【中央時評】「交渉の達人」に立ち向かう李在明大統領

投稿者: | 2025年8月14日

ノーベル経済学賞に理論部門だけでなく実務部門もあるとすれば、誰が受賞者になるだろうか。立派な理論を生み出す学者には理論部門ノーベル賞を与え、すでにある理論を現実に適用してうまく使う人には実務部門のノーベル賞を授与するならの話だ。おそらく第1回受賞者はトランプ米大統領になるだろう。ノーベル経済学賞は伝統的な主流経済学の領域を拡張しながらゲームの理論や行動経済学分野の受賞者も多数輩出した。トランプ大統領はまさにこの分野の理論を現実に適用して成功を繰り返してきた戦略家だ。

8月25日に予定された韓米首脳会談でテーブル上に載せられる議題はどれ一つを我々に有利でない。関税交渉の締めくくり、防衛費分担金、在韓米軍再配置、対中国牽制への韓国参加、北朝鮮の核問題などだ。関税交渉は15%でひとまず善戦したといえるが、日本やスイスの事例に見られるように油断はできない。防衛費分担金は昨年批准された分担金協定にもかかわらず最大10倍まで増額するという発言までが出ている状況だ。米国の戦略的柔軟性確保のために4500人規模と推定される米軍を韓半島(朝鮮半島)から移すという構想はすでに後戻りが難しいとみられる。1期目に北核問題解決に失敗した経験があるトランプ大統領は、同盟に圧力を加えるのとは逆に、北朝鮮に対して融和的な発言を続けてきた。李在明(イ・ジェミョン)大統領はこの不利な議題をめぐり交渉戦略ノーベル賞レベルのトランプ大統領を相手にしなければいけない。

 今まで知らされたトランプ戦略の核心はこういうものだ。まず、彼は交渉が始まる遥か前にすでに相手の選択を制約してしまう。交渉が失敗したから関税を引き上げるのではなく、ひとまず25%関税を施行しておいてここからどれほど下げるかを交渉する。相手側は望む方向に交渉を導く機会を最初から失い、トランプ大統領の要求をどこまで聞き入れるかを返答しなければならない立場に置かれる。米国はすでに韓国に対して25%関税と防衛費分担金の最大10倍増額のような制約条件を投げかけて開始した。半面、韓国は米国に対していかなる制約条件も課さなかった。比較的善戦したと評価される関税交渉でも韓米FTAに基づき米国産製品に対する関税0%を基準にした。現実的な国力の差を認めざるを得なかったとしても、相手が脅威を感じるいかなる条件もなく問いかけに返答するだけの首脳会談は危うく見える。

2つ目、トランプ大統領は危険を避けようとする人間の本性を最大限に活用する。行動経済学の研究によると、人はより多くのものを得るより、すでに持つものを失うことを避けようとする。トランプ大統領は交渉を拒否する場合に直面する破局的なシナリオを提示し、これを避けようとする相手国の本能を利用して譲歩を引き出す。第2次世界大戦以降、経済的・安保的に米国の恩恵を最も多く受けた韓国は、米国との関係悪化によって失うものがあまりにも多い。半面、同盟が毀損される場合、米国が受ける被害は具体的というより抽象的なものだ。同盟国が中国とさらに近づく契機を提供したり、インド太平洋での米国のリーダーシップ低下を招いたりするようなことは間違った話でないが、すぐにトランプ大統領の国内政治的目的を変更させるようなものではない。

3つ目、トランプ大統領は徹底的に2国間交渉を好み、多国間交渉を排撃する。相手の国々を互いに引き離して分割支配してこそ戦略の効果を得られるからだ。WTOを嫌悪し、その背景にあるウルグアイラウンドの代わりに「トランプラウンド」が始まったと宣言するのも、多者間交渉の枠組みを破るということだ。トランプ大統領に対応できない国々も、互いに連合して共同対応をすれば、彼の無理な要求を無力化させることは理論的に可能だ。しかし現実的にこうした冒険を選択できる国は中国ほどしかない。実際、中国は4月、米国に対して125%まで報復関税を課して圧力を加えた結果、休戦を引き出すのに成功した。輸出、安全保障、インド太平洋戦略、北朝鮮核問題までが重なる韓国はこうした戦略に踏み込めない。米国からむやみに遠ざかることができず、中国とむやみに近づくことができない状態で、同時に一方的な2国間交渉の枠組みから抜け出さなければならないため、容易なことでない。

李在明大統領の経歴はほとんど国内政治活動に限られていて、韓半島をめぐる国際的な議題にどれほどの識見を持っているかは検証されていない。就任するやいなや不利な議題で交渉の達人を相手にする会談であり、大きな成果を期待するのは難しいだろう。ただ、任期序盤に激変する厳しい国際情勢の現実を彼が持つ特有の実用精神で深く刻んで帰ってくれば、それなりの成果といえる。争闘の国内政治から視線を転じて遠大な世界の舞台に視線を移せば、初めて国が進むべき道が見えるだろう。

チャン・ドクジン/ソウル大社会学科教授

2025/08/14 15:56
https://japanese.joins.com/JArticle/337604

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