日本の30人の読者が朴景利の『土地』を手にアリランを歌った理由

投稿者: | 2024年10月22日

 「先生、2014年に『土地』日本語版(版権)の協議を終えてから、先生のお墓参りをしましたよね。あの時から完訳するのにちょうど10年かかりました。… 日本の30人の『土地』ファンが今日一緒に来ています。日本にはこんな方たちがたくさんいるんですよ。その方たちとは喜び、感動を分かち合う良い仲だと申し上げたかったんです」

 慶尚南道統営山陽邑(トンヨン・サニャンウプ)の朴景利(パク・キョンニ)記念館内の朴景利の墓の前で、日本の出版社「クオン」のキム・スンボク(金承福)代表(55)が語りかけた。大河小説『土地』の日本語版を手にした日本人たちが墓を囲んでいた。前日に降った雨がやみ、日差しが温かな19日の昼2時ごろだった。

 作家の朴景利(1926~2008)の『土地』日本語版が、翻訳開始から10年を経て完訳、刊行された。国外では初だ。韓国文学専門出版社CUON(クオン)と翻訳家、日本の読者ら32人が故人を訪ね、20巻の完全版『土地』をささげた。今年は『土地』が国内で刊行されて30周年に当たる年で、韓国のノーベル文学賞受賞元年でもある。

 キム代表は「高校生の時に初めて、そして新しい話が本として出るのを待ちながら『土地』を読んだ。その高校生が成長して日本で韓国文化と韓国文学を広めたり出版したりする仕事をしている」と思いを語った。千葉市から来た梶田暁さん(80)は、「19巻まで読んだ。前の本は2~3回は読んだ。朴景利先生から人生を学んだ」と述べ、「セタリョン」を歌った。彼らは朴景利が統営の海を眺めたという場所で、全員で記念写真を撮った。『土地』、『海』、『朴景利』を叫ぶ度に笑いが起こり、その笑い声が吹いてくる海風に乗った。

 本の献呈式を終え、午後4時ごろに統営市内のホテルで行われた出版記念会には150人が集った。小説家のカン・ソッキョン(姜石景)さん、コン・ジヨン(孔枝泳)さんらも参加した。

 『土地』全20巻中11巻を翻訳した吉川凪さんは、「キム代表が最初に翻訳を要請してきた2014年当時は、韓国文学はあまり売れないというのが日本の出版界の一般的認識だった」として、「私は翻訳依頼を断ったと思っていたのだが、キム代表が何しろしつこく連絡してきて、結局は引き受けた」と話した。そして「小さな出版社だし資金が準備できるのか、いや、版権は取れるのか(不透明で)、代表の熱意しかなかった」として、「遠回しな日本語(の拒絶)表現が理解できなかったようだ」と語り、周囲を笑わせた。

 当時は嫌韓感情まで高まっていた時期だった。クオンは版権協議の翌年の2015年、ついに翻訳という大仕事に着手。共同翻訳が嫌いで、それまではやったことがなかったという吉川さんは、「やっている途中で病気になったり死んだりするかも知れないので、共同翻訳をすることになった」と言って、共同翻訳家の清水知佐子さんと笑い合った。韓国の大学院で近代文学を専攻し、チェ・インフン(崔仁勲)やイ・チョンジュン(李清俊)の作品などに加え、日本国内でたった1冊のキム・ヘスン(金恵順)の詩集を紹介した文学博士の吉川さん、大学で韓国語を専攻し、読売新聞の記者から翻訳家に転じた親韓派の清水さんの翻訳チームは、こうして結成された。二人は700人にのぼる『土地』のキャラクターの人名、言葉づかい、全国八道の地名、近現代の韓国の物産に対する理解などを調整してゆき、今日に至った。

 とりわけ「19世紀朝鮮の農村の情報がないため」、「死ぬほど1巻翻訳するのが大変だった」と語る吉川さんは、「日本語版の読者の中には、『次の巻はいつ出るのか。自分の生きている間に全巻を出版してほしい』と切実に頼んでくる情熱的な読者の方々がいらっしゃった」として、「ついに完結したが、その方は生きていらっしゃるのか、元気に20巻まで読んでいただけたら」と話した。翻訳中に「何度も泣いた」と語る清水さんは、「なぜ翻訳に挑戦したのか後悔もしたけれど、作品世界に没入して陶酔感に浸ったこともあった。翻訳している間に9歳も年を取ったが、最後まで走り抜けた自分を褒めてやりたい」と話した。

 慶尚南道河東郡平沙里(ハドングン・ピョンサリ)の没落した大地主の家を再建しようとする女性チェ・ソヒを主人公に、『土地』は19世紀末から解放までの半世紀の韓国史を貫く。1969年から1994年までの25年間に朴景利が積み上げた4万枚あまりの原稿は、東学農民運動から日清戦争、満州事変、日中戦争、南京虐殺など、半島をとりまく事件の中の民衆史として激動する。今月15日に全20巻を読み終えたという日本の読者、山岡幹郎さん(74)は、「1945年8月15日で小説を終えることで、その意味を日本社会に問うている」として、「日本の読者は責任を持ってその問いに答える義務がある」と話した。8年前に第1巻を読み、今回の訪韓直前に第20巻を読み終えたという大塚慶子さん(56)も「小説の多くの登場人物が人生の尊さ、忘れてはならない韓日の歴史について教えてくれる」とし、「私の座右の書にして繰り返し読むつもり」だと語った。

 2007年の設立以来、日本に韓国文学を紹介してきたクオンの役割は、少なからず注目されてきた。同社が初めて日本に紹介した作品こそ、2011年のハン・ガンの『菜食主義者』だ。以降も『少年が来る』など3作品を紹介してきた。この日のノーベル文学賞も話題になったのは言うまでもない。統営だけでも3回以上は訪れているという神谷丹路博士(66、早稲田大学講師、韓日関係史)はハンギョレに、「『少年が来る』と『すべての、白いものたちの』(河出書房新社)を読んだ。ノーベル賞を受賞するならハン・ガンだと思っていたが、こんなに早く取るとは思わなかったから本当に驚いた」と話した。吉川さんは毎日新聞の依頼で、詩人のキム・ヘスンの受賞に備えて自宅でインタビューされるのを待っていたという。

 今や『土地』もハン・ガン作品も、日本の読者はどの国よりも完全な状態で接することができる。クオンのおかげだ。この日の完訳記念会の最後に、聴衆は共に「アリラン」を歌った。

2024/10/20 12:11
https://japan.hani.co.kr/arti/culture/51414.html

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