核協議中に2回攻撃されたイラン、「核兵器の敷居」越えるか

投稿者: | 2026年5月26日

 米国とイランは、80日以上続く戦争をそれぞれが有利な状況で終わらせるための、駆け引きの交渉を続けている。特に両国は、終戦に向けての事前の和平合意の覚書(MOU)に、イラン核問題についての条項を加えるかどうかをめぐり、激しく争っている。MOU締結から30~60日間続くとみられる継続協議の議題は、またしてもイラン核問題だ。イランが2回の戦争を経ても、これまでの核戦略の方針を変更しないのか、米国とイスラエルの一部が疑うように、イランが核兵器開発の野心を抱いているのかどうかについて、国際的な関心を集めている。

 まず指摘すべきことは、米国とイスラエルが攻撃の主要な大義名分としている60%の高濃縮ウラン440キログラムを、イランが保有することになった原因だ。2015年に濃縮ウランを3.67%に制限したイラン核合意(JCPOA:包括的共同作業計画)から2018年に米国のトランプ大統領が脱退すると、イランは2020年に濃縮ウランを20%に引き上げた。さらに、2021年にイスラエルがイランのナタンズ核施設の発電施設に対するサイバー攻撃を敢行すると、イランは濃縮ウランをふたたび60%に引き上げた。60%の高濃縮ウランは民生用途では使用先がなく、核兵器を製造可能な90%濃縮に向かう前段階だとする懸念が生じた。イラン核合意がそのまま維持されていたとすれば、国際原子力機関(IAEA)の強力な監視(核拡散防止条約の追加議定書の批准)のもと、イランの核プログラムは一定程度管理されていたはずだ。トランプ大統領とイスラエルがイランにウランの濃縮度を引き上げる口実を提供したことになる。

 国際社会において、核兵器は製造しないが核技術は高度化するイランの戦略は「しきい値戦略」と呼ばれる。核兵器を開発可能な技術と条件を準備しておき、外部からの脅威や攻撃を受けた場合、数カ月以内に核兵器を製造可能な状態に達するというものだ。これに対し、米国のバイデン政権(2021~2024年)は、イランを2015年の核合意に復帰させるための交渉を進めたが不発に終わり、昨年、2期目の任期を開始したトランプ大統領がイランとの核協議を再開した。

 しかし、トランプ大統領とネタニヤフ首相がタッグを組んだ米国とイスラエルは、昨年6月の核協議と2月の核協議の最中に大規模なイラン空爆に踏み切った。このころ、イランが核兵器を開発する可能性がさらに高まったという懸念が浮上し始めた。米国のスティムソン・センターや英国のチャタムハウスなどのシンクタンクは、イランが核技術の水準を高めて交渉カードに用いる「核のしきい値戦略」を放棄し、核兵器をできるだけ早期に取得する北朝鮮モデルに注目していると分析した。スティムソン・センターのエバン・クーパー研究員はハンギョレのインタビューで「交渉中に敢行された米国の攻撃はイランに『核兵器だけが唯一の抑止手段』という確信を持たせるだろう」と述べた。

 実際、イランでは、2月に戦争が勃発して以降、核技術を強化しようという強硬派の声が高まっている。ロイター通信は3月、イランの高官筋の話を引用し、戦時下でイランのイスラム革命防衛隊が権力の中心に立ち、核政策に対する強硬路線が浮上していると報じた。イラン国会の国家安全保障外交委員会の報道官を務めるエブラヒム・レザイ議員は12日(現地時間)、Xに「(米国が)攻撃を再開する場合、イランの選択肢の一つは(ウラン濃縮度)90%濃縮になるだろう」と明言したことは、核兵器を開発可能だとする警告だと受け止められた。

 先月8日の休戦以降、終戦交渉が1カ月ほど続いている現状のもとで、イランの核戦略はどこに向かっているのだろうか。イラン核協議で博士号を取得した韓国外語大学中東研究所のペク・スンフン専任研究員はハンギョレに、「イランは日本をモデルにした核のしきい値戦略を放棄しないとみられる」と述べた。ペク研究員は「現状のもとでしきい値を超えて核兵器を保有しようとすると、逆に米国とイスラエルからさらに激しく攻撃される可能性があり、制裁もいっそう強化されるなど、イランとしては得るものは多くない」とし、「今回の交渉では、イランが制裁緩和と核プログラムを交換しようとする動きがあるだけに、核兵器開発の可能性は低下した状態にある」と述べた。

