「強大国間の戦争がなかった80年、戦争で核兵器が使用されなかった80年、そしてわずか9カ国だけが核兵器保有国という事実。韓米同盟はこのように長く維持されてきた世界の平和を支える核心の柱だ」。
国家安全保障分野の世界的大碩学、米グレアム・アリソン米ハーバード大学ケネディスクール初代院長、ダグラス・ディロン記念講座政治学教授(85)は中央日報のインタビューで「80・80・9公式は史上前例のない成就だが、当然視するべきではない」とし、このように述べた。アリソン教授は80年間ほど維持されてきた世界平和と核兵器抑止はいつでも崩れかねない「脆弱な均衡」とし、韓米同盟の戦略的意味を両国の政府と国民が深く認識する必要があると強調した。
アリソン教授が言及した核兵器保有9カ国は核拡散防止条約(NPT)で公認された5カ国の米国・英国・フランス・中国・ロシアと、不拡散体制外の「事実上の核保有国」と認められるインド・パキスタン・イスラエル、さらにNPT脱退後に核実験を繰り返してきた北朝鮮を含めたものだ。北朝鮮の核兵器保有を公式的に認めない国際社会とは異なる認識だ。脆弱な均衡の一つの軸として北朝鮮を眺める冷厳な現実主義国際政治学者の見方を表したのだ。
◆「韓米首脳に隙間が生じてはいけない」
アリソン教授は国際秩序を揺るがすトランプ米大統領のリーダーシップスタイルを「チェス盤をひっくり返す大々的な破壊者」とし「トランプが指導者間の個人的な関係を重視する点を勘案すると、彼の2期目で韓国が米国との安定的関係を保障する最も良い方策は李在明(イ・ジェミョン)大統領とトランプの関係にわずかな隙間も生じないようにすること」と助言した。故安倍晋三元首相の事例に言及しながらが「ゴルフ外交」に注力するべきとも話した。
2017年に著書『米中戦争前夜』で既存の覇権勢力と新興勢力間の構造的葛藤・緊張を「トゥキディデスの罠」で説明した老教授は「米中間の緊張の力学構図はトランプ時代を越えて今後も続くだろう」と予測した。そして「両国間の予想できない偶発的事件一つが事態を急速に悪化させかねない」と指摘した。
ただ、アリソン教授は中国の習近平国家主席との親しい関係を重視するトランプ大統領のスタイル、米国との共存に積極的な習主席のスタイルを勘案すると、少なくともトランプ・習近平体制では安保秩序がより良い方向に進む可能性があるという希望も抱いていると話した。例えば、10月末に慶州(キョンジュ)で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)を契機に実現する可能性が高い米中首脳会談で、両国経済に必須の核心貿易品目を中心とする貿易協定フレームワークが出てくることもあると予想した。
◆「北朝鮮の金正恩、米中関係で『挑発者』の役割も」
アリソン教授は中国北京天安門で3日に開催された戦勝節80周年記念式行事で習主席の左右に北朝鮮・ロシア首脳が並んで立った場面に言及しながら「米中競争の構図の中で朝ロが戦略的変数として作動し始めた」と評価した。そして特に北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長は米中関係で『挑発者』の役割を遂行するのに最も理想的な人物になった」と指摘した。北朝鮮が米中競争構図の中でますます波及力が大きい行為者になるという予想だ。朝米首脳会談の見通しについては「米国、北朝鮮ともに相当な意志を持っている」とし、実現する可能性が高いという見方を示した。
中央日報創刊60周年を控えて行われたアリソン教授へのインタビューは11日、メールで質問と答弁が先に交わされた後、翌日、アリソン教授の事務室で対面インタビューを追加する方式で行われた。
–かつて「トゥキディデスの罠」を警告したが、トランプ体制、そしてその後の米中衝突の可能性についてどう見ているのか。
米国と中国が既存の強大国と新興強大国の役割をどちらがよく見せるか競争でもするように、トゥキディデスのシナリオ通りに動いている。新興強国が既存の強国の地位を脅かすたびに戦争の危険を帯びる。米国と中国ともに戦争を望まないというが、意外な事件一つが戦争に向かわせることもあり得る。オーストリア皇太子フランツ・フェルディナンド暗殺事件(サラエボ事件)一つがもたらした第1次世界大戦の歴史を考えてほしい。
