[山口二郎コラム]自民党の危機…「分裂」もひとつの答だ

投稿者: | 2025年10月20日

 長年日本を統治してきた自由民主党は、11月に結党70年を迎える。しかし、今、結党以来の危機を迎えている。昨年10月の衆議院選挙、今年7月の参議院選挙で自民党は大幅に議席を減らし、公明党と合わせた与党は衆参両院で過半数を失った。さらに、参院選敗北の責任を取って退いた石破茂自民党総裁の後継者に高市早苗氏が選ばれたが、これまで連立を組んできた公明党が連立離脱を表明した。高市氏が政治資金規正法の強化に消極的だったことが理由とされる。これにより、高市新総裁が国会で首相に選ばれるかどうかはわからなくなった。

 もちろん、自民党の腐敗体質は、公明党が連立を解消する理由の一つであろう。だが、私には、高市総裁が陥った苦境は、自民党の持つ大きな矛盾をごまかしきれなくなったことの現れだと思える。70年前に自民党が結成されたときは、東西冷戦の最中であった。当時の日本では、社会主義政党が国会の3分の1程度の議席を得て、都市を中心に支持を広げていた。左翼政党に政権を取らせないためには、保守政党の大同団結が必要とされ、経済界やアメリカの強い後押しを得て、自民党が結成された。侵略戦争や植民地支配を正当化する右派と、戦争を反省し、戦後の平和・民主主義の憲法を支持する穏健派が、社会主義化を防ぐという理由で自民党に同居することとなった。

 その後、左翼政党は衰退し、冷戦も終わり、自民党は当初の存在意義を失った。今から30年余り前、自民党では大規模な資金スキャンダルが勃発し、自民党に代わる政権の担い手をつくり出す試みが続いた。しかし、自民党以外の政治家には大きな政党を作るための度量や政策能力が欠けていた。自民党は支持の低下を埋め合わせるために公明党と連立を組み、政権を維持してきた。

 自民党政治の動揺が始まった1990年代初め以来、日本は経済停滞が続き、人口減少が加速している。自民党に国政を任せれば国民は幸せになれるという神話は、過去のものとなった。とくに、2020年代に入ってからは、物価上昇が続き、格差、貧困が深刻になった。日本人は自信と将来への希望を失っている。そして、世の中の現状に不満を持つ人々を煽る右派ポピュリスト政党が台頭し、日本政治は不安定になっている。とくに、外国人嫌悪を売り物にするデマゴーグが支持を集める状況は危険である。

 高市氏が総裁選挙で勝利したことは、自民党の国会議員と党員の中にも排外主義的ナショナリズムが浸透していることの現れである。彼女は総裁選挙の運動の中で、外国人の犯罪者が通訳不在のため十分な取り調べを受けず、不起訴になることがあるという虚偽を述べた。また、彼女は戦前の日本を賛美し、首相になったら靖国神社に参拝すると公言していた。実際には、10月の秋祭りの際の参拝は差し控えたが。

 政治的価値観や歴史認識について、高市氏と石破首相は対照的である。石破首相は10月10日に戦後80年に関する首相所感を発表した。その中で、誤った戦争に突き進んだ日本の政治システムの欠点を検証し、偏狭なナショナリズムが広がることに警鐘を鳴らした。これに対して、高市氏は、内容は分からないとコメントしただけであった。高市氏のこのような価値観こそ、公明党の離脱を招いた根本的な原因である。

 自民党は、もはや存在意義を失っている。戦争を反省し、戦後の民主主義と平和主義を守るグループと、戦前回帰を求めるグループに分かれた方が、国民にとってわかりやすい。自民党がそのように割れれば、他の野党も、穏健派、右派のどちらに協力するか、旗色をはっきりさせることになるだろう。自由と民主主義を守るための新たな勢力の結集が必要である。

 この点に関連して、韓国における韓鶴子・世界平和統一家庭連合(旧統一教会)総裁の裁判は日本にも影響を与えるかもしれない。旧統一教会が自民党の右派と密接な関係を築き、選挙の応援をしてきたことは周知の事実である。この教団の日本政界への働きかけの実態がさらに解明されるか、注目したい。

山口二郎|法政大学法学科教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr)

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