[山口二郎コラム]日本の「男女の平等」

投稿者: | 2024年6月3日

 今、日本では、NHKテレビの朝の連続ドラマ「虎に翼」という作品が話題になっている。これは、日本で初めて女性の弁護士となった人物の奮闘を描いた物語である。主人公は、1930年代に、見合い結婚を勧める母親に反発し、大学の法学部に進み、女性にも門戸が開放されたばかりの高等試験(現在の司法試験)に合格して弁護士となった。

 女性は早く結婚するべきだという母の教えや、女性は弁護士や裁判官になれないという当時の国の制度に対して、「はて?」と疑問を感じる所から主人公の奮闘は始まる。そして、女性の活躍の場を少しずつ切り拓いていく。ちなみに、主人公の大学時代の友人の一人に、当時の植民地だった朝鮮から来ていた留学生の女性がいて、主人公たちと励まし合いながら勉強する場面も印象的であった。

 この番組に多くの人々が感動し、共感しているのは、今の日本でも女性に対する実質的な差別が残っており、生きづらさを感じる女性、あるいはそれに心を痛める男性が多数存在するからであろう。確かに、日本の企業は、利益追求の観点から、女性差別を卒業しつつある。この人手不足の時代、優秀な女性を活用しないというのは愚かな経営政策である。公務員の世界でも、女性の採用は増加してきた。国家公務員採用数の中の女性の割合は、この15年間で、約25%から約39%に増えている。

 しかし、家庭生活における女性が背負う重荷は変わっていない。育児、家事は基本的に女性の仕事という慣習は大きくは変わっていない。日本では毎年の出生数が低下を続けており、人口減少は加速することが確実である。女性が男性と同様に働くことが当然となった社会において、出産や子育てを社会的に支援する仕組みがまだ整備されていないことが出生数の低下の最大の原因である。

 長年日本を支配してきた自民党は、女性政策について深刻な矛盾に陥っている。経済界からは、日本経済の活性化のために男女平等を一層進めるよう要請を受けている。日本では、結婚後に夫婦が同一の姓を名乗らなければならないという民法の規定がある。実際にはほとんどの場合、夫の姓にそろえる形が取られている。これは女性のキャリア形成にとって大きな障害であり、選択的夫婦別姓制度を求めるのはいまや国民の多数派である。日本経団連さえ、この制度の導入を求めるようになった。しかし、自民党では男性優位の家父長主義が支配的である。選択的夫婦別姓制度は日本の伝統的な家族像を壊すという、根拠不明な主張を繰り返している。

 日本の権威主義の根底にある天皇制に関して、皇室典範で天皇は男性に限るとされている。いま、実質的に天皇の地位を継承する資格を持つ男子の皇族は、天皇の弟とその息子だけであり、天皇制の持続が危ぶまれる状況である。しかし、自民党は女性天皇の実現については一貫して否定的である。

 このように、家父長主義や権威主義は日本社会を息苦しいものにして、日本を先細りの状況に追い込んでいる。いま、岸田文雄政権は裏金問題への国民の批判を受けて、行きづまっている。衆議院の補欠選挙や大きな地方選挙で連敗し、岸田首相の退陣も取りざたされている。世論調査では、政権交代を望む声も高まっている。

 具体的な政策課題は多いが、まず取り組むべきは、ここまでに述べたような人間の自由な生き方を保障するような近代的法制度の整備であろう。一部の保守派が言う伝統の維持か、個人の自由で多様な生き方を保障する近代的社会制度の実現かという対立図式を立て、国民が意思表示をすることが、日本社会の持続可能性を確保するための第一歩である。

 冒頭に紹介した「虎に翼」の主人公は、自分の生き方を拘束する因習や常識に対して、その根拠を問い、自分の生き方を貫こうとする。最初はほんの少数の人間の「破天荒」、「非常識」な行動が共鳴者を広げ、社会を変える力につながった。現在の日本人にも、諦めず、粘り強く自分の生き方を追求し、因習を打破する努力が求められる。

山口二郎|法政大学法学科教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr)

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