韓国政府は1980年代半ば以降頻繁に発生した米国との通商摩擦を根本的に解決するため、2007年に韓米自由貿易協定(FTA)を妥結し、曲折の末に2012年から発効した。米国産の輸入にともなう韓国の農畜産業への影響を甘受しても経済的波及効果が大きい製造業の成長基盤を強化するための苦肉の策だった。2017年に第1次トランプ政権が改正を要求し2018年に再協議を妥結した。
その結果、自動車と部品の対米輸出は増え続け国益に大きく寄与した。昨年は自動車143万台・347億ドルと部品82億ドル相当を輸出した。自動車関連の輸出規模としては過去最高だった。ところが韓国の自動車産業の前途に暗雲が立ち込めている。韓米FTAが有効だった時期には米国市場で日本と欧州の自動車メーカーに対し価格競争力で優位を維持できたが、今月初めの韓米関税交渉により韓国製品に対する無関税措置が消えた。トランプ政権が韓米FTAを破棄したと落胆ばかりしていてはいけない。米国の高率の関税により世界の自動車産業が激変期に入り競争の構図が変わっているためだ。上半期の対米自動車輸出は高率関税の影響により金額基準で16.5%、台数では10.7%それぞれ減少した。幸い部品輸出は総力をつくしたおかげで1.4%の減少にとどまった。
高率関税の否定的な影響は下半期から時差を置いて長期的に現れる見込みだ。したがって韓国の自動車企業は次のいくつかの対応戦略を考慮してみることができる。短期的には収益性悪化を甘受して対米輸出単価を引き下げて関税負担を減らし、価格上昇を最小化して販売と供給網安定化を模索することだ。これは韓国の自動車メーカーの米国内供給網再編に必要な時間と費用負担も減らすことができる。
中期的には米国内生産拡大を通じた輸出代替だ。現代自動車が米国生産台数を50万台増やしても昨年の輸出100万台を代替できない。韓国GMは42万台の輸出を現地生産を通じて代えるのも難しい。現地生産拡大と輸出減少は韓国の生産減少につながり自動車産業の雇用と地域経済に否定的な影響を及ぼしかねない。韓国政府の悩みは深まるほかない。だがトランプ政権が自国に直接投資を誘引するために高率関税政策を展開しており、現地生産増大は避けられない。
長期的には原価低減による関税負担緩和が必要だ。最近先進国の自動車メーカーは中国との原価競争に向けデジタル技術と人工知能(AI)を積極的に導入している。自動車メーカーはAIをバリューチェーンのすべての段階に組み合わせ、時間、費用、人材、空間などを削減したり最適化したりしている。
輸出先多角化を通じた輸出増大は必要だがすぐにはできない。何より米国市場参入が困難な中国の自動車メーカーとの激しい競争を覚悟しなければならない。ウォン安を通じた輸出価格競争力向上は期待しにくい。米国も主要貿易相手国の為替相場を鋭意注視しているためだ。
「トランプラウンド」の波を超え中国との競争に先制的に対応するためには政府が自動車産業に対する金融・税制支援を大幅に拡大する必要がある。韓国の自動車産業の2024年売上額は400兆ウォンを上回ったと推定される。ところが政府の研究開発予算支援は1兆ウォンにも満たない。緊急性に照らしてみると政府が準備するAI予算を自動車産業に優先配分することを検討しなければならない。状況が厳しいだけに企業に対する支援は対米輸出と現地生産の有無、専門人材保有、研究開発投資履歴などを考慮したきめ細かい支援でなければならない。
韓国政府は4月に自動車産業支援政策を発表し、韓国の部品企業数を2万社と評価した。だが韓国の1次協力部品企業は2024年基準で691社で、雇用保険被保険者1人以上の部品事業者は864社だ。韓国の部品産業売り上げの90%を占める外部監査対象企業数は1500社ほどだ。これらを除いた1万を超える部品企業の実体ははっきりしない。産業関連統計が正しく、政府支援が適材適所にされてこそ自動車産業は危機から脱出できる。
イ・ハング/韓国自動車研究院研究委員
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2025/08/21 17:20
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