米中が切る決定的なカードは「地政学」【寄稿】

投稿者: | 2025年5月20日

 今月10~11日、米国のスコット・ベッセント財務長官と中国の何立峰国務院副総理をそれぞれ代表とする米中両国の代表団が、スイスのジュネーブで交渉を行った。この会談は、1カ月以上にわたり続いた関税戦争を緩和するための試みであり、その結果、両国は115ポイントずつ関税を引き下げることで合意した。この措置は14日から施行され、90日間継続する。このような結果は、世界の二大強大国間の関税戦争に「一時停止ボタン」を押した。これについて、以下の見解を提示する。

 一つ目に、両国ともに国内の圧力のため、「チキンゲーム」で一歩ずつ退く必要があった。中国の場合、対米輸出が明らかに減少した。主に輸出を担当する広東省、浙江省、江蘇省などの沿海地域の企業が大きな打撃を受け、一時的に工場を閉鎖し、失業率も上昇した。不動産市場の停滞、内需不振、地方財政悪化などにより、中国はかなりの経済的・社会的圧力を受けている。米国の場合も、日用品で中国製品への依存度が高かったため、関税引き上げによって国民の不安が高まり、金融市場にも衝撃を与えた。米国のドナルド・トランプ大統領は、メディア、資本家、野党などから批判も受けている。明らかにトランプ大統領は、中国の習近平国家主席よりも強い圧力に直面しており、これは米国が中国との協議に入った理由の一つでもある。

 二つ目に、交渉のスピードと関税引き下げ幅は予想を大幅に上回ったが、これは「一時停止」または、ゲームの「途中休憩」にすぎない。トランプ政権は今回の交渉で、米国企業が中国以外のサプライチェーンを探す時間を稼ぎ、ふたたび強硬な関税政策を繰り広げるときに備え、米国が受ける衝撃を減らそうと計算している。また、休戦は「反米関税連帯」を防ぐための戦略的措置だ。中国、欧州連合(EU)、日本、インド、カナダなど米国と緊密な経済的関係を結んでいる国々は、トランプ大統領の関税政策に反発する傾向を示した。米国はこれに個別に対応していく必要がある。この二つの課題を解決すれば、米国はふたたび関税戦争に踏み切ることができる。

 三つ目に、中国は米国との関税戦争をすでに「持久戦」とみなし、準備を進めていた。昨年上半期から、周辺国との関係改善のための措置を先制して進め、先月初めには、すべての政治局常務委員が参加した中央周辺工作(業務)会議も開催した。関税の合意後に中国共産党は内部の宣伝作業を開始し、合意の結果が「闘争を通じて協力を引き出すことが、強大国の強引さに対抗する解決策」であることを立証したと主張した。これは、習近平主席の指導力をよりいっそう強固なものにする効果もある。今回の交渉の主な代表である何立峰副首相、王小洪公安部長(長官)、李成鋼・商務部国際貿易交渉代表(長官級)兼副部長(次官)、廖岷財政部副部長は、いずれも習近平主席の側近だ。

 最後に、トランプ大統領が米中関税交渉の成果に言及し、台湾に対して緊張をあおることがあった。トランプ大統領は、米中合意が「統一(unification)と平和(peace)」に寄与すると明言した。「統一」は台湾にとっては非常に敏感な表現だ。「統合」を意味するのか「統一」を意味するのかはあいまいで、両国が関税交渉で台湾問題も議論したのではないかという疑念を呼び起こした。米国務省は米中間では台湾問題に関する議論はなかったと釈明したが、台湾社会の懸念には一理ある。最近、エコノミスト誌は「台湾を取り巻く強大国の危機が近づいている」と題する巻頭記事で、トランプ大統領の行動が米国の虚勢を中国が暴露する機会を与え、軍事的緊張を予想より早く誘発しかねないと警告した。最近の世論調査でも、中国が武力行使をする場合、トランプ時代の米国が台湾を防衛するのかについて、台湾国民は懐疑的な立場を示している。米中競争は多層的かつ多面的な性格を帯びている。新局面のゲームは始まったばかりであり、地政学は両国が最後に切る決定的なカードになるだろう。これに合わせ、東アジア諸国はよりいっそう慎重に対応する必要がある。

2025/05/18 18:45
https://japan.hani.co.kr/arti/opinion/53248.html

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