無限潜航?潜水艦をとらえる潜水艦?…原潜に対する「致命的な誤解」

投稿者: | 2025年11月3日

 韓米首脳会談を通して原子力潜水艦の建造が可能になったことで、原子力潜水艦への関心が急速に高まっている。原子力潜水艦についての疑問点をQ&A形式で整理した。

1.原子力潜水艦は潜航能力が無制限なのか

 無制限の潜航能力は原子力潜水艦の最大の長所とされる。バッテリーを充電してプロペラを回すディーゼル潜水艦は、バッテリーが切れると、水上に浮上してディーゼルエンジンを稼働し、バッテリーを再充電する必要がある。潜水艦内部では空気が不足しているため、艦内の空気を利用してディーゼルエンジンを回すことは難しいためだ。

 原子力潜水艦は推進システムが小型原子炉であるため、バッテリーの充電のために水上に浮上する必要はなく、無制限の潜航持続能力があるという。ただし、無制限の潜水能力は「理論上」にすぎない。

 海軍側の説明によると、実際には米国の原子力潜水艦では、乗務員の疲労のため、2カ月の潜航が最長だという。原子炉は無限に動かすことができるが、乗務員の体力の枯渇やストレスのため、2カ月後には浮上せざるを得ないということだ。

 韓国が運用するディーゼル潜水艦に空気不要なシステム(AIP)を装着すれば、最長で3週間ほど潜航できるため、原子力潜水艦の実際の潜航能力は、ディーゼル潜水艦の約3倍にとどまる。

 韓国は独自技術で世界最高水準のディーゼル潜水艦を作れるため、費用対効果や任務の自律性などを考慮すると、原子力潜水艦を1隻建造する費用で最新のディーゼル潜水艦を複数建造する方が望ましいという主張も軍の内外にはある。

2. 原子力潜水艦には核兵器があるのか

 原子力潜水艦には、核兵器を搭載するものもあれば、搭載しないものもある。冷戦時代に確立された米国の「三大核戦力」(Nuclear Triad)は、地上から発射する大陸間弾道ミサイル(ICBM)、海中から発射する潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、空中で戦略爆撃機が投下する核爆弾を指す。

 三大核戦力は、敵の先制核攻撃を受けても生存して反撃するために、核兵器を地上(ICBM発射基地)だけでなく、海(戦略原子力潜水艦)と空(戦略爆撃機)に分散して配置したものだ。株式投資の際に「卵を一つのかごに入れるな」として分散投資を強調するのに似た理屈だ。

 このため、原子力潜水艦というと核兵器を連想する人が多い。しかし、米国が1954年に世界初の原子力潜水艦「ノーチラス」(USS Nautilus)を建造した理由は、核兵器の搭載ではなく、当時の米国とロシアを結ぶ最速の海上ルートである北極海を制するためだった。冷戦時代には米国がソ連の核攻撃に備えて北極圏に基地を運営するなど、北極海は冷戦の最前線だった。

 原子力潜水艦は最大速力で長期航海してもエネルギー供給には問題ないため、北極海まで最短時間に行くうえで有利だった。1958年にノーチラス号は北極の氷の下を通過し、北極点で水上に出ることによって、北極点で浮上した世界初の潜水艦になった。

 原子炉を動力に用いる米海軍の潜水艦は、「原子力潜水艦」(SSN)・「巡航ミサイル潜水艦」(SSGN)・「弾道ミサイル潜水艦」(SSBN)の3種類に分かれる。

 原子力潜水艦(SSN)は、米国がこの潜水艦を冷戦時代から水上の戦闘艦に対する攻撃用などに用いているため、「攻撃」という言葉が付き、「原子力攻撃型潜水艦」または「攻撃型原子力潜水艦」とも呼ばれる。これらの潜水艦には魚雷や巡航ミサイルのような通常兵器が用いられ、核兵器は搭載しない。巡航ミサイル潜水艦(SSGN)は核ミサイルではなく巡航ミサイルを搭載する。核兵器で武装した潜水艦は戦略ミサイル原子力潜水艦(SSBN)だ。米国が弾道ミサイルを搭載した弾道ミサイル潜水艦(SSBN)を初めて建造したのは1959年6月のことだった。

