習近平主席はなぜ「韓国は中国の一部だった」と言ったのだろうか

投稿者: | 2024年8月29日

 「中国の習近平国家主席は中国と韓国の歴史について話した。北朝鮮でなく韓国だ。数千年の歴史と多くの戦争を語った。(…)韓国は歴史的には中国の一部だったと言った」

 米国のドナルド・トランプ前大統領が2017年4月、米国フロリダ州マー・ア・ラゴ・リゾートの別荘で、中国の習近平国家主席と首脳会談を行った後のインタビューで明らかにした内容だ。習近平主席は本当にそのような話をしたのか、その時はあまり信じられなかった。トランプ前大統領の「たわごと」だと感じた。

 しかし、そのころから中国の歴史教科書も変わり始めた。中国教育部が2018年に発表した新教育過程に基づき歴史教育の内容を規定した「中外歴史綱要」の上巻(中国史)が2019年に、下巻(外国史)が2020年に発行された。これによると、中国と朝鮮半島の長い歴史的関係は「宗藩体制」で概念化された。政治、文化制度的に優れた「宗主権」を持っている帝国中国と、その文化をそのまま借用して服属した非自主的「属国」の朝鮮半島の王朝の関係だと規定したのだ。

 また、中国の歴史を様々な民族を統一して帝国を形成してきた歴史と叙述し、自国と周辺国との歴史関係を「大国と小国」の関係に置き換えることによって、東アジア地域の秩序全般に対する中国の「大局的介入」を正当化する論理が強調された。「中国の歴史の深化学習教材は、韓国の政治制度から日常文化に至るまで、中国の制度と文化をコピーしていないものは存在しないかのように叙述し、朝鮮戦争への参戦は、地域の平和と秩序の責任を負わなければならない大国としての義務感から始まったものだと記している。韓服やキムチの元祖論争は、このような教科書の叙述の延長線上にある枝葉的な現象にすぎない。中国の大国化戦略によって、帝国的歴史認識がよりいっそう深刻化することを例示している」(オ・ビョンス編『韓中歴史教科書対話』東北アジア歴史財団)

 まずは、歴史をさかのぼってみよう。学者らは、中国の明・清と朝鮮の間の朝貢冊封関係は、実際には「政治的儀礼」だったと分析する。「朝鮮などの周辺国は、中国に定期的に朝貢を捧げ、中国はその統治者を冊封する儀礼を通じて、周辺国は中国中心の地域秩序に順応するという意思を表明し、中国はその内政に干渉せず、有事の際に援助するという意志を確認したのだ。これを通じて朝鮮半島の王朝は、中国の王朝との長期間にわたる平和共存を実現し、内政と外交で事実上『完璧な自主権』を享受できた」(キム・ジョンハク『興宣大院君評伝』)。エール大学のオッド・アルネ・ウェスタッド教授も『帝国と義の民族』(Empire and Righteous Nation)で「朝鮮の事大は、明や他の外敵の朝鮮半島に対する干渉を防ぐ手法」だったと記した。朝鮮半島の王朝は、規模や人口などが圧倒的な中国と地理的にきわめて近かったため、「政治的儀礼」で中国の秩序に順応する姿勢を表現する代わりに、現実政治では自主権を守り、中国に吸収されない外交術を発揮したのだ。

 ところが、今の中国が朝鮮半島との伝統的関係を規定する際に強調する「属国」「宗主権」や「宗藩体制」などの用語は、20世紀以降の脈絡で歪曲され、意図的に「再創造」されたことを留意しなければならない。

 外交史を研究するソウル大学政治外交学部のキム・ジョンハク教授は「前近代には属国は朝貢国とほぼ同じ意味で使われたが、19世紀に『主権の有無』を重視する西洋国際法が新たに入ってくると、『主権を持つことができなかった国』または『上位の主権を持っている中国が干渉や介入できる国』に属国の意味が変質した」と分析する。また、「宗主権という用語は、前近代期には存在しなかった20世紀に作られた言葉だが、今ではそれで過去の歴史を再解釈する状況が広がっている」とした。「宗主権」という用語は、19世紀末にオスマン帝国とその版図から離れたエジプトやセルビアなどの関係を宗主国(suzerain state)‐封臣国(vassal state)で説明する欧州列強帝国主義の用語が、日本の翻訳を経て清で使われ始めたものであるにもかかわらず、今では中国が「意図的に」これを復活させているということだ。

 「韓国は歴史的に中国の一部だった」という認識を強化する中国の新たな歴史の作成の背景には、中国の新たな東アジア秩序の作成がある。東国大学のオ・ビョンス研究教授は、このような変化を、歴史教育の次元だけでなく、強大国として浮上した中国が周辺国との関係を帝国的認識に変えていこうとする国家戦略の変化や、「帝国の再構成の過程」だとみなすべきだと強調する。キム・ジョンハク教授も「富強化した中国の東アジア戦略やこの地域で新たに覇権を独占しようとする欲望が、過去の歴史の再解釈と絡み合っている」と指摘した。

