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-トランプは明示的に勢力圏秩序を追求しているとみなせるのか。
「みなせる。少なくともグリーンランドから南米へと続く西半球ラインでは明白だ。トランプがグリーンランドの購入に言及したり、パナマ運河の管理権に関心を示したりしたことは、典型的な商業的帝国主義(Commercial Imperialism)の発想だ。彼の頭の中では、全世界を米国の安全保障の傘の下に置くというのは損する商売だ。西半球は伝統的に複数の競合する地域覇権が登場しなかった唯一の大陸だ。したがって、西半球は確実な米国の勢力圏として固め、東アジアや東欧などの残りの地域は米国の安全保障資産を引き上げるか、縮小しようとするだろう。もし中国が台湾を、ロシアがウクライナを勢力圏化したいのであれば、米国はそれを道徳的規範で止めるのではなく、『いくら出すのか』という取引の対象にする可能性が高い」
-勢力圏秩序へと回帰すると、弱小国の主権の侵害や領土併合が頻繁に起こることが非常に懸念されている。なぜなのか。
「勢力圏秩序の本質は、まさに大国同士の談合だからだ。チャーチル(英国)とスターリン(ソ連)がバルカン半島を紙1枚で分割した1944年の『パーセンテージ協定』や、1905年に米国と日本がフィリピンと朝鮮の支配権を互いに容認した『桂・タフト協定』が代表的な歴史的証拠だ。勢力圏秩序が危険な理由は大きく分けて3つある。1つ目。大国の力は常に変化するからだ。勢力圏は固定的だが、大国が大きくなったり小さくなったりすると、結局は身の丈に合わない服のように、服を引き裂いたり他人の服を奪おうとしたりといったことが必然的に起こる。核兵器の登場により大国同士の全面戦争が難しくなったことで、結局のところ残る選択肢は、勢力圏の境界線にある弱小国がスケープゴートになることだ。勢力圏秩序が登場すると、弱小国は最悪の状況に追い込まれるのだ。2つ目。民族、宗教、イデオロギーの境界は曖昧なため、大国にとって介入の正当性が常に存在するから。代表的な例として、ヒトラーがチェコスロバキアのズデーテン地方を併合する際に掲げた『迫害されている同胞の保護』という論理があげられる。『失地回復主義(irredentism)』と呼ばれるが、勢力圏秩序ではこのように自国民や同じ民族の安全を口実に他国の主権を侵害する行為が正当化されやすい。3つ目。最も重要でありながらこれまで見過ごされてきたことだが、勢力圏内の弱小国の内部では革命と内戦が構造化するからだ。勢力圏秩序は必然的に、大国の利益に奉仕する傀儡(かいらい)政府を登場させる。これは反作用として外国勢力を倒し、売国勢力を放逐して純粋な自主国家を築こうという革命的民族主義や反体制運動を強く刺激する。内部の抵抗が強まれば強まるほど、大国は既得権を守るために武力で介入し、結果的に残忍な虐殺や惨酷な代理戦争に至る可能性が非常に高まる」
-第1次、第2次世界大戦直前の秩序も勢力圏秩序だったが、それが戦争の原因だったと考えているということか。
「その通りだ。米国のウィルソン大統領は第1次世界大戦の原因を欧州列強の複雑に絡み合った同盟関係と秘密外交、つまり勢力圏秩序に求め、それを打破するために集団安全保障を提唱した。フランクリン・ルーズベルト大統領も第2次大戦中、チャーチルとスターリンが追求した古い勢力圏分割方式に絶えず抵抗し、4強(米英ソ中)が協力する集団安全保障秩序を夢見た。しかしルーズベルトはヤルタ会談などを通じて最終的に大国が改めて勢力圏を分け合う現実と妥協。ルーズベルトの突然の死後、その不完全な縫合は冷戦という緊張状態へとつながった。勢力圏を拡大しようという大国の欲望が衝突した時に世界大戦が勃発したということは、否定しえない歴史の教訓だ」
-アジアでは台湾問題が焦眉の関心事だ。中国の台湾併合の可能性と韓国の対応は?
