2019年の秋のことだ。朝鮮人の強制労働で有名な、ユネスコ世界遺産に登録された軍艦島(公式の地名は「端島」)などについて日本の右派民間団体が書いた報告書を偶然読む機会があった。報告書を書いた民間団体の名は「産業遺産国民会議」。日本の近代産業の労働の歴史の調査を安倍政権に依頼されて作成した報告書だった。報告書は一般には公開されていなかったが、日本の市民団体「強制動員真相究明ネットワーク」による情報公開請求で外部に公開された。
産業遺産国民会議が2016年から2018年にかけて日本政府に3回にわたって提出した報告書は、朝鮮人の強制労働被害を否定したり歪曲したりする記述であふれていた。「朝鮮人の炭・鉱夫の賃金は日本人と大きな差はなく、民族間の賃金格差が民族差別だったとは見なせない」と記された論文が掲載されていた。労働運動にかかわった経歴をもつという人の「朝鮮人が特別に虐待を受けたということは、軍艦島では聞いたことがない」との証言も含まれていた。
このような報告書が作成された理由は2015年に遡る。日本政府はその年、軍艦島を含む「明治日本の産業革命遺産」をユネスコ世界遺産に登録することに成功した。日本政府代表の佐藤地ユネスコ大使(当時)は朝鮮人強制労働の歴史を指摘されると、「1940年代にいくつかのサイトにおいて、その意思に反して連れて来られ、厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者等がいた」と認めた。ユネスコはこの時、日本政府に対し、各サイトの「歴史全体」について理解できるようにする「説明戦略」を策定するよう勧告した。朝鮮人強制労働の事実をきちんと伝えよと言ったわけだ。
しかし、軍艦島のユネスコ世界遺産への登録に成功した後、安倍政権は抜け道を探したようだ。安倍政権は、明治日本の産業革命遺産の歴史全体を理解できる展示施設として企画したとして、2020年3月に産業遺産情報センターを開館した。センターの運営は産業遺産国民会議に委ねられた。趣旨どおりなら、産業遺産情報センターには朝鮮人強制労働の歴史を伝える内容がなければならないが、そのような展示はなかった。むしろ朝鮮人に対する差別はなかったという主張が強調されていた。とうとうユネスコ世界遺産委員会が2021年に遺憾を表明する決議をあげた。その後は、同センターの展示にあるQRコードからアクセスすれば、2015年の日本政府代表による英語での発言を聞けるようにした程度で、大きな変化はなかった。
岸田政権の推進する佐渡鉱山のユネスコ世界遺産への登録も、軍艦島と同様に展開されている。日本政府は佐渡鉱山の世界遺産登録対象期間を江戸時代(1603~1867)に限定し、日帝強占期に約1500人にのぼる朝鮮人が強制動員され、苛酷な労働に苦しめられた歴史を覆い隠そうとしている。これは軍艦島の申請時に対象期間を明治時代(1868~1912)に限定したのと似たやり方だ。
このような日本の試みにユネスコがひとまずブレーキをかけたのも似ている。先日、ユネスコの諮問機関である国際記念物遺跡会議(ICOMOS)は、佐渡鉱山の登録の保留(情報照会)を勧告した際、「鉱業採掘が行われたすべての時期を通じた資産に関する歴史全体を現場において包括的に扱う説明および展示戦略を策定し、施設や設備などを整えるべきだ」と指摘した。
佐渡鉱山のケースでは、軍艦島の登録時よりひどいことが起きる可能性もある。それを防ぐためには、少なくとも2015年の軍艦島登録の際の日本の約束や表現より低い水準の内容を受け入れてはならない。日本政府が約束をしたとしても、軍艦島のケースのようにまたも趣旨を歪曲したり約束を破ったりする可能性がある。2015年の日本政府代表の発言より劣る表現を受け入れてしまうと、その後、韓国は声をあげることさえ難しくなる可能性がある。
佐渡鉱山がユネスコ世界遺産に登録されるかどうかは、来月21~31日にインドで開催されるユネスコ世界遺産委員会で最終決定される。日本政府は韓国の説得にあたっているとみられる。韓国政府は最近、「韓日両国の間で真剣かつ誠実に協議が行われている」と述べている。最高裁の強制動員賠償判決については日本に一方的に譲歩した尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は、果たして歴史問題を直視し、真剣な姿勢を取ることができるのか。多くの人々が見守っている。
2024/06/17 17:44
https://japan.hani.co.kr/arti/opinion/50343.html