トランプ米政権が、サウジアラビアと事実上の核保有につながる可能性のある破格的な条件の原子力協定を締結したことで、中東の秩序に混乱が予想される。核開発を阻止できる「安全ピン」が不十分だという批判の声があがる中、米国と戦争中のイランの「反発」や、サウジアラビアと競合するアラブ首長国連邦(UAE)の核保有の試みなど、様々な懸念が浮上している。
米国のライト・エネルギー長官とサウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相が22日(現地時間)、原子力協定と二国間安全措置協定に署名したと、米エネルギー省が公式発表した。同省は「高い水準の核安全、核セキュリティ、核不拡散基準を維持する」と説明した。
しかし、安全装置は不十分だ。米国は2年間の共同研究を通じて妥当性が実証されなければならないという前提を付けたものの、サウジアラビアに対し、ウラン濃縮および使用済み核燃料の再処理を行う道を開いたものとみられる。これは極めて異例のことだ。米国は日本や欧州の一部の国々と、ウラン濃縮などを認める原子力協定を結んでいるが、これらの国々はすでに濃縮技術を保有していたか、事実上濃縮活動を行っていた状態だった。
ニューヨーク・タイムズ紙は、今回の協定を、中東戦争が長期化する中、サウジアラビアを米国主導の秩序に縛り付けるための試みだと分析した。10年以上かかる原子炉の建設や、その後行われる原子力技術の移転などを通じて、両国間の安全保障および商業的な絆は長期にわたり強化される可能性がある。ブルームバーグ通信は、サウジアラビアが米国に強い不満を抱いているタイミングで提示された「アメ」だと評した。イランによる集中的な報復やホルムズ海峡の封鎖により、経済的な不満が蔓延しているサウジアラビアを、核協定で報いようとしたというのだ。最近、サウジアラビアは不拡散の制約条件を課さない中国の原発技術導入を打診し、米国に圧力をかけていた。サウジアラビアが米国ではなく中国と原発契約を締結した場合、米国の中東における影響力に大きな打撃を受けるものと予想される。
イランを孤立させるために第1次トランプ政権が推進した中東政策である「アブラハム合意」が、米国とイランの戦争に伴い機能しなくなったため、その終着点であるサウジアラビアを核で誘引したとの分析もある。トランプ大統領が進めたアブラハム合意により、2020年にイスラエルがスンニ派諸国であるアラブ首長国連邦(UAE)やバーレーンなどと国交を樹立し成果を上げたものの、スンニ派の盟主に当たるサウジアラビアの署名を得ることはできなかった。その後、アブラハム合意は、サウジアラビアの核開発要求やガザ戦争、今年2月末のイラン戦争の勃発により、事実上崩壊の危機に陥った。これを受け、トランプ大統領が原子力協定を「アメ」として差し出すことで、サウジアラビアをなだめようとしたというのだ。
今回の協定は、中東全域に広範な波及効果をもたらすものとみられる。何よりも、米国は終戦交渉を進めているイランの核開発を抑制する上で、さらに困難に直面する可能性がある。イランが米国との終戦交渉において、核問題に関してサウジアラビアと同等の条件を要求する可能性があるためだ。トランプ政権はこれまで、イランとの終戦交渉において、イランが保有する高濃縮ウランの廃棄はもちろん、今後のウラン濃縮も認めないという原則的な立場を示してきたが、イランのライバルであるサウジアラビアに対しては、ウラン濃縮などを許可するという相反する態度を示している。
周辺の中東諸国の核開発を刺激する「パンドラの箱」が開かれるのではないかという懸念も高まっている。現在、中東ではイスラエルとパキスタンが「事実上の核保有国」である上、イランが核保有を推進しており、トルコやエジプトなどもその動向を注視している。サウジアラビアに対する米国の優遇措置に対し、エジプトやアラブ首長国連邦などが不満を表明し、対等な要求を行うものとみられる。特にアラブ首長国連邦(UAE)は、2009年に米国と結んだ原子力協定において、恒久的に独自の核燃料生産を放棄し、厳格な核査察を受けることに合意しているが、サウジアラビアと影響力争いを繰り広げているUAEとしては、サウジアラビアへの優遇措置を黙って見過ごすことはないだろう。
ヘンリー・ソコルスキー元米国防総省核政策担当官はニューヨーク・タイムズ紙に対し、「イランの核開発を受けてサウジアラビアに核燃料生産権を与えたことは、火で火を消すようなものだ」とし、「誰もが核拡散の連鎖反応を懸念しており、これは行き過ぎだ」と述べた。紛争が蔓延する中東に、核拡散の連鎖反応を引き起こす潜在的な要因を追加したという指摘だ。
2026/07/24 10:19
https://japan.hani.co.kr/arti/international/56790.html