金正恩委員長は欧州と中東での戦争と米中対決が激しくなる混乱する世界情勢の中で突破口を見いだそうとした戦略を積極的に押し進めている。しかし危険な賭けだ。まずロシアの未来に対する誇大な楽観論にオールインし、ロシアより国内総生産(GDP)が9倍も大きい(2023年基準)中国を遠ざける危険を自ら招いている。また、西側の対応、例えば北朝鮮軍に対する心理戦展開の可能性などを過小評価している。
中国は深刻な戦略的難題に直面することになった。中国は緩衝地帯北朝鮮の体制維持と韓半島の安定を追求してきた。ところが朝ロはこれにかかわらずに協力を強化して危機を高めさせている。そうなると米国を中心に韓日と台湾・フィリピンなどの安保ネットワークはさらに強化され、これは中国が絶対に望まない状況だ。バイデン政権は最近中国政府に北朝鮮が派兵を中断するよう影響力行使を要請したとみられる。しかし果たして北朝鮮とロシアを制御する影響力が中国にどれだけあるのか疑問だ。
米国は北朝鮮軍のロシア派兵が確実になればウクライナに提供する攻撃用武器使用に制限を設けないと発表した。これに対し肯定的回答でもするかのようにロシアは戦術核使用訓練映像を公開した。北朝鮮軍の派兵がウクライナ戦争の拡散を触発しかねないひとつの事例だ。北朝鮮軍派兵でウクライナの戦況がさらに難しく複雑になった。
北朝鮮の派兵は韓国の安全保障にも深刻な困難を与えている。まず、韓半島での南北衝突状況が発生した時にロシアの介入の可能性が大きくなった。また、ウクライナ戦線で身につけた近代戦の経験を反映して北朝鮮の在来式戦力も強化するだろう。何よりも1000回以上にわたる核実験で蓄積した核技術とノウハウ、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の再進入、原子力潜水艦、軍事偵察衛星関連技術をロシアが北朝鮮に提供すれば北朝鮮は核だけでなく在来式戦力の面でもさらに深刻な脅威になるだろう。金正恩委員長は韓国に拡大抑止を提供しなければならない米国がウクライナ戦争、中東戦争、台湾海峡の緊張の高まり、米中対決深化の渦中で国内政治的分裂と困難に陥っており、これは北朝鮮に対南攻撃に向けた絶好の機会を提供していると誤認させるかもしれない。
こうした危機状況の前で私たちはどのように対応しなければならないのか。ウクライナの戦況と米大統領選挙の状況進展を見ながら段階的対応をするが殺傷武器支援はロシアの軍事技術の北朝鮮移転を触発しかねず慎重であるべきだ。そして政界では安保を国内政争の対象とせず団結した姿を見せなければならない。北朝鮮のロシア武器支援や派兵をすべて韓国政府のせいのように主張するのは国民の目に決して慎重でなく見えるだろう。
尹永寛(ユン・ヨングァン)/峨山政策研究院理事長、元外交通商部長官
2024/11/03 10:25
https://japanese.joins.com/JArticle/325722