「民主」という仮面を被った社会主義【コラム】

投稿者: | 2026年8月30日

 270.85ドル(現在のレートで約4万3000円。以下同じ)。

 ニューヨークの殺人的な物価はよく聞いていたが、これほどだとは思わなかった。特派員赴任のためにJFK空港に降りてUber(ウーバー)を呼んだところ、1時間ほどかかる家までのタクシー代がこれだった。移民バッグと呼ばれる大きなダッフルバッグを5つ積むために大型車両を呼び、重い荷物を一緒に運んでくれた運転手へのチップまで上乗せしたことを考慮しても、開いた口が塞がらなかった。ソウルから日本・台湾・香港はもちろん、オフシーズンの東南アジア往復航空券に匹敵する料金だった。「ニューヨークの生活費は、スパイダーマンにとってヴィラン(悪党)よりも脅威的な敵になり得る」という言葉を実感した。

 しかしその日、ニューヨークのウーバー運転手は機嫌が良さそうだった。1日の収入のうち、かなり大きな割合を占める客だったからだろう。コートジボワールから渡ってきて間もないという彼は、強いフランス語なまりの英語でニューヨーク生活の辛酸を打ち明けた後、不意にこう言った。「私たちはゾーラン・マムダニ・ニューヨーク市長が好きです。困っている人のことを考えてくれますから」

 その言葉が長く残った。ニューヨークのウーバー運転手の時間当たりの平均収入は35ドル前後(約3970円。HR&A調査)だ。週40時間ずつ1年間きっちり働けば年収は7万ドル(約1100万円)を超えるが、車両の減価償却とガソリン代、保険・整備費などを差し引くと、手にするお金は約5万ドル(約790万円)だ。1人当たりの国民所得が9万4000ドル(約1500万円)を超えた米国で、それも物価が殺人的なニューヨークでがんばるには厳しい金額だ。

 資本主義の国・米国、その中でも心臓部であるニューヨークで、「民主」という仮面を被った社会主義、「民主社会主義」が広がるのには理由があった。庶民の苦しい生活に絶妙に入り込んだのだ。自らを民主社会主義者と称するマムダニは、「社会主義のイデオロギーをこの社会に広めよう」とは言わなかった。彼が掲げた単語は、経済的余裕を意味する「アフォーダビリティ(affordability)」だった。家賃や食料品、交通費や育児費を、平凡な月給で賄えるようにするという意味だ。マムダニは、公共アパートの家賃を凍結し、バスを無料化し、市所有の食料品店を作って主要食品を市価より30%安く売ると言った。

 もちろんタダには代償が伴う。家賃凍結は家主たちの訴訟を招いた。市が税金で支援する食料品店が零細事業者の生存を脅かすという反発も激しい。市場の問題を政府が価格統制で解決しようとしてより大きな歪みを生むのは、社会主義の古くからの失敗でもある。

 それでもニューヨーカーたちの不満まで間違っていると言えるだろうか。ウォール・ストリート・ジャーナルの編集局長を務めたジェラルド・ベイカーは最近のコラムで、「社会主義は間違った解答だが、質問は本物だ」と書いた。ニューヨークの質問は簡単だ。一生懸命働く人が自分の力で家賃を払い、買い物をして子供を育てられるかということだ。

 韓国だからといって他人事ではない。資本主義に対する信頼は、イデオロギーの問題ではなく暮らしぶりから崩れる。ニューヨークの現実を他山の石とすべき理由だ。

2026/08/30 09:00
https://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2026/08/28/2026082880146.html

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