「米国の意志が最も重要な変数だが、韓国と日本にとっては関与の脅威と放置の脅威が同時に存在する。最も懸念されるシナリオは、米国が台湾防衛を韓国と日本に『アウトソーシング』するというもの。米国が取引的な観点から台湾問題に消極的になり、中国がそれをチャンスとみて武力統一を試みれば、民主主義の価値観を共有し、かつ海上交通に生存を依存する韓国と日本は、大きなジレンマに陥るだろう。米国が後退した状況で韓国が中国の脅威に抗して台湾を防衛するというのは、現実的に非常に難しいが、人道的災厄を傍観するわけにもいかない状況になる可能性がある。このような米国の責任転嫁戦略こそ最悪であるため、それに対する精緻な備えが必要だ」
-トランプの一方的な国際規範破壊により、国際秩序は混乱に陥っている。この逸脱は取り返しのつかない水準だと思うか。
「非常に危険な状況だ。国際秩序の主導国の力は軍事力だけでなく、その国の政治システムに対する信頼、つまり国内的な正当性から生じる。トランプ政権が司法府、連邦準備制度、軍、情報機関の中立を傷つけると、米国のシステムそのものへの信頼が傷つく。結局のところ、カギとなるのは2026年の中間選挙であり、現段階では3つのシナリオが予想できる。1つ目。最も極端なケースで、国内でのテロの脅威や反乱法(Insurrection Act)の発動を大義名分として中間選挙そのものが延期または中止されるというもの。もしそのようなことが起きると、米国の民主主義は今後かなりの期間、回復の難しい暗黒時代に突入するだろう。2つ目。選挙が正常に行われたとしても、民主党が上下院いずれも奪還できないケース。抑制装置がなくなった権力の暴走により、米国民主主義の侵食は加速するだろう。3つ目。民主党が下院か上院を取り戻し、最低限のけん制とバランスを回復するケース。幸い、現時点ではこの第3のシナリオの可能性が相対的に最も高いと思う。ミネソタの市民が示した驚くべき市民精神は、米国有権者に大きな衝撃を与えたと思う。有権者のけん制心理が働き、議会権力が分散されれば、それは崩壊した自由主義国際秩序と米国民主主義の復元の糸口となりうるはずだ」
-先日、カナダのカーニー首相は米国の脅威への対応での中堅国の連帯を提案し、注目を集めた。米国なき自由主義国際秩序の確立は可能か。
「努力はすべきだろうが、現実的には非常に難しい。自由主義国際秩序は無政府状態で機能するため、ルールだけでは維持できないし、必ず力(秩序の主導国)の下支え、または力による妨害がない状態が必要になるからだ。19世紀の英国の覇権期のように、米国が消極的に傍観するだけであれば別だが、現在の米国は自らを排除した新たな秩序の形成を傍観することはないからだ。それを最も露骨に示しているのが、国際通貨基金(IMF)の意思決定構造だ。IMFで重大な決定を行うには、85%以上の賛成が必要になる。しかし米国は約16.5%の投票権を独占している。つまり、他のすべての国が賛成しても、米国が反対すればどんな議案も可決できない。これこそ米国の持つ『単独拒否権』だ。一方、世界第2位の経済大国である中国の投票権は約6%に過ぎない。中国が経済規模にふさわしく投票権を拡大しようとしても、拒否権を握る米国が自らの影響力の縮小を意味する改革案に同意することはあり得ない。構造はやや異なるが、世界貿易機関(WTO)も似たような状況だ。結局、米国が同意しない限り、新たな秩序の確立も、既存の秩序の改革も不可能な構造になっているのだ」
-転換期の国際秩序の下で生き残っていくために、韓国はどのような選択をすべきか。
「今は自強と柔軟性が生存のカギだ。現在の国際情勢は波が非常に高く、風向きが頻繁に変わる荒れた海のようなものだ。このような状況で船の舵(かじ)を急激に切ると、転覆する危険性が高い。韓国は憲法精神(自由民主主義、市場経済)という羅針盤を手放さないようにする一方、波に乗るような柔軟な外交が必要だ。やみくもに列に並ぶのではなく、事案ごとに国益を最大化するとともに、価値観を共有する国々と連帯して、勢力圏秩序の野蛮さを最小化する戦略的空間を確保すべきだ」(了)
2026/02/04 06:30
https://japan.hani.co.kr/arti/politics/55367.html