欧州経済は累積したリスクの堤防が崩れる状況だ。ドイツ企業は生存のために工場閉鎖と大規模リストラを断行し、フランスは雪だるま式に増える国家債務のために格付けが落ちた。数年前から欧州連合(EU)が自ら問題の深刻性を認識して改革を試みてきたが、根本的に変わったものはない。
欧州が没落の道に入った根本的な原因は生産性の停滞にある。2008年の金融危機以降、米国はビッグテック企業を中心に破壊的な革新を繰り返してきたが、欧州は現実に安住した。これという人工知能(AI)企業が一つもなく、欧州国家は「AI革命は人間中心でなければいけない」とし、産業振興より規制を前に出した。米企業が果敢な構造調整と自動化投資で生産性を飛躍的に高める間、欧州企業は雇用維持制度に縛られた。変化を拒否して規制の城を築いた代償を欧州が支払っている。
問題は大韓民国だ。米経済学者ジェレミー・リフキン氏が2004年に出版した『ユーロピアンドリーム(The European Dream )』が影響を及ぼしながら、韓国は「生活の質」と「安定」を重視する欧州式モデルに批判なく憧れ、模倣してきた。エネルギー貧国にもかかわらず無理に「脱原発」を強行し、製造業とソフトウェア産業に依存する経済構造にもかかわらず競争国より過度に化学物質とAIを規制した。その結果、韓国は欧州より深刻な「規制ガラパゴス」に転落した。在韓欧州商工会議所(ECCK)さえも「韓国の規制はとうてい理解できない」と話すほどだ。
最も代表的な事例が化学物質規制だ。ECCKは2025年の白書で、気候エネルギー環境部の化学物質評価法と雇用労働部の産業安全保健法がそれぞれ異なる基準を出して重複で規制していると批判した。しかしこれは表面的な問題にすぎず、深刻なのは規制の波及効果だ。
政府は科学的評価力量もなく欧州を模倣して規制を乱発してきた。結局、海外企業が問題なく使用する必須化学物質を韓国企業だけが使用できなくなった。なぜそうするべきかの公論化もなく、評価結果も公開しなかった。外国系企業は海外で使用すればよいが、逃げるところがない韓国製造企業には致命的だ。解決策は関連部処の機能を統廃合して日本レベルに規制を緩和することだ。
来年3月の施行を控えた「黄色い封筒法」はそうでなくとも厳しい企業の立場では火に油を注ぐものだ。ECCKは下請け企業が元請けを相手に交渉を要求する「使用者範囲拡大」を心配するが、本当の問題は「労働争議対象の拡大」だ。経営活動の一部だけを遂行する外国系企業には影響が制限的だが、すべての経営判断が国内で行われる韓国企業には生存がかかる問題となる。黄色い封筒法は直ちに中断しなければいけない。
無分別な免責特権を与える代わりにドイツ式「労働理事制」導入を公論化すればどうだろうか。ドイツの場合、労働組合推薦の理事が経営に参加するものの、会社に損害を与えれば明確に法的責任を負う。今のように労働組合が権利だけを主張するのではなく責任も共に負うことになれば、さらに合理的になり持続性が増す。問題は実行だ。政府が強硬な労働組合に振り回されて自ら規制を改革できなければ市場が審判することになるだろう。
最近のウォン安ドル高は単に対外変数のためだけではない。金利を引き上げることができない韓国の厳しい経済現実を市場が看破し、ウォン安にベッティングした結果だ。黄色い封筒法が施行されて産業現場で混乱が生じれば、ウォン安はさらに進む。外国系企業の「コリアエクソダス」が始まれば韓国ウォンは急激に下落する。
韓国は基軸通貨国の欧州とは状況が異なる。欧州経済が厳しいとはいえ、ユーロは対ドルで過去5年間に4.39%値下がりしただけで、韓国ウォンの35.5%とは比較にならない。欧州は経済が不振でもユーロが持ちこたえるが、韓国ウォンは信頼を失えば限りなく下落する。欧州を夢見ながら規制の壁にとらわれて革新を拒否すれば、欧州のような成長停滞レベルではなく、韓国経済が沈没する可能性があることを忘れてはならない。
クァク・ノソン/延世大客員教授/韓半島先進化財団技術革新研究会長
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2025/12/19 11:41
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