大韓民国経済の巨大艦船、サムスン電子が労使紛争という氷山に衝突した。サムスン電子の半導体ファブ(fab)内部では、3~4カ月間工程にあった数万枚のウェハが生産ライン外の窒素タンクへ移されるバンキング(Banking)作業が緊迫して進められている。ストライキ時の人員空白によってウェハ全量が一瞬で産業廃棄物に変わる惨事を防ぐための切迫した非常措置だ。
最近、サムスン電子は競争力を完全に回復しつつある。歩留まり1%の改善が年間数兆ウォンの利益を左右する半導体産業において、事実上「奇跡的反騰」といえる。これは世界一のサムスン半導体の自尊心を回復しようとする役職員の血のにじむ努力と犠牲の結果だろう。しかし最悪のシナリオ通り18日間のストライキで製造ラインが全面中断すれば、工程安定性が崩れ、歩留まり回復に数カ月を要する。業界は直・間接損失が最大100兆ウォン(約10兆5500億円)に達し、ストライキ終了後の正常化までさらに2〜3週間かかると推定している。1700余りに上る協力企業の被害は想像すらできない。サムスン電子側はストライキが起きても生産支障が発生しないよう非常体制で対応するとしているが、7万3000人に達する組合員を抱える超企業労組のストライキ規模は2024年に全国サムスン電子労働組合が主導したストライキとは比較できない水準だ。
半導体製造は一般製造業の組立ラインとは次元が異なる。生産ライン一つを構築するのに数十兆ウォンの天文学的費用がかかり、技術変化が非常に速く、止まれば淘汰されるため継続的な投資が不可欠だ。2023年に最悪の不況が襲い、サムスン電子は半導体部門で15兆ウォンもの赤字を出した。その厳しい状況でも歯を食いしばって耐えた投資があったからこそ、爆発的な業績反騰を実現できた。
半導体覇権をめぐる歴史は、誰も永遠の勝者になれないという教訓を与えている。1980年代に世界半導体市場を席巻した日本は、技術開発と投資遅延の悪循環によって韓国と台湾に主導権を奪われた。米国のインテルもモバイルと人工知能(AI)への転換に適応できず主導権を失った。技術覇権競争が激しい市場でサムスン電子が一時の収益性に酔い、研究開発や設備投資に使うべき財源を過度な賃上げや成果給に費やすなら、その未来は十分に予見できる。
最も恐ろしいのはグローバルサプライチェーンから永久に脱落する可能性だ。エヌビディア(NVIDIA)やアップル(Apple)などビッグテック顧客にとってサムスンは「無欠点・適時供給」の象徴だった。しかしストライキという変数が常在する供給先は最優先パートナーになり得ない。顧客がリスク分散のため注文を海外競合へ回した瞬間、その損失はストライキが終わった後も回復できない機会損失となる。駐韓米国商工会議所(AMCHAM)まで今回のゼネストに懸念を示したという事実は、この事態が韓国の対外投資信頼度全般を揺るがす問題へ拡大していることを示す。
すでに始まったウェハ保管作業は、大韓民国経済エンジンに赤信号がともったことを知らせる警告灯だ。政府と会社側の切迫した対話提案も労組は拒否している。今や政府が応答する番だ。ストライキが実際に強行されファブの稼働率が急落する前に、政府は緊急調整権の発動を含む積極的な仲裁に乗り出さなければならない。半導体が国家経済に及ぼす影響を考えれば当然の決定だ。半導体は大韓民国全体輸出の35%(今年1-3月期基準)を占める最大品目だからだ。
労使自律という原則が大韓民国経済の共滅を幇助する道具になってはならない。労働組合法第76条に明示された緊急調整権は、このような国家的非常事態を防ぐために法律が付与した最後の安全装置だ。半導体はもはや一企業の商品を超え、大韓民国経済を守る「シリコンの盾」であり国家安全保障資産だ。
労働の価値は尊重されるべきだが、460万株主と全国民の経済的生命線を握って揺さぶる闘争はその正当性を失った。破局を防ぐための政府の断固たる決断だけが、我々の半導体産業のゴールデンタイムを守る道だ。競争国が内部対立を嘲笑し背後で拍手する光景を看過してはならない。
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キム・ヒョンジュン/ソウル大学名誉教授・次世代知能型半導体事業団長
2026/05/19 15:14
https://japanese.joins.com/JArticle/349291