「9・19南北軍事合意の復元前であっても、実機動訓練などは中止すべきだ」(鄭東泳統一部長官)
「慎重なアプローチが必要だ」(国防部関係者)
9月、境界地域での軍事訓練に関連した鄭長官の発言に対する韓国国防部の公式立場だ。特定の懸案について部処間で意見の違いがあることは珍しくないが、最近では特に鄭長官の発言に対して、担当部処が公開的に異なる意見を表明する事例が相次いでいる。鄭長官の言動をめぐっては、南北関係改善のための戦略的アプローチだという解釈と、行き過ぎた単独行動ではないかという懸念が交錯している。
◇「二国家」発言など、適切性をめぐる懸念
最近の鄭長官の公開発言について、その相当数が論争を呼んだ。
「北朝鮮の敵対的二国家論を、事実上平和的二国家論へ転換することが代案」(9月18日 国際韓半島(朝鮮半島)フォーラム開会辞)という立場は、大韓民国の領土を「韓半島とその付属島」(第3条)と規定する憲法精神に反する可能性があるとの指摘に繋がった。しかしその後も鄭長官は、「平和的二国家論は政府の立場として確定している」(10月14日 国政監査)と述べ、信念を曲げなかった。
また、鄭長官が「北朝鮮は米国本土を攻撃できる3大国家の一つだ」(9月29日 ドイツ・ベルリン訪問懇談会)と述べたことは、北朝鮮の核能力を中国やロシアと同水準に認めることではないかという議論を招いた。北朝鮮が10月10日、労働党創建80周年の閲兵式(軍事パレード)で最新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星(ファソン)20型」を公開すると、鄭長官は「交渉のシグナルとして読むことができる」とも発言した。
◇鄭長官の発言のたびに、他部処は「慎重なアプローチ」「進展については分からない」
鄭長官の発言に対して担当部処が距離を置く異例の状況も、繰り返し起きている。
鄭長官が9月25日、「9・19南北軍事合意の復元前でも、軍事境界線(MDL)一帯での射撃訓練や実機動訓練を中止すべき」と明らかにした際、国防部は「射撃を含む軍事訓練は、我が軍の防衛態勢に重大な影響を与える事案であり、慎重なアプローチが必要だ」との立場を出した。安圭佰(アン・ギュベク)国防部長官も「9・19合意の復元は必要だが、軍事訓練を北朝鮮からの呼応もないのに我々だけ中止することはできない」と述べた(9月30日 記者懇談会)。
また、14日に明らかにした開城(ケソン)工業団地再稼働の推進方針に対しても懸念の声が多い。これは北朝鮮との合弁事業などを禁じた国連安全保障理事会(安保理)の北朝鮮制裁決議に抵触するおそれがあるためだ。外交部は仮定の事案であるとして、公式見解を出さない方針だという。
◇国家安保会議(NSC)でも軍事合意の復元をめぐり対立
これについて大統領室の関係者は、「(政府内で)意見の違いがあるのは事実であり、各部処の発言をそのまま受け取ってよい」と述べた。
実際、9月中旬に開かれた大統領室NSC常任委員会では、9・19軍事合意の復元をめぐる推進速度をめぐって緊張した雰囲気が流れたという。複数の消息筋によれば、鄭長官は「MDL5キロ以内での砲射撃訓練の即時中止」などを主張したが、一部委員が懸念を示し、ブレーキをかけたという。
鄭長官の北朝鮮に対する独自の発言が、古くからある「自主派―同盟派」対立を反映しているとの解釈が出ているのもこのためだ。盧武鉉(ノ・ムヒョン)政府当時、青瓦台(チョンワデ、旧大統領府)内で融和路線を支持した側(自主派)と、韓米同盟強化を重視した外交ライン(同盟派)が、竜山(ヨンサン)米軍基地移転交渉をめぐって衝突し、それが尹永寬(ユン・ヨングァン)外交通商部長官の辞任に繋がった。
9月末、与党「共に民主党」の国会外交統一委員会所属議員らと統一部との政策協議では、鄭長官が「NSC内で統一部長官の主導権が以前と同じではない」とし、もどかしい心境を吐露したともいわれている。
◇「大統領の哲学、私が一番よく知っている」と言うが…
こうした状況を知らないはずのない鄭長官が、それでも加速ペダルを踏み続ける背景については、さまざまな解釈がある。
鄭長官は「李在明(イ・ジェミョン)大統領の信念と哲学を誰よりもよく理解しているのが鄭東泳だ」とし「私は南北関係に関して李在明大統領の対北政策路線を正確に代弁していると考えている」と主張する(10月14日 国政監査)。実際、鄭長官と李大統領の縁は、李大統領が政治に入った初期にまでさかのぼるほど深い。李大統領が直接発言するには政治的負担が大きい立場を、鄭長官が代わって示すという戦略的役割分担ではないかとの指摘も出ている。
一方で、鄭長官が「単独プレー」をしているという見方も少なくない。北朝鮮問題に対する個人的な思い入れが反映された可能性があるというのだ。鄭長官は2004年12月、開城工業団地誕生の過程で“産婆役”を務めた人物でもある。
尹錫悦(ユン・ソクヨル)政府の北朝鮮に対する強硬方針で南北間の緊張が高まり、北朝鮮が韓国に対する断絶路線を押し進めているなか、統一部長官として突破口を開こうとする信念が作用している可能性もある。李在明政府初期に南北関係改善の動力をつけるため、無理を承知で批判を受け入れているという見方だ。
どのような背景があるにせよ、こうした状況は韓国政府の外交安保ラインが強調してきた「ワンチーム」精神が揺らぐのではないかという懸念へと繋がっている。匿名を求めたある民間消息筋は「ベテラン級長官の“単独行動”が意図せぬ結果を招く恐れがある」と述べた。部処間で調整されていないメッセージが積み重なるほど、政府政策への不信が高まり、米国や日本はもちろん、北朝鮮にも誤ったシグナルを送ることになりかねないという指摘だ。
2025/10/20 15:35
https://japanese.joins.com/JArticle/339992