 韓国が建造しようとしている原子力潜水艦は、通常兵器を搭載した原子力潜水艦(SSN)だ。

3.潜水艦をとらえる潜水艦が最高なのか

 韓国が原子力潜水艦を持つ必要があるという主な論理は、北朝鮮の原子力潜水艦に対応するために必要だというものだ。北朝鮮の原子力潜水艦の脅威に最も効果的に対応するためには、韓国の潜水艦が北朝鮮の港の前で待ち伏せして、出港する北朝鮮の原子力潜水艦を追跡し、有事の際に撃滅することだ。しかし、現在のディーゼル潜水艦の潜航能力では、このような水中監視や追跡作戦を継続して遂行するためには限界があり、無限動力を備えた原子力潜水艦が必要だという話だ。

 李在明(イ・ジェミョン)大統領は先月29日の韓米首脳会談で、韓国が原子力潜水艦(SSN)を保有すべき理由として、「ディーゼル潜水艦は潜航能力が劣るため、北朝鮮側や中国側の潜水艦を追跡する活動には限界がある」と主張した。米国のドナルド・トランプ大統領は翌日、トゥルース・ソーシャルに「我々の軍事同盟はいつにも増して強力だ。これをもとに、彼ら(韓国)が現在保有している古くて機動性のはるかに劣るディーゼル潜水艦に代わり、原子力潜水艦を建造することを承認した」と投稿した。

 実際に冷戦時代、米国とソ連の潜水艦は、相手側の港に潜伏して出港する潜水艦を追跡し、米国の原子力潜水艦は、大洋でソ連の原子力潜水艦を探索攻撃する任務を遂行した。当時の米国の原子力潜水艦の活動舞台は大洋だった。原子力潜水艦は広い海域で長期間の作戦を遂行するのに適しているが、水深が浅く行動半径が狭い朝鮮半島水域での必要性には疑問があるとする原子力潜水艦導入に対する慎重論もある。

 第1次・第2次世界大戦を含むこれまで戦争史を調べてみると、水中における潜水艦同士の交戦の事例はない。第2次世界大戦時に米国と日本の潜水艦が、水上を航海中の相手側の潜水艦を撃沈した事例はあるが、潜水艦と潜水艦が水中で交戦したことはない。そもそも潜水艦は、水上の標的を攻撃するために建造されたものだ。水中で潜水艦同士が魚雷を打ち合うなどの息詰まる攻防を描いた場面は、映画ではしばしば登場するが、現実に起きたことはない。

 実際には潜水艦同士の水中での交戦の事例がないにもかかわらず、韓国内で「潜水艦をとらえるためには潜水艦が最高」という主張が格言のように定着した背景には、1980年代に北朝鮮の潜水艦の戦力が圧倒的に優位にあった状況が作用した。北朝鮮は1960年代に中国からロメオ級潜水艦を導入した後、1970年代に潜水艦を自主建造した。1980年代初期まで韓国海軍には潜水艦は1隻もなかった。

 1980年代初期に韓国海軍は「われわれにも潜水艦が必要だ」という主張を後押しする論理として、「潜水艦をとらえるためには潜水艦が最高」という主張を展開した。しかし、当時も海軍内部では、潜水艦と潜水艦が1対1で交戦する状況を想定していたわけではなかったという。水中では音波探知機で相手側の潜水艦を探知できる距離は2~3キロメートル程度であるため、潜水艦同士の水中での戦いが発生する可能性はきわめて低いからだ。

2025/11/02 23:19
https://japan.hani.co.kr/arti/politics/54624.html

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