1、2年前まで「ピークチャイナ」という言葉がよく聞かれた。主に西側の保守右派学者、ジャーナリストによって主張されたこうした観点は、中国が体制上の限界だけでなく米国の強力な対中牽制のため米国経済に永遠に追いつけないというものだ。最近はこうした主張が減っている。世界はまた中国を驚きの目で眺めている。特に今年に入ってディープシークが出現し、ファーウェイ(華為)が華麗に再浮上してからだ。しかしこうした状況の背後には、過去10年間、科学技術論文の発表および引用回数、特許出演件数で中国が米国を急速に追い上げ、3年前からは米国を大きく上回っている科学技術崛起がある。
トランプ政権1期目以降の対中国牽制、中国商品に対する高率関税はむしろ中国の技術レベル、製造業の競争力を速いペースで高めた。関税戦争は米国が始めたが、勝者は中国になっているという観戦評が多い。対中国半導体規制、先端技術制裁は中国内の半導体生産拡大、AI、ロボット技術の発展、これを活用した生産工程の革新をもたらした。もう中国は20年前のように低賃金で安い汎用製品ばかりを世界に供給する国ではない。世界太陽光パネル生産能力の80%を占め、価格は10年前より70%引き下げ、新再生可能エネルギーの主導権を握った。電気自動車とバッテリーも世界市場を席巻している。単なる海外ダンピングでなく、AI技術の導入、激しい国内競争による自動化と生産工程効率化、政府の産業生態系支援などによる生産コスト削減効果のおかげだ。ドローンやヒューマノイドなどの分野もすでに中国の天下となった。
中国はどのようにして10-20年の間にこれほどの変化を成し遂げたのか。少なくとも3つの要因が挙げられる。1つ目、教育と人材養成だ。大学卒業生は1999年の100万人から最近は毎年1200万人に増えた。その半分は科学、技術、工学、数学(STEM)専攻の卒業生だ。中国が輩出するSTEM専攻大卒者は米国の5倍、エンジニア数は米国の7倍にのぼる。人口比でも米国を上回る。こうした人材プールは中国の先端製造品開発、製品フィードバック、アフターサービス、生産工程の効率化を実現する肥沃な土壌となっている。小学校から英才教育課程を運用し、ディープシークの梁文峰のような人材を輩出している。大学に対する莫大な支援と優秀頭脳の誘致で、理工系大学世界10位内に中国の大学が8つも入る。
2つ目、巨大な国内市場と国家支援だ。莫大な初期投資が必要な先端技術開発と製造業は絶対的に「規模の経済」を要する。市場での激しい競争で勝者になれば政府調達などの報奨があり、巨大な市場を占めることでより大きな生産コスト削減につながり、世界市場で絶対的競争力を持つことになる。
3つ目、国家運営体制だ。中央政府レベルで計画と支援策を提示し、地方政府の間で実績競争をし、市場現場では企業間の激しい生存競争が行われ、現在のような先端製造業生態系を形成することになった。その核心には、共産党というエリート官僚組織と中央政府、地方政府、国有企業、金融機関、研究所などをきめ細かく掌握、連結する共産党支配体制がある。党と中央政府の垂直的計画と方向提示、地方政府と市場での水平的競争の組み合わせが躍動的な発展を牽引する可能性があることを中国体制は見せた。もちろんこうした体制は個人の自由抑圧、分配悪化、二重構造の深化を招き、中国の未来に大きな不確実性を提供したりもする。
科学技術、先端製造業先進国への中国の浮上は大きな影響を世界にもたらすはずだ。1970年代の日本の家電、半導体、自動車など当時の先端製品が米国製品を圧倒し始めた時期、そして1990年代に韓国が日本を追い上げて米国・世界市場でこうした製品の競争した時期、日本と韓国の当時の1人あたりの所得はそれぞれ米国の半分ほどだった。最先端科学技術と製品で米国と覇権を争う現在の中国の1人あたりの所得は米国の16%にすぎない。これは今後、世界政治、経済、安保の地形に甚大な影響をもたらすことを予告している。
国家経済運営体制をめぐる論争もまた浮上するだろう。20世紀は資本主義と共産主義の競争で資本主義の勝利に終わった。21世紀には国家資本主義と市場資本主義が競争している。昨年ノーベル経済学賞を受賞したアセモグル、ロビンソン教授は制度の質が国家の発展と繁栄を決めると主張した。どんな制度がより大きな経済の躍動性をもたらすかという今世紀の対決はまだ終わっていない。中国から押し寄せる巨大な波にのまれて沈没しないためには我々にどんな選択があるのか。国家運営システムの全般的な革新なしにはこの激流を解決するのは難しいとみられる。
趙潤済(チョ・ユンジェ)/延世大経済大学院特任教授
2025/08/01 15:14
https://japanese.joins.com/JArticle/337060