トランプ大統領の米国はイラン戦争と国債危機の泥沼に陥っている。1970年代初め、ベトナム戦争が泥沼化するなかで起きたドル危機に似ている。
当時の米国は、日本や欧州に押されて拡大した貿易不均衡に加え、ベトナム戦争によって財政赤字が雪だるま式に膨れ上がり、インフレとドル安に苦しめられた。結局、1971年8月15日、当時のニクソン大統領は、金1オンスを35ドルで交換していたドルと金の兌換を突然停止した。「ニクソン・ショック」だった。1973年10月、第4次中東戦争が引き金となったオイルショックは、その危機の頂点となった。
米国はこの危機をペトロダラー体制と産業構造の再編で突破した。石油取引をドルのみに限定するペトロダラー体制で基軸通貨の地位を死守し、競争力を失った重厚長大型の製造業を果敢に切り捨て、代わりにコンピュータを基盤とする先端技術産業と産業の金融化を詰め込んだ。
その転換と革新によって米国は冷戦で勝利し、グローバル単一市場の分業構造の頂点に立ち、全面的な覇権を享受した。中国などの開発途上国は安価な労働力と製品を供給し、韓国などの中堅国は巨大な資本と設備を要する製造業を抱え込み、米国は金融と先端技術産業の設計という最も甘い部分を手にした。アップルやグーグルのような米国の巨大IT企業がその典型だ。彼らは、設備投資の負担が大きい半導体製造などは韓国や台湾に押し付け、設計と運営だけを掌握することで、収益を最大化した。
この分業構造は、世界の工場から先端技術産業の主導権までを狙う中国の挑戦を招き、製造業の空洞化によって追い出された白人中下層の怒りを蓄積させた。その怒りがドナルド・トランプを生み出した。彼のどたばた劇は結局、米国をイラン戦争の泥沼に引きずり込んだ。
イラン戦争で米国は兵器不足という素顔をさらけ出した。根底には産業競争力の侵食がある。製造業が空洞化した米国は、大洋を航海する船舶1隻さえ造ることができない。軍事力の象徴である航空母艦11隻のうち、稼働しているのはわずか4~5隻にすぎない。イランの安価なドローンとミサイルを前に、高価な精密誘導兵器の在庫は30~80%が消費され、補充には6年かかる。高収益の精密誘導兵器に特化した米国の防衛産業企業は、イランのように安価なドローンやミサイルを量産する能力を持っていない。
トランプ大統領はイランに対し、「経済追放作戦」へと方向転換した。ドルの覇権をふたたび試練にさらした。現在、米国は国家債務が40兆ドルを超えるなか、国債金利が20年ぶりに高水準を記録し、国債を買い戻す羽目になっている。連邦政府の財源である財務省一般勘定(TGA)の資金まで引き出して使うという話まで出ている。連邦税収の20%、連邦予算の15%が国債の利払いで消えている。金利が0.1ポイント上昇するだけで、年間の追加利払い負担は約350億~380億ドルに達する。
米国の国債危機は1970年代初めのドル危機と何ら変わりはない。貿易不均衡が深刻化したうえ、戦費を含む財政支出が過剰になっている。これに加え、データセンター増設に天文学的な資金を注ぎ込んでいる巨大IT企業が市中の資金を吸い上げ、国債金利の上昇を加速させている。大規模な施設投資なしに高収益を享受してきた巨大IT企業の強みと競争力は、消え去りつつある。人工知能(AI)バブルの兆候が見え隠れし、米国産業の競争力は転換点に立っている。
対イラン制裁の成否は最終的にはドル覇権の力にかかっている。イランと中国の石油取引と各国間の非ドル取引を阻止できるかどうかということだ。中国の銀行を制裁する必要がある。米国にはこれを実行する意志があるのか、能力があるのか、実効性があるのか、すべて疑わしい。中国のレアアース輸出規制という反撃にも耐え抜かなければならない。そうすればするほど、人民元建ての貿易はさらに拡大することになるだろう。西側諸国は2014年のロシアのクリミア半島併合後、これまでに何と3万3000件の制裁を浴びせてきた。ロシアは健在であり、ロシアと中国による自国通貨決済などの非ドル取引の規模は拡大している。
過去14年間、米国がドルを武器化するたびに、中国の決済システムを通じて、より多くの貿易金融取引が人民元建てに移行したと、ウォール街にマクロ経済リポートを提供する経済分析家のルーク・メロン氏はフィナンシャル・タイムズで指摘した。イランと国際核協定を結んだ2015年、当時のオバマ大統領も「イランに真に打撃を与えるためには、中国のような国を米国の金融システムから切り離す必要があるが、そのような措置は米国経済に深刻な混乱を引き起こし、基軸通貨としてのドルの役割に国際的な疑問を提起することになる」と認めた。
イラン戦争は米国の軍事力の素顔をさらけ出した。今後繰り広げられる経済戦争は、国債危機のもとでドルの亀裂をさらに深めるだろう。1970年代の米国の指導部には、このような危機を乗り越える能力とビジョンがあった。しかし、今の米国を率いるのはトランプだ。ニクソン・ショックの時とは違い、トランプ・ショックは米国を救うことはできないだろう。
2026/08/31 18:43
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