北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が先月25日から29日まで公開活動を5日間中断した。先月は北朝鮮が労働党創建80周年(10月10日)を迎えて各種行事で忙しかった時期だ。行事のハイライトの閲兵式(軍事パレード)には中国の李強首相、ロシアのメドベージェフ安全保障会議副議長らが出席した。ベトナム最高指導者のトー・ラム共産党書記長、ラオスのトンルン・シースリット国家主席も平壌(ピョンヤン)を訪問した。金委員長は彼らと会談し、協力関係を拡大することを約束した。
金委員長は党創建80周年を契機に外縁を拡大し、同時に武器展示会「国防発展-2025」、平壌(ピョンヤン)総合病院竣工式など先月だけで27回の公開活動をした。こうした忙しい日程の中で5日間も外部活動を中断したのは何か悩む時間が必要だったのではという推定が可能だ。金委員長は過去にも韓国や米国との首脳会談などの決断を控えて姿を現さないことがあった。
◆最後まで会談を悩んだ金正恩委員長
目を引くのは先月末の金委員長の公開活動中断がトランプ米大統領のアジア訪問日程と重なっている点だ。トランプ大統領が先月24日(現地時間)にワシントンを出発する際、「金正恩委員長と会いたい。彼も我々がそこに行くことを知っている」と明らかにした直後から活動を中断し、トランプ大統領が韓国を離れた後に公開活動を再開した。トランプ大統領はマレーシア、日本、韓国などアジア諸国を訪問しながら北朝鮮を核国家(nuclear power)と表現したり、自分には対北朝鮮制裁カードがあると強調したりした。金委員長が9月21日の最高人民会議で「(米国が北朝鮮の)非核化を放棄すれば向き合えない理由はない」と発言した演説や、2019年2月にハノイで開かれた朝米首脳会談で対北朝鮮制裁解除を強く望んでいた点を意識したものと考えられる。トランプ大統領は訪韓日程(10月29、30日)の延長を示唆しながらラブコールを送ったが、結局、不発に終わった。
機会があるたびに朝米首脳会談に言及したトランプ大統領は2019年6月、自身のSNSへの投稿で金委員長が板門店(パンムンジョム)に駆けつけた記憶が浮かび上がったのかもしれない。当時、トランプ大統領は日本を離れる前、自身のツイッターに「私はあす板門店に行く。時間の都合がつけば会おう」と投稿した。金委員長は板門店に駆けつけて略式首脳会談が行われた。板門店会談は即興的のように見えたが、トランプ大統領はすでに数日前、米国務省高官に会談の可能性を打診したという。国務省は短い時間と北朝鮮と接触する適切なチャンネルがないという理由で現実性が落ちると報告した。トランプ大統領は中央情報局(CIA)チャンネルを動員した。CIAは板門店に国連軍司令部と北朝鮮軍部間のホットラインを活用すれば北朝鮮との接触が可能だと伝えた。CIAの分析は的中し、北朝鮮は「文在寅(ムン・ジェイン)大統領が出席しないなら会える」という条件を提示して接触に応じた。
今回もトランプ大統領のラブコールを控えて、同チャンネルなどで北朝鮮との接触があったかどうかは確認されていない。ただ、国家情報院は4日、国会情報委員会の国政監査で北朝鮮がトランプ大統領との首脳会談を最後まで悩んだと把握していると報告した。朝米関係のコントロールタワーの役割をする崔善姫(チェ・ソンヒ)北朝鮮外相のロシア・ベラルーシ出張(先月26~28日)の調整を検討し、北朝鮮は首脳会談が開かれる場合にトランプ大統領と同席する米国側実務陣の性向分析をした状況が把握されたという。崔善姫外相が専用機を利用してロシアに行ったという点も、金委員長が決心させすれば直ちに復帰できる状況だったことを示唆する。
◆金正恩にトランプは「捕まえた」ウサギ?
トランプ大統領の訪韓期間に金委員長と会談が実現したとすれば、全世界のメディアの照明がここに集中した可能性が高い。米CNN放送をはじめ主要メディアは会談場所に挙がった板門店近隣の臨津閣(イムジンガク)で生放送の準備をしたという話もある。2023年末以降、南北関係を「敵対的な二つの国家」と規定した北朝鮮の立場では、朝米首脳会談が慶州(キョンジュ)開催のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の意味を弱め、金委員長が主演になることができる機会と考えたかもしれない。すでにトランプ大統領が公開的に北朝鮮の核を間接的に認め、対北朝鮮制裁解除を示唆する発言までしたため、金委員長としては念願がかなうと考えた可能性もある。北朝鮮が内部的に世界最強大国の指導者であるトランプ大統領が北朝鮮に求愛し、金委員長がこれに応じたというような宣伝をすることも可能だった。トランプ大統領の気をもませる過程だけでも金委員長がハノイの屈辱を晴らす機会だった。北朝鮮としては朝米首脳会談が開かれることだけでも「儲かる商売」だったということだ。
それでも金委員長がこうした儲かる商売に出なかった背景は何か。
まず、北朝鮮は当面の利益に劣らず対中関係を考慮するしかないのが現実だ。北朝鮮は現在、ロシアを後ろ盾にして国際政治および経済的に足元の火を消している。しかし北朝鮮にとって中国の後援と支援は絶対的だ。ところが習主席がAPECに出席して米国と世紀的な談判を進める過程で金委員長が照明を受ければ中国の立場ではうれしいことではない。いくら自主と主体を前に出す北朝鮮でも中国を意識するしかないということだ。
さらにトランプ大統領がすでに公開的に北朝鮮をニュークリアパワーと表現し、対北朝鮮制裁解除カードを取り出しただけに、あえて金委員長が交渉の場に出る必要性も減った。ノーベル平和賞や任期が決まっているトランプ大統領の立場を考慮すれば、トランプ大統領が韓国に来る前に言及した求愛過程ですでに北朝鮮は得られるだけ得たということだ。北朝鮮の立場ではトランプ大統領との会談を次の機会に先送りする場合、条件をさらに高めることができるという、すなわち核保有国や対北朝鮮制裁解除を既成事実化した後に協議に入ることができるという計算がある。
トランプ大統領は韓国を離れながら「私はまた来る。金正恩委員長と関連してはまた来る」とし、金委員長との会談に最後まで未練を見せた。トランプ大統領は忙しかったという理由を挙げたが、結果的に体面を損なうことになった。もしかすると北朝鮮はこの結果を核とミサイルカードのおかげだと考え、「我々の銃槍の上に平和がある」という自分たちの歌詞を思い出したかもしれない。しかし2028年に米大統領選挙が行われる点を考慮すると、トランプ大統領と対話できる金委員長の時間は今後2年余りにすぎない。
チョン・ヨンス/統一文化研究所長/論説委員
2025/11/20 11:04
https://japanese.joins.com/JArticle/341254