 韓国外語大学のユ・ダルスン教授(ペルシャ語・イラン学科)も「イランが核兵器政策をさらに強く押し進める場合、戦争の口実を与えるだけでなく、経済制裁が強まる可能性がある」とし、「イランにとって核プログラムは、一種の交渉カード」だと述べた。ユ教授は「イランが今回の戦争で恐れているのは、米国やイスラエルではなく自国民」だとしたうえで、「イランの最も重要な関心事は、経済難を打開する資金を確保することであり、そのためには、核プログラムの緩和と引き換えに、凍結資産と経済制裁の解除を勝ち取ろうとしている」と述べた。

 イラン政府が公式には核兵器は追求しないとする立場を表明しているのも、このような分析を裏付けている。イランのペゼシュキヤーン大統領は24日、イラン国営放送で「われわれは、核兵器と地域の不安定化を追求しないと世界に確信を与える準備ができている」とし、「戦争と不安定を持続させるために、ありとあらゆる機会を利用しているのは、まさにイスラエル政権」だと述べた。これまでイラン政府は、前最高指導者のアリ・ハメネイ師による2003年の核兵器禁止の「ファトワ」(イスラム法解釈)を根拠に、核兵器を追求しないと表明してきた。1980~1988年のイラクとの戦争中、イランの最高指導者だったルーホッラー・ホメイニ師と当時大統領だったアリ・ハメネイ師は、イラク軍による生物・化学兵器の攻撃で、2万人以上のイラン人が死亡する事態を経験し、核兵器のような大量破壊兵器はイスラムの精神にそぐわないとする信念を持ったとされる。

 イランは最近、米国との終戦交渉の過程で、核プログラムの制限を一部受け入れようとする姿勢を示している。米国公共放送「PBS」は6日、イランのウラン濃縮の中断期間について、米国は20年、イランは10年を主張しているなか、12~15年の水準の折衷案が議論されていると報じたことがある。米国メディア「アクシオス」は23日、覚書の草案には、イランが核兵器を絶対に追求しないという約束と、今後60日間の交渉でイランの高濃縮ウランの備蓄分の処理方法と、ウラン濃縮の中断を議論するという内容が含まれていると報じた。

 ただし、今後も、核兵器を保有すべきだとするイラン内部の軍部・強硬派の要求と、これを根拠に「イランは核兵器の野心を放棄していない」とする西側の疑いは絶えないとみられる。イランから核兵器保有の主張が出てくる最大の原因は、イスラエルが保有する核兵器だ。韓国で「北朝鮮の核兵器に対抗する独自の核兵器を保有しよう」という提案が出てくることに似た状況にある。イスラエルは核兵器保有を認めも否定もしていないが、1960年代末から始まり、現在では100発前後の核兵器を確保していると推定されている。イランを数回攻撃し、核兵器まで保有するイスラエルは、イランにとっては実存的な脅威だ。ユ教授は「イスラム国家のうち唯一の核保有国であるパキスタンが、交渉の仲介役として登場した背景の一つには、イランがイスラエルの核兵器の脅威に対するけん制や防衛網としての役割をパキスタンに期待できるからかもしれない」と分析した。

 国連総会では、1970年代から昨年までほぼ毎年、イスラエルを念頭に置き、すべての国の核拡散防止条約(NPT)加盟と核兵器拡散の禁止、中東地域のすべての核施設をIAEAの監視下に置く「中東非核地帯」の設立を求める決議案を可決している。ユ教授は「今回の終戦合意でイランが核兵器を追求しないと宣言すれば、国際社会がイスラエルの核兵器問題をさらに真剣に公論化する必要がある」と述べた。続けて、ユ教授は「さらに根本的には、両国の敵対関係の原因であるパレスチナ国家の承認をイスラエルが受け入れてこそ、両国の紛争が繰り返されなくなるだろう」と強調した。

2026/05/26 07:53
https://japan.hani.co.kr/arti/international/56284.html

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