳会談では、台湾有事に巻き込まれるリスクを避ける安全装置、戦時作戦統制権の任期内の返還の約束を取り付けなければならない。
2025/08/20 17:19
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