2002年、40代半ばだった家庭医学科専門医のイム・ドンギュ院長は『食革命(原題:The Food Revolution: How Your Diet Can Help Save Your Life and Our World)』という本を読んで人生が変わった。世界的なアイスクリーム企業「バスキン・ロビンス」の後継者をあきらめ、食生活運動に飛び込んだジョン・ロビンス氏は、肉と加工食品が体と環境を台無しにしている現実を厳しく批判した。一晩中本を読んだ後、イム院長は採食の道に進んだ。
当時、イムさんは外食と肉、たばこを楽しむ一方、運動は嫌いな平凡な中年男性だった。血糖と血圧が高く、脂肪肝と慢性疾患があり、身長167センチで体重は74キロだった。玄米を基盤にした菜食と毎日30分から1時間運動を並行すると、体重が1カ月で10キロ、3カ月で17キロ減り、血液数値もすべて正常に戻った。
2004年には慶直南道智異山(チリサン)の山清(サンチョン)に移住し、農作業をしながら「農夫医師」として知られた。菜食する医療関係者の集まり「ベジドクター」の常任代表を務め、菜食平和連帯諮問委員として活動しているイム院長は「菜食を数日実践するだけでも、体は変化を感じる。もちろん食べ物とともに適切な睡眠、心の健康、運動などを並行して行えば、効果はさらに良くなる」と強調した。
2000年代初頭に比べ、韓国国内で菜食を選ぶ人口は大幅に増えた。「韓国菜食連合」によれば、2022年基準で菜食の人口は250万人程度と推算される。約15万人だった2008年に比べれば、爆発的な成長だ。大豆ミート、豆腐麺など代替食品も大衆化している。韓国農水産食品流通公社によると、ビーガン認証を受けた食品は2021年基準で286個で、2019年に比べて151%増加した。
昨年の代表的な健康トレンドだった「低速老化」と「血糖管理」ブームも、より多くの人が菜食や菜食中心の献立に関心を持つように後押しした。低速老化ブームの牽引役だった峨山病院老年内科のチョン・ヒウォン教授は、低糖指数の複合炭水化物である全粒穀物と豆などを主要カロリーとたんぱく質源にする「DASH(高血圧予防のための食事療法)」と、チーズと赤い肉を減らし、野菜と甘くない果物をたくさん食べるようにする地中海式の献立を結合した食事療法「MIND(神経退行性遅延のための地中海とDASHを結合した療法)」の献立を薦めている。厳格な菜食ではないが、他の長寿食と同様に自然植物食に基づいている。
「ブルーゾーン」と呼ばれる長寿地域の献立もそれに似ている。日本の沖縄、イタリアのサルデーニャ島、ギリシャのイカリア島、コスタリカのニコヤ半島、そして米国のロマリンダなど長寿地域の献立を見てみると、野菜と豆類、全粒穀物を豊富に摂取する植物性食品が中心で▽肉類の摂取は最小限に抑え、魚を少量摂取したり、豆類とナッツ類でタンパク質を補充する▽加工食品と精製された砂糖の摂取制限などの共通点が見られる。
すでに多くの研究が野菜の摂取を増やし、肉食、加工食品、精製穀物を減らすことが健康に良いということを証明してきた。しかし、現実はかなり厳しい。肉食を好む文化はかなり強固だ。韓国人の1人当たりの肉類消費量は持続的に増えている。2023年基準で年間60.6キロで、米の消費量(56.4キロ)より4キロ以上多い。2014年の51.3キロに比べて急増した。 経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均国民1人当たりの豚肉摂取量が最も多い国でもある。肉を避けることは依然として韓国社会では非主流だ。
専門家らは、菜食や低俗老化の献立などを大げさに始める必要はないと助言する。イム院長は「菜食は厳格すぎると、むしろ失敗する。妻の勧めでいやいや『だまされたつもりで』菜食を始めると言っていた方が、数年後に菜食関連行事で主催者になっている場合もあった」とし、「菜食の割合を増やして起きる変化をひとまず一度経験してみることが重要だ」と強調した。
低速老化の献立を提案したチョン教授も「単純糖、精製穀物、赤い肉、加工肉、ファーストフードを控え、サラダや豆缶詰など低速老化に役立つ食べ物の摂取を繰り返してみるうちに、全般的な味覚が自然な味に慣れていく」と説明する。
菜食文化の拡散に乗り出している菜食平和連帯は、菜食に慣れていない人々のために各自菜食料理を持ってきて分け合う「ポットラックの集い」も開いている。ウォン・ヨンヒ代表は「実際に菜食料理を食べた人たちは新しくて多様な風味に驚く場合も多い」と語った。
菜食の拡大は、気候変動運動ともつながっている。「グリーン消費者連帯」(GCN)は大量生産、大量消費、大量流通、大量廃棄の時代の中で迎えた気候変化問題解決のために車(ノーカ)、牛肉(ノービーフ)、プラスチック(ノープラスチック)の3種類を減らしたり使用しないようにする「3無運動」キャンペーンを行っている。大邱(テグ)グリーン消費者連帯の代表であり、「GCNグリーン消費者連帯3無委員会」のチョン・ヒョンス委員長は「牛肉は飼育過程で二酸化炭素の20倍以上の効果を出すメタンを排出するなど、肉類の中で最も炭素排出量が多く、代表例として(3無に)入れた」とし、「地球の健康に対する悩みまで含めた運動だが、3無運動に参加する個人も血圧や糖尿など慢性疾患と生活習慣疾病問題が改善されたという話をよく聞く」と語った。菜食平和連帯のクォン・ビンナリ事務総長は「どんな形であれ、菜食を『始めた』方々に拍手を送る」とし「楽しい気持ちで菜食を行い、その影響で私も、地球も、動物も元気に共存できるということを身をもって感じる瞬間があるだろう」と話した。
2025/01/02 10:08
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