「大阪のトクハルマン、やっと故郷済州に帰ってきました」

投稿者: | 2025年8月14日

 「やっと故郷に帰ってきた、ようやく。そうおっしゃっていらっしゃると思います」

 在日韓国人3世のホン・ソンミンさん(64)が、済州に新たに建てた祖父母の墓を見ながら言った。光復80周年を半月後に控えた先月29日、「ようやく」キム・ヤンヌン、ホン・スンハの夫婦が日本から帰郷。故郷に埋葬された。

 1898年に生まれたキム・ヤンヌンは、14歳年上の済州市朝天邑新村里(チョチョヌプ・シンチョンニ)出身のホン・スンハと結婚し、1920年代に大阪に近い和歌山県箕島へ移住した。仕事探しのために「君が代丸」(1923年就航の済州-大阪定期旅客船)に乗って行ったと孫のホン・ソンイクさん(69)は推定する。夫婦の物語の隙間を埋めてくれる人々はみな、すでに世を去た。日雇いの夫の収入だけで生計を立てるのが難しかったキム・ヤンヌンは、紡績工場で働いた。大阪に移り、1945年の大空襲で家が焼失。新潟県新井市に避難し、夫婦はそこで3人の息子とともに光復を迎えた。

 光復後、夫と離れてひとりで3人の息子を連れて済州に帰ってきたキム・ヤンヌンは、済州市健入洞(コニプトン)の浄光寺(チョングァンサ)の信者だった義姉からもちの作り方を学んだ。故郷ではあるものの、定着は難しかった。1948年2月7日、南韓単独選挙に反対するデモが行われ、19歳だった長男のヨピョが軍警に捕まって拷問された。キム・ヤンヌンは義姉の助力で船便を確保し、釈放されて戻ってきたヨピョを再び日本に送った。

 故郷暮らしは短く、他郷暮らしは長かった。大阪の猪飼野(現生野区)に定着したヨピョは、母親と弟のウピョを大阪に呼んだ。日本に渡ったキム・ヤンヌンは、家でもちを作って手押し車に積んで街で売った。「建入洞の菩薩(女性信者)の下で学んだハルマン(おばあさん)が済州伝統のもちを作っている」という評判が立ち、商売はかなりうまくいった。子どもを育てて生計を立てることだけに専念していたキム・ヤンヌンは、自然と「トクハルマン(もちばあさん)」という愛称を得た。

 「岩村食品」となった「トクハルマンのもち屋」は、今も大阪生野区のコリアタウンに「イェンナルトクチプ(昔のもち屋)」というハングルの看板を掲げて営業している。2番目の息子のウピョが継ぎ、今はウピョの息子のソンミンさんが営んでいる。70年以上の伝統を有する祖母の製法を守り、シルトク(蒸しもち)、ソンピョン(松もち)、インジョルミ(きな粉もち)、キルムトク(油もち)、ポリチンパン(麦まんじゅう)などを作る。もち屋の2階で生活していたトクハルマンは、1973年2月12日にそこで亡くなった。人生のほとんどを借家で商売していたトクハルマンは、初めて「自分の店」を開いたばかりだった。

 大阪の石切にある大観音寺にあったトクハルマンの遺骨は、光復80年、亡くなって52年を経て、夫とともに済州市朝天邑臥屹里(ワフルリ)の家族墓地に埋葬された。午前方5時から始まった改葬作業は疲れそうなものだが、ソンミンさんは祖父母の墓が作られる過程から目を離さなかった。大阪から前日に運ばれてきた遺骨箱は地中に置かれ、孫たちによって土がかけられた。ソンミンさんは祖母を「優しくて情の深い人、怒鳴ったりしない人」だったと記憶している。彼は「店から家に『早く上がってきなさい』とおっしゃっていたことを思い出します」と語った。ソンミンさんはこれまでずっと大阪コリアタウンで生活してきたが、済州の方言が聞き取れる。

 孫たちもいつの間にか60代半ばから後半。これまでは親が訪ねやすいように日本の寺に祖父母の墓があったが、親の世代もみな亡くなった。祖父は生前、上の息子に「(死んだら)必ず済州に連れて行ってほしい」と言っていた。ソンミンさんは「(祖父母は)済州で生まれたから、済州にお連れするのがいちばん良いと思って改葬することにした」と言いつつも、「50年以上あそこ(日本のお寺)にいらっしゃって、私は1、2カ月に1度お参りしていたが、もうそんなことはなくなるので少し寂しい」と話した。世代が変わって時間がたつほど先祖を訪ねなくなり、最後は墓の位置も分からなくなるだろうという心配もあった。「ハルモニとハラボジを家族墓地に埋葬すれば、ホン氏の子孫たちはいつでも行けるだろうから、寂しくないのではないかと思う」とソンミンさんは話した。

 「済州が故郷なので心に響くものがある」と話すソンイクさんは、「こうしてハルモニ、ハラボジをお連れしたのは血筋であり、故郷だから。子孫が来やすいようにお連れしたので、孫としての任務は果たしたという気がする」と話した。

2025/08/14 06:00
https://japan.hani.co.kr/arti/politics/53958.html

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