薬が効果を発揮するには、体内の標的という鍵穴に、鍵のようにぴったり合わなければならない。ところが薬の分子の多くは、左手と右手のように鏡に映したような左右が逆の二つの形で存在し、そのうち片方だけが鍵穴に合う場合が多い。今年のノーベル化学賞は、このように望み通りの「鍵」となる分子をより多く作り出す道を開いた二人の化学者に贈られた。
スウェーデン王立科学アカデミーは7日、アンリ・カガン・仏パリ南大学(現パリ・サクレー大学)名誉教授(95)と、硤合憲三・東京理科大学名誉教授(76)を受賞者に選んだと発表した。両氏の研究成果は、より安全な薬を作る技術の基盤になっただけでなく、香料・農薬・新素材を作る化学反応を設計する上で核心的な道具となった。
左手と右手のように二つの形で存在する一部の分子は、見た目には差が小さいように見えても、体内では互いに異なる作用を示すことがある。片方は薬効を発揮するが、もう片方は効果がなかったり、副作用を引き起こしたりする。1960年代初め、妊婦が服用した鎮静剤サリドマイドにより数千人の子どもが奇形を持って生まれた事件は、分子の立体構造がいかに重要かを示した代表的な例だ。
問題は、こうした分子を通常の方法で合成すると、二つの形がほぼ半々に混ざってできる点にある。このため、必要な分子の形を選んで作ることが、化学界の長年の課題となっていた。
カガン教授がその突破口を開いた。1986年、触媒を構成する分子のうち一方の形がわずかに多いと、反応生成物ではその差がはるかに大きく現れることを発見した。出発点の小さな差が結果の大きな差につながる「非線形効果」だ。触媒を調整し、望む分子をより多く作る道を開いた。
硤合教授はそこからさらに一歩進めた。できた分子が、自分と同じ形の分子を作るのを助けるようにしたのだ。例えば「左手型」の分子が別の左手型分子の生成を助け、新たにできた分子が再び反応を促進する―という仕組みだ。当初は一方の形がもう一方よりわずか0.00005%多いだけだったのに、3回の反応を経ると、偏りの比率は99.5%以上に高まった。63万倍に増幅されたことになる。いわゆる自己触媒反応で、「硤合反応」とも呼ばれる。
両氏の発見は、薬を作る技術を超え、生命の起源を理解する手掛かりも与えた。生命体を構成する核心的な分子は、二つの鏡像のうち片方の形だけを用いる。タンパク質を構成するアミノ酸と、DNAを構成する糖が代表例だ。これはギリシャ語の「同じ」と「手」を合わせて「ホモキラリティー」と呼ばれる。実験室では二つの形が半々に作られるのに、生命体はどのようにして片方だけを使うようになったのかは、100年以上にわたる謎だった。
2001年に不斉触媒合成の研究がノーベル化学賞を受賞した際、受賞者リストから外れていたカガン教授は、25年を経てついに栄誉を手にした。
日本は昨年の北川進・京都大学教授に続き、2年連続でノーベル化学賞受賞者を輩出した。生理学・医学、化学、物理学など科学分野の日本出身のノーベル賞受賞者は28人に増えた。ノーベル賞全体では、日本でまれ外国籍を取得した3人を含め、日本人個人として31回目の受賞となる。
2026/10/08 09:43
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