韓国のフィリピン人家事管理士事業は「小を貪り大失う」【寄稿】

投稿者: | 2024年10月2日

 韓国の療養保護士資格の取得者は250万人に達する。しかし実際に療養保護士として働いている人は、その4分の1ほどの約60万人に過ぎない。弁護士や会計士、医師の資格を取得した人に占める、現在実際に働いている人の割合を計算すれば、療養保護士よりはるかに高いだろう。当然のことだが、その理由は経済的待遇の違いだ。経済的に待遇が悪いから、時間をかけて取得した資格があったとしても、当然それを生かして経済活動を行おうとは思わないのだ。

 全般的に、ケア労働の待遇はこのように悪い。そのため、韓国は自然な結果として長きにわたってケアサービスの人材難に苦しんできた。そもそも正常な社会なら、処遇改善に資源を投じてサービス品質の向上を図るべきだろうが、通貨政策の主務機関である韓国銀行は奇想天外なやり方でそれを突破することを望んだようだ。雇用許可制の拡大による外国人材の輸入と、彼らに対する最低賃金の差別適用を骨子とする報告書を、今年3月に発表したのだ。香港やシンガポールのような先進国が同一の制度を導入しているという苦しい比較は、ごあいきょうだ。

 韓国銀行の報告書は、香港とシンガポール、そして韓国の地理的孤立度の違いという最も基本的な事実さえも度外視して作成された、通貨政策の主務機関が発行した報告書だとはとても信じられないほどいい加減な内容を含んでいる。香港は中国本土と、シンガポールはマレーシアとつながっており、国境近くに住む外国人らは安く通勤できる。また香港は、ケア労働者に対して適正水準以上の居住空間を提供する義務を雇う側に課している。そのため、香港などにおける実際のケア労働者の雇用コストは賃金以外にもかかるのが現実だ。

 一方、ソウル市は韓国銀行のこのような報告書をすぐさま受け入れ、100人のフィリピン人家事ヘルパーを雇用許可制で国内に導入するモデル事業を開始した。最低賃金の業種による差別化は現在も最低賃金法4条に則って可能だが、それは行わず、代わりに最低賃金ぴったりの額を支給することとした。問題は、政府がアウトソーシングした企業の流動性に問題があったせいで、最初に支給されるべき教育手当てすら支給日に支給できなかったことであり、モデル事業の開始からわずか半月で2人の家事管理士が離脱して行方をくらますという問題が発生してしまった。

 実際に、韓国と類似する高齢化問題を抱えている日本は、人材不足のせいで「技能実習生」という制度の下で外国人労働者の流入は増え続けているが、同時に外国人労働者が経済的待遇の悪さや差別待遇などに不満を抱いて離脱するケースがかなり多く、やはり深刻な問題になっている。実際、日本の出入国在留管理庁の発表によると、2023年に日本に入国した50万9千人の外国人技能実習生のうち、実に2%に当たる9753人が離脱して行方をくらましている。2019年から数えると、なんと4万人以上が離脱しているという。1年で約1万人の所在不明の未登録外国人が生じている格好だ。

 そのため、日本で技能実習生の入国の支援と企業との人材の仲介をしている仲介業者は、最初から技能実習生が離脱して行方をくらますことを想定し、ほとんどが人材を供給する現地の仲介業者と損害賠償契約を結んでいるという。当然だが、現地の仲介業者はこのようなコストを日本に働きに行こうとしている自国の技能実習生候補たちにすべて転嫁する。このコストが転嫁された外国人労働者は結局のところ、そこそこの待遇では経済的困難から脱出できなくなり、職場を離脱して行方をくらますことになる。このような悪循環が起きているというのが、日本の外国人労働者導入制度の現実だ。

 特にサービスの品質とサービス提供者の待遇がかなり強く結びついているケアサービスの場合、この悪循環を防止するためには、高い経済的待遇が必要不可欠だ。だが、より賃金の低い外国人労働者の導入でそれを制御しようとすれば、実際に被害を受けるのは今も低い経済的待遇に悲鳴を上げている内国人のケア労働者となるだろう。ケア労働者の待遇は人材不足問題と直結しているが、政府と地方自治体は財源調達という方法の代わりに、外国人労働者の輸入という極めて行政便宜主義的な方法を選択した。小を貪り大を失うの典型的な道を、今まさに歩きはじめたと言えよう。

2024/10/01 18:53
https://japan.hani.co.kr/arti/opinion/51242.html

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