韓米首脳会談に対する評価は政治的立場によって異なる。政府与党側は非常に成功した会談だと自賛しているが、野党側は中身のない「外交惨事」だと蔑視している。さらに、一部の進歩陣営の人々も「屈従とお世辞で満ちた首脳会談」だとみなし、評価を下げている。あまりにもひどい評価だ。
社会的背景、政治的志向、そして交渉スタイルをみると、李在明(イ・ジェミョン)大統領とトランプ大統領の2人の指導者は水と油のような存在だ。そのため、李在明大統領が、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領や、南アフリカ共和国のシリル・ラマポーザ大統領のようにドナルド・トランプ大統領の罠にはまり、首脳会談の場が白けてしまうのではないかという懸念が先行していた。しかし、これは杞憂に終わった。首脳間の合意が際立ち、そして、損より得が多い首脳外交だった。
今回の会談をきっかけに、韓米同盟はよりいっそう堅固になり、朝鮮半島非核化と平和体制構築に対するトランプ大統領の積極的な参加の意向も期待できるようになった。トランプ大統領の高圧的な交渉態度を考慮すると、関税や投資、韓米同盟の現代化などの敏感な議題を実務交渉に任せたこともよかった。
特に、韓米首脳会談の開催3時間前にソーシャルメディアで、「粛清と革命」という極端な表現まで用いて韓国政治の状況に疑問を呈したトランプ大統領を、カン・フンシク秘書室長の事前調整と李大統領の簡潔明瞭な説明で説得し、危機を克服したことは、今回の会談のハイライトだった。
しかし、首脳会談後の課題は容易ではない。悪魔は細部に宿るからだ。米国は韓国に対する相互関税率を25%から15%に引き下げると公言したが、韓国製自動車については、いまでも25%の関税を課している。半導体と医薬品の関税も未解決で、対米投資はいまだ五里霧中だ。
韓国が3500億ドル相当の投資額を「経済安全保障投資基金」として設立し、トランプ大統領が投資先を決め、投資利益の90%を米国国民に回すという米国側の構想は、韓国政府としてはそのまま受け入れるわけにはいかない。その隔たりを埋める実務交渉は容易ではないと思われる。9月4日にトランプ大統領は、日本製自動車の関税を27.5%から15%に引き下げる行政命令に署名した。これは韓国にとって極めて不利な措置だ。
韓米同盟の現代化も主要な争点だ。首脳間では具体的な議論はなかったが、李在明大統領は、韓国防衛を韓国が主導的に行うことで、現在は国内総生産(GDP)の2.6%である国防費を3.5%まで増額できると明言した。これは、在韓米軍が支援戦力になることで、在韓米軍に対する防衛費分担額を減らせる可能性を意味する。また、李大統領は、在韓米軍の戦略的柔軟性や地域紛争に韓国軍が関与することに同意しない点を明確にした。米国が望む韓米同盟の現代化とは異なる立場だ。
また、米国の極右勢力の政治攻勢も見逃してはならない。「粛清と革命」騒動は序幕にすぎない。8月27日、MAGA(米国を再び偉大に)運動の支援者として知られるニュート・ギングリッチ元米下院議長は、ワシントン・タイムズのコラムで「李在明政権の政治と宗教への弾圧は、息が詰まるような状況」にあると批判した。その延長線で、9月5日には一山(イルサン)のキンテックスで、韓国国内の極右勢力の拡大を狙うイベント「ビルドアップコリア2025」が開催され、それには米国の過激なMAGAの人々も多く参加し、韓国の若者たちに保守の福音を伝えた。9月13日には、米国でゴードン・チャン氏、モース・タン氏、チョン・ハンギル氏らが参加するトゥルース・フォーラムが開かれる。表向きは保守キリスト教原理主義を共通分母としているが、実際には、トランプ式MAGAの理念を世界的に拡散するための超国家的な協力の動きだ。韓国の民主主義と憲政秩序、そして李在明大統領の正統性を批判・否定するこれらの人々の戦闘的な動きは、韓米関係の未来を脅かす主要変数になるだろう。
最後に、韓米同盟と韓米日3カ国の協力が重要だ。しかし、それにともなう否定的な影響にも注目する必要がある。李大統領は訪米中、戦略国際問題研究所(CSIS)での演説で、いまや「安米経中」(安全保障は米国、経済は中国)ではなく、「安米経米」(安全保障も米国、経済も米国)時代だという表現を用いた。米国に全賭けすると示唆するもので、中国の反応はきわめて敏感にみえる。おりしも、9月3日の中国戦勝節には、中国、ロシア、北朝鮮の首脳が珍しく連帯を示した。新冷戦の罠から抜け出すどころか、そのまっただ中に陥っているのではないかという印象を与える。
韓米首脳会談の始まりはよかった。しかし、今後の微調整は難しいものになりそうだ。このような時ほど、初心にかえらなければならない。国民主権外交の基本前提に忠実でありつつ、実用外交の妙を生かさなければならないだろう。指導者の原則、明敏さ、そして、決意がいつにもまして求められると思われる。
2025/09/07 18:37
https://japan.hani.co.kr/arti/opinion/54194.html