台湾問題をめぐる日中の対立が危険水位すれすれだ。中国の予想外の激しい対応に、日本側は事実上お手上げ状態だ。在韓米軍のTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)配備直後の2017年から韓国が経験した、いわゆる「限韓令」を思い出させるほどだ。内容を見てみよう。
2025年11月7日、日本で衆議院予算委員会が開かれた。野党第一党の立憲民主党の岡田克也議員は高市早苗首相に「自民党総裁選で、中国による台湾の海上封鎖が発生した場合を問われて、『存立危機事態になるかもしれない』と発言した」として、いわゆる「台湾有事(戦争や災害など緊急事態)」についての過去の発言を問いただした。高市首相はこう答えた。「海上封鎖を解くために米軍が来援する。それを防ぐために何らかのほかの(中国による)武力行使が行われる。こういった事態も想定される。戦艦を使って武力行使を伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になり得るケースであると私は考える」
日本の現職首相が「存立危機」に言及は初
「存立危機事態」とは、いわゆる「集団的自衛権」行使の前提だ。日本が直接攻撃されなくても、周辺国事態などで日本の領土と国民に深刻な脅威が生じれば、それに共同対応する権利があるという主張だ。日本国憲法第9条は「戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と宣言しており、軍の保有と交戦権すら否定している。「専守防衛」(攻撃はせず防衛に徹する)原則だ。しかし2019年10月1日、当時の安倍晋三首相が閣議で既存の憲法解釈を覆し、「集団的自衛権」行使を可能にした。これによって自衛隊は国外の武力紛争に介入できるようになった。「集団的自衛権」は日本の強硬保守派の宿願だった。
日本の現職首相が台湾有事のことを存立危機事態であると公式に発言したのは、今回が初。極右的な考え方をはばかることなくあらわにしてきた高市首相による支持層を意識した発言だ、との評価が支配的だ。高市首相は極右系の日本維新の会と連立を組む際に、「戦争のできる国」の障害物である憲法第9条の改正を念頭に置いた両党による条文起草協議会を設置することで合意している。
「いわゆる『台湾有事はすなわち日本の有事』という主張は、一部の頭の悪い政治屋が選択した死の道だ。勝手に突っ込んできたその汚い首は切ってやるしかない。覚悟はできているのか」。中国の薛剣駐大阪総領事は11月8日、ソーシャルメディア「X」で、このように主張した。高市首相に対する「極言」だった。高市首相の発言後、初となる11月10日の定例ブリーフィングで、中国外務省の林剣報道官は次のように述べた。
「日本の指導者が数日前、国会で台湾に関して公然と誤った発言を行い、武力介入の可能性までほのめかした。中国側はこれに強い不満と断固たる反対を表明しつつ、日本側に厳正な交渉を提起し、強く抗議した。台湾は中国の台湾であり、いかなるやり方で台湾問題を解決し、国家統一を成し遂げるかは、全面的に中国の内政に属する。いかなる外部勢力の干渉も容認できない」
「存亡の危機を口実に侵略したのに、どのような魂胆か」
状況は容易に収まる気配を見せていない。中国側はさらに一歩踏み込んでいる。林報道官は11月13日のブリーフィングで、高市首相に「台湾有事」発言の撤回を要求しつつ、次のように述べた。
「今年は中国人民抗日戦争および世界反ファシスト戦争勝利80周年であり、台湾光復80周年だ。日本は一時、台湾を植民統治し、数多くの罪を犯した。日本は軍国主義の歴史上、何度もいわゆる『存亡の危機』を口実に対外侵略を敢行し、『自衛権の行使』を理由に「9・18事変」(1931年の満州事変)を敢行して中国侵略戦争を引き起こし、中国を含むアジアと全世界の人々に深刻な災厄をもたらした。今日、日本の首相高市早苗がいわゆる『存亡の危機』に改めて言及している。一体どのような魂胆か。軍国主義の轍を踏もうとしているのか。またしても中国とアジア人の敵になろうとしているのか。戦後の国際秩序の転覆を企てているのか。日本側に厳重に警告する。歴史的責任を深く反省し、中国の内政への干渉、挑発で一線を越える誤った言動を直ちにやめよ。台湾問題をめぐって火遊びするな。火遊びをする者は必ず自ら焼け死ぬだろう」
中国は口だけで終わらなかった。外務省は自国民の日本への旅行の自粛を要請(11月14日)し、教育省は日本留学自制令(11月16日)を下した。9月までに日本を訪れた今年の中国人観光客の数は約748万人にのぼる。2024年末現在で、日本国内の留学生の36.7%(12万3485人)が中国人だ。11月17日には、主要20カ国首脳会議(G20サミット、11月22~23日)での日中会談は推進しないと発表された。11月19日には、中国がわずか2週間前に再開していた日本産水産物の輸入を中断したと報道された。全方位的な圧力だ。
事態が手のほどこしようもなく広がっていることを受け、日本は11月17日、外務省の金井正彰アジア大洋州局長を北京に急派した。11月18日に金井局長と中国外務省の劉勁松アジア局長が会談を終え、外務省の庁舎を出る様子を映した映像が公開された。異例の人民服姿の劉局長は、直立姿勢で両手をズボンのポケットに入れていた。金井局長は姿勢を半分ほど曲げ、両手でカバンを持っていた。日本側からは「教師が生徒を叱る様子を演出しようというのか」という揶揄(やゆ)があふれた。中国のネット民は「中国側は5・4運動(1919年)の時、青年の服装をして日本の官吏に会った。主権を守ろうとする態度は100年過ぎても変わらない」という文章と共に写真を広めた。
米国と同様に自国中心主義の強い中国、反面教師必要
「ことの重大さへの自覚を欠いた答弁である。高市早苗首相が衆院予算委員会で、台湾有事について、日本が集団的自衛権を行使できる『存立危機事態』に該当し得ると述べた。就任前からの持論だ。…持論に基づく勇み足であれば、軽率と言うほかない。…不用意な発信は、外交上の火種となりかねないことにも留意すべきである」。日本の毎日新聞は11月11日付の社説でこのように指摘した。就任したばかりの高市首相としては、「台湾有事」発言の取り消しは選択肢にならない。中国側は報復対応のレベルを高め続けるだろう。対立は長期化する可能性が高い。
ポイントは2つある。1つ目、外交を下手に国内の政治的目的に動員すると、必ず問題が生じる。外交には相手がいるからだ。2つ目、中国は米国と同じくらい自国中心主義的性格が強い。緻密で慎重なアプローチがないと、誰でも今日の日本のような状況に直面しうる。中国外務省の毛寧報道官は11月17日の定例ブリーフィングで、台湾問題とともに「中国を標的とした極端で威嚇的な発言」など、日本の極右勢力の「嫌中活動」も問題視した。まったくの「他人事」ではないのだ。
2025/11/20 21:55
https://japan.hani.co.kr/arti/h21/54809.html