遠くの山や森、畑を背景に、網巾(マンゴン:朝鮮時代の男性の装身具。結い上げた髪が落ちてこないように額に巻いたもの)かぶり、キセルをくわえた老人の姿が見える。傾く日差しを受け、身にまとった白衣のすその所々に影が落ちている横向きの姿を、印象派風の筆致で描いた。102年前に朝鮮初の洋画家・高羲東(コ・ヒドン、1886~1965)が描写した習作である人物画の生き生きとした姿に驚かされる。このように長い年月にわたり忘れられていた朝鮮近代の隠れた秀作が、東京の皇居内にそのまま残されていた。
高羲東をはじめ、尹喜淳(ユン・ヒスン、1902~1947)、金容鎮(キム・ヨンジン、1878~1968)、洪得順(ホン・ドクスン、1905~?)など、1920~30年代の日帝強占期(日本による植民地時代)に朝鮮画壇をけん引した書画家9人の絵画と書が、東京の皇居にある皇室所蔵品の博物館「皇居三の丸尚蔵館」に、100年近く完全な状態で保管されていた事実が明らかになった。
太平洋戦争で日帝が敗北する前、皇室の事務を担当する政府省庁だった宮内省が、1922~1933年に朝鮮総督府主催の朝鮮美術展覧会(朝鮮美展)で入賞した朝鮮人と日本人の近代作家の作品60点あまりを買い上げ、皇室の所蔵品とした記録が公開されたことにより、確認された。
これまで、朝鮮美展の図録に不鮮明な図版として掲載されていただけで所在が不明で、失われたと考えられていた朝鮮近代美術史の重要作品の実物が確認されたという点で、その意義は大きい。
このような事実を韓国の学界に初めて伝えたのは、皇居三の丸尚蔵館の田中純一朗主任研究員だ。田中研究員は7月28日、ソウル市孔徳洞(コンドクトン)にある韓国近現代美術史学会(チョ・スジン会長)附属の近現代美術研究所で開催された発表会に出席し、自らが3月に日本で先行して発表した「朝鮮美術展覧会と宮内省」の内容をスライドとともに紹介した。
「朝鮮美術展覧会と宮内省」は、皇居三の丸尚蔵館に所蔵されている作品のうち、宮内省が当時買い上げた朝鮮美術展入賞作の絵画作品を対象とした初の調査研究の結果だ。田中研究員は、宮内庁書陵部図書課の宮内公文書館に所蔵されている『奨励録』と『奨励御買上品年度別簿』に基づき、宮内省が買い上げを始めた1922年から最後に買い上げた1933年までの過程を概括し、その変遷と実態を検討した。その結果、11年間にわたり、入賞作をはじめとする出品作62点を宮内省が買い上げ、このうち、朝鮮人作家9人(高羲東、尹喜淳、金昌燮(キム・チャンソプ)、洪得順、黄庸河(ファン・ヨンハ)、朴好秉(パク・ホビョン)、金禹範(キム・ウボム)、金容鎮、金圭鎮(キム・ギュジン))の絵画と書が残されている事実を確認した。
現存する朝鮮人作家の絵画は、西洋画4点と文人画や屏風などの東洋画5点に分かれるが、屏風を除くすべての作品が入賞作だ。特に西洋画については、現存する作品がほとんどない1920~30年代の作家による作品の実物が公開され、注目を集めた。高羲東の油絵『習作』は1924年の第3回朝鮮美術展の4等入賞作で、1910年代の自画像3点に続き、実物が確認された4番目の油絵だ。田中研究員は「高羲東は第3回展を最後に、その後は朝鮮美術展に出品せず、1920年代後半から東洋画に回帰したという点で、この作品は公的な場で彼が発表した最後の油絵作品だと言える」と指摘した。黄色いチョゴリを着た朝鮮の少女を描いた尹喜淳の『黄衣少女』(1930)、東京のニコライ聖堂を描いた金昌燮の『聖堂』(1923)、1920年代末に洪水で崩壊した水原(スウォン)の訪花随柳亭一帯の城壁の跡を描いた洪得順の『郊外の訪花随柳亭』(1929)なども注目される。
発表会を準備した近現代美術研究所のクォン・ヘンガ所長は「1920年代と1930年代初期の朝鮮美術展の出品作は、多くが現存しないだけでなく、1920年代半ばから後半の朝鮮近代画壇の実作品自体が珍しいので、今回公開された洋画は近代絵画史の空白を埋めるうえで、非常に役立つだろう」と説明した。この日の席上では、当代の画壇の実力者だった海岡・金圭鎮(1868~1933)が、1923年の第2回朝鮮美術展の審査委員団に参加し、参考作品として出展した17点の屏風についても、買い上げ品として本体の一部を写した写真が公開されたが、全体は破損している裏面を修復した後に公開する予定だと田中研究員は述べた。
田中研究員は「朝鮮美術展の入賞作でなくても、各界の要人が寄贈したり、別の経路で入手したりした朝鮮人作家の作品も一部あることが確認されているが、全容を具体的に調査したことはない」とし、「今後、韓国の学界と協力し、韓国近代美術史の主要作家が含まれる所蔵品の調査研究を深めていきたい」と述べた。田中研究員の報告は、学会学術誌「韓国近現代美術史学」(2026年上半期、8月初旬に刊行)に『朝鮮美術展覧会と宮内省:忘れられた韓国近代美術コレクションに関して』と題して掲載される予定だ。
2026/07/31 11:15
https://japan.hani.co.kr/arti/culture/56827.html