–6月に中国の王毅外相と会って「米中が共存の戦略を模索するべきだ」と強調したが、両国間の平和的共存は可能なのか。
習主席は米中関係を話す時「私はあなたの中にいて、あなたは私の中にいる」という表現を使うが、これは両国共存のために協力しなければいけないという意味だ。
◆「トランプ・習近平、平和パートナーシップ可能」
アリソン教授は米中の葛藤は本質的に構造的だが、両首脳(トランプ・習近平)のリーダーシップが行方を変えることはできると述べた。アリソン教授は「1960~80年代の政治指導者は糸でつるされた『ダモクレスの剣』に例えられる核戦争の脅威を明確に認識していたが、今はすべて忘却している。ところがトランプは核戦争が恐ろしいことを誰よりも深く理解しているようだ」と話した。
–トランプ大統領の任期中に「衝突」でなく「状況管理」が可能だろうか。
トランプは何度も「米国と中国が協力すればほとんどすべての問題を解決することができる」と話してきた。想像力を発揮すれば、トランプと習近平が首脳会談を開いて「平和パートナーシップ」フレームワークを用意する場面を描いてみることができる。
–「米国優先主義」を強調するトランプ大統領が伝統的な同盟構造を解体しているという懸念がある。
トランプにとって同盟国は「我々をだまし、ただ乗りし、無料で暮らし、我々を利用する者」だ。戦後の国際秩序の基礎となった大西洋同盟と日本、韓国、オーストラリアなどとの関係はトランプの思考体系で核心優先順位にない。しかし同盟は事案別に駆け引きする「取引対象」ではない。
◆「予測不可能な指導者が世界を導けば大変なことに」
アリソン教授はトランプ大統領が守る新孤立主義が米国の地位・影響力の長期的な低下と同時に多極化を加速させると予想した。「80年間にわたり世界大戦なく維持された国際安保の基盤は安定的で予測可能、かつ信頼できる主導国(米国)があったためだが、その国の指導者が不安定性と予測不可能性の根源になるればどうなるのか。大変なことになる」と話した。
–国際秩序がトランプ大統領登場の以前と以後が本質的に異なるという分析に同意するか。
1963年に当時のケネディ大統領は1970年代になれば核兵器保有国が25~30カ国になるはずだと予想した。しかし現在、核兵器保有国は9カ国だ。不拡散体制の偉大な成果だ。トランプが登場する前、この秩序がどれほど大きな圧力の中でも均衡を維持してきたのかを知る必要がある。ところが大々的な破壊者(トランプ)によってその基礎が揺らいでいる。
–中国戦勝節80周年記念行事に中国・ロシア・北朝鮮の首脳が並んで立った場面をどう見たのか。
習近平はロシアと世界で最も重大な非公式同盟を構築した。金正恩は米中競争構図の中で重要な挑発者として注目度がさらに高まった。米国と国際社会は今後、外交戦略樹立時にこの大きな課題を必ず考慮しなければいけない。
アリソン教授は「トランプショック」をきっかけに欧州が安保責任を強化するのは国際秩序維持に肯定的だが、「アジア戦線」では魅力的な代案がないと述べた。「例えば韓国が自国の防御のために独自の核兵器保有を宣言するシナリオを想像することができるが、そうなれば日本、ベトナムなどが連鎖的に同じ道を進もうとするはずで、今とは完全に異なる状況になる」と懸念している。
◆「李大統領、安倍元首相のようにゴルフスイングの練習を」
–急変する国際秩序の中で韓国が選択するべき外交戦略を助言してほしい。
韓国の李大統領はフィンランドのストゥブ大統領や故安倍晋三前首相の事例を参考にしてゴルフスイングの練習をするのがよい。トランプは指導者間の個人的関係を重視し、その多くがゴルフ場で構築される。トランプの2期目で韓国が米国との安定的関係を保障する最善の方法は、李大統領とトランプの間に隙間が生じないよう近づくことだ。
–韓国政府と読者に伝えたいメッセージは。
3つの数字の80・80・9を想起してほしい。第2次世界大戦が終わった1945年以降、強大国の間に戦争がなかった80年、戦争で核兵器が使用されなかった80年、そしてわずか9カ国だけが核兵器保有国という点だ。韓米同盟はこのように長く維持され、世界平和の柱だ。一極でなく多極体制になった世界で秩序の崩壊を防ぐ多様な行為者とその同盟関係はそれ自体がすべて重要だ。
2025/09/15 14:15
https://japanese.joins.com/JArticle/338711