今年2月の衆議院選挙で自民党が大勝したことを受けて開かれた特別国会が7月25日に閉幕した。高市早苗首相は国民の大きな支持を受けて再任されたのだが、この国会での政策決定を見ていると、民意と首相の乖離が大きく広がっていることを痛感する。
まず、日本が置かれた現状を確認したい。日本経済にとっての最大の問題は、円安である。2010年代初めは、1ドル=100円程度であった。輸出立国だった日本では、円安は経済にとって追い風になるという思い込みが経済界で共有されていた。2012年末に発足した第2次安倍晋三政権は異次元金融緩和によって円安を進めた。昨年秋に高市政権が発足した時には1ドル=140円台後半だったが、最近では1ドル=160円台前半が定着している。
円安は確かに輸出で稼いでいる大企業の収益を増やし、株価上昇をもたらした。しかし、この間実質賃金はほとんど上昇していない。企業の利益を社会全体に還元するメカニズムが壊れたところで円安を進めても、一般の人々には恩恵は広がらない。むしろ、食料とエネルギーを輸入に頼る日本では、円安は物価上昇をもたらし、人々の生活苦が増す結果である。
今年に入って急速に進んだ円安は、日本の経済、財政に対する不信の現れである。日本政府の債務残高は1300兆円あまりで、GDPの2年分である。人口減少は加速し、社会保障の支払いは増える一方で、労働力人口は減少し、稼ぐ力は低下する。貿易黒字の稼ぎ頭だった自動車産業はEV化に乗り遅れ、これからの苦戦が予想される。要するに、日本が先進国から滑り落ちる瀬戸際に来ているのである。エコノミストの中には、これからさらに円安が進み、1ドル=200円を予想する声もある。長年の金融緩和路線の中で日銀が政府に従属するようになり、機動的な金利政策の自由を失っていることも、円安予想の根拠となる。そうなると、石油価格の上昇も相まって、国民の窮乏化はさらに進む。
こうした危機について、国民も関心を持つようになった。内閣府が毎年行っている「社会意識に関する世論調査」によれば、「社会全体に対する満足度」について、2010年代前半からの10年間は、満足が60%、不満が40%程度で、人々は日本の現状を肯定していた。しかし、この2年の調査を見ると、満足と不満がほぼ拮抗している。20代から40代の若い世代では、不満が60%程度、満足が40%程度と逆転している。また、「悪い方向に向かっている分野」については、物価、財政、景気、経済力の4項目が上位を占め、半数以上の国民が懸念を持っている。
本来、選挙で大勝した高市政権は、国民のこうした危機感に応えて、経済と財政の持続可能性を保つための政策を進めなければならないところである。しかし、この政権が国民の疑問や反対を無視して推進したのは、権威主義やナショナリズムのイデオロギーを追求する法律であった。特に、改正された皇室典範は、国民が期待する女性天皇の誕生を明確に防止するためのものであった。男尊女卑のイデオロギーが2020年代の日本で固定化されたということができる。
高市政権の次の課題は、消費税減税に関する決着である。高市首相自身、2月の衆議院選挙の際に食料品の消費税減税を公約した。各党を集めた国民会議では国会開会中に結論が出ず、高市首相の決断にゆだねられる形となった。財源の確保がないまま減税を決定すれば金融市場から日本の財政の信用低下という評価を受け、金利上昇、一層の円安などの問題をつくり出すことになる可能性がある。他方で、減税を見送れば、公約違反として世論の批判を受けることになる。就任以来高い支持率を誇ってきた高市政権は、この1、2か月、支持率低下に直面している。高市首相は、市場からの不信任と、国民からの支持の低下という2つの問題の板挟みになっている。まさに、高市首相の政権担当能力が問われる状況である。支持率の上下に一喜一憂するのではなく、日本の難問に向き合うことこそ、リーダーの務めである。
山口二郎|法政大学法学科教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
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