 19世紀末にも、中国は朝鮮半島で新たな「秩序」の作成を試みたことがあった。ソウル大学歴史学部のキム・ヒョンジョン教授は、6月にソウル大学歴史研究所での講演で、清が19世紀の朝中関係で「天朝上国の便法外交」を試みたと分析した。中華帝国は自らを「天朝」や「天朝上国」と示して天下を統治すると考えていたが、1880年代に西欧と日本の帝国主義勢力と向き合うことになると、このような世界観はもはや維持されなくなった。このような状況のもとで清帝国は、伝統的な天朝体制と近代条約体制の隙間を利用した便法外交を朝鮮に一方的に強要し、崩れつつある天朝体制の虚像を守ることに執着する時代錯誤的な試みを行ったということだ。

 1882年に清は朝鮮と「中朝商民水陸貿易章程」を締結し、「朝鮮は清の属邦」という条項を加え、袁世凱は10年近くにわたり総督のように朝鮮朝廷の上に君臨し、清の国益を一方的に前面に出して強圧的に内政干渉を行った。何回も高宗の廃位を試み、朝鮮が米国に派遣した公使が現地の清の外交官の指示を受けるよう強要するなど、朝鮮を属国として縛り続けようとした。キム・ヒョンジョン教授は「清は西欧の国際法の体制を受け入れることもできなかったし、我流の帝国主義の方法論で天朝体制の虚像を守ることに執着し、最終的には朝鮮の独立も挫折して清も崩壊してしまった」と指摘した。

 注目すべき点は、19世紀末の清は、日本が琉球(沖縄)を併合したりベトナムをフランスが植民地化することに対しては積極的に対応しなかったが、朝鮮に対しては最後まで執着したことだ。「中国にとって朝鮮半島はいかなる意味なのか」という質問が浮び上がる。キム・ヒョンジョン教授は、中国が朝鮮を特殊な「属国」と感じて執着したのには、重要な地政学的理由があると指摘する。「明・清期に中国王朝が北京を首都にしてからは、朝鮮半島が中国の安全保障に直結することになった。朝鮮半島に敵対的な勢力が入れば、満州(現在の東北3省)が脅威にさらされ、これはただちに首都北京を脅かし、帝国の没落につながった」ということだ。北京を脅かしうる敵対的勢力が朝鮮半島北部を掌握することは、なんとしても防がなければならないという根が深い認識のため、中国共産党は内戦勝利直後の疲弊した状況下でも、1950年に朝鮮戦争に介入した。

 19世紀末に中国が「便法外交」を朝鮮に強要して失敗した後、韓中両国は日帝植民地支配や冷戦などに直面し、長きにわたり関係が切れた。両国が現代的な主権の概念に基づく歴史観と外交関係を正しく作っていく機会も長期間失われた。1992年8月24日に国交樹立してからのこの32年間は、それを作っていく過程でもあった。2000年代初頭から東北工程を通じて、渤海と高句麗を「中国の古代地方政権」と規定した中国が、いまでは前近代の朝鮮半島の歴史全般を「宗主国‐属国」の関係と解釈しようとするのは、韓中関係の現在と未来にも暗い影を落としている。

 中国が2016~17年に在韓米軍のTHAAD(高高度防衛ミサイル)配備決定に反発して韓国に報復措置を取ったとき、いやしくも当時の中国外交部のアジア局副局長は「小国が大国に対抗していいのか」と言った。中国はTHAAD配備について韓国に圧力をかけたが、米国のミサイル防御(MD)体制により明確に参加した日本に対しては報復措置を取らなかった。2022年8月に韓中外相会談で、中国の王毅外相は当時の韓国のパク・チン外相に「5つの当然すべきことを堅持せよ(堅持五個応当)」と要求したが、当初は「独立自主路線を堅持して外部の介入を排除せよ」だった。1880年代に日本が朝鮮に対して「清から独立せよ」と要求したことを思い出させた。

 「中華民族の偉大な復興」が、中国は明・清時代には朝鮮を思うがままにできる「宗主権」を持っていたが、西欧と日本の帝国主義のためにこれを喪失し、ふたたび富強になった中国がその「権利」を取り戻さなければならないという、時代錯誤的かつ危険な意味が込められているのではないかという、重い質問を投げかけざるをえない。

パク・ミンヒ|統一外交チーム先任記者。大学と大学院で中国と中央アジアの歴史を学んだ。2007~2008年に中国人民大学で国際関係を勉強した後、2009年から2013年までハンギョレの北京特派員として中国各地を回り取材した。統一外交チーム長、国際部長、論説委員を経て、世界と外交に対して取材して書いている。『中国のジレンマ』『中国をインタビューする』(共著)を著し、『不可視中国』『ロングゲーム』などの著書を翻訳した。

2024/08/28 19:17
https://japan.hani.co.kr/arti/opinion/50965.html

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