K-POP、ファンの心が疲れたら遠くに行けない

投稿者: | 2024年8月10日

 2024年6月27日、日本の東京ドームでは、韓国のガールグループ「NewJeans」のファンミーティング「Bunnies Camp」が開催された。NewJeansのメンバーのハニは、1980年代に当時の日本で最も多く愛された歌手の松田聖子の「青い珊瑚礁」を歌い、大きな話題となった。派手な舞台演出とキレのあるダンスで代表されるK-POPではなく、恥ずかしげなリズムと愛らしい音色に、日本の観客たちは驚いて感心し、感動した。東京ドームを埋め尽くした数万人のファンたちは思い出を回想し、韓国のガールグループ「NewJeans」のベトナム系オーストラリア人のメンバーであるハニが歌う日本の大衆歌謡に夢中になった。デジタルプラットフォームの発展とともに、全世界がともに楽しむK-POPの力を改めて確認した場面だ。

 K-POP歌手の人気は変わっていないとみられているが、韓国のエンターテインメント産業は、かなり深い谷間に陥っている。NewJeansが所属するHYBEの株価は、2023年の最高値に比べ26%も下落した。HYBEは状況がよい方だ。JYPエンターテインメントは62%、YGエンターテインメントは60%、SMエンターテインメントは52%下落して半分になった。

■深い谷間に陥ったエンターテイメント企業

 エンターテインメント企業の株価を引き下ろした主な要因はアルバム販売枚数だ。物理レコードの販売枚数がおかしい。誰でも実感できるように、最近はカセットテープやCDで音楽を聴く人はほとんどいない。大部分はレコードでなくデジタル音源で音楽を聴く。ところが、2020年以降のレコード販売枚数は大幅に増大した。サークルチャートに基づく韓国の年間アルバム販売枚数は、2014年の737万枚から2023年には1億1577万枚と15倍増えた。2020年以前までは年平均33%程度増加していたアルバム販売枚数が、2020年以降は毎年90%増えた。

 K-POPのレコード販売枚数は全世界が驚くほどだ。国際レコード産業協会(IFPI)によると、2023年に全世界で最も多く販売されたアルバムは、SEVENTEENの「FML」だった。2位はStray Kidsの「5-STAR」だ。米国最高の人気歌手であるテイラー・スイフトのアルバム「Midnights」は4位に過ぎなかった。IFPIのデータ責任者であるルイス・モリスン氏は「世界のレコード産業はこの数年間で2桁成長を続けているが、実物レコード市場ではK-POPが大きく貢献した」と説明した。

 K-POPのアルバム販売枚数の増加は、止まることなく減り続けていた世界の物理レコードの販売枚数の減少傾向をひっくり返したほどだ。1999年に222億ドルだった世界のレコード販売枚数は、20年間のうちの1年でさえ反発することなく、2019年には41億ドルにまで下落した。レコード販売の規模が減ったからといって、人々が音楽を聴いていないのではない。デジタル音源の販売額は2006年の1億ドルから2023年には193億ドルに増えた。ところが、K-POPのレコード販売が急増した2020年からは、世界のレコード販売額は37億ドルから2023年51億ドルに反騰した。

 K-POPのアルバム販売の秘密は「フォトカード」だ。アルバムを買うと、ファンが好きなアーティストのフォトカードが1、2枚入っている。ファンはフォトカードをメンバー別に全種類を集めたがるため、アルバムを複数枚買う必要がある。メンバーが5人のアイドルグループのフォトカードをすべて集めるためには、アルバムを5枚を買わなければならない。エンターテインメント企業は、1つのアルバムを複数バージョンで出し、別のフォトカードを入れる。バージョンが2種類あれば、アルバムを10枚買う必要があり、メンバー別にフォトカードが2種類ある場合は、20枚買わなければならない。参考までに、SMエンターテインメントの男性アイドルグループのNCTは26人組グループだ。フォトカードは無作為に入っている。アルバムを20枚を買えばフォトカードを20種類集めることができるわけではない。有名アイドル歌手の新規アルバムが発売される日、販売店の前にはレコードを買ったファンたちが集まる中古市場が開かれる。重複して引いたフォトカードを交換するためだ。

 アルバムを売るための製作会社の戦略は、これで終わるわけではない。アルバムに入ったフォトカードの別の特定の販売店で決まった期間にだけ入手可能な「未公開フォトカード」がある。販売店別に異なる未公開フォトカードが与えられるため、販売店の数だけ買い足す必要がある。ファンサイン会もアルバムを売るための手段だ。アルバムを買えばファンサイン会の応募権を得られる。無作為に抽選したり、アルバムを多く買った順に抽選したりもする。複数枚を買ったとしても、ファンサイン会に行けるかどうかは知らせてくれない。アーティストの顔を1~2分程度みるために、ファンたちは数十枚のアルバムを購入する。

 フォトカードは投機的な欲望を刺激したりもする。ファンサイン会や公開放送に行くことで入手できるフォトカードは、数量が限定されているため、中古市場で金額を上乗せして数十万から数百万ウォンで取り引きされたりもする。売れた数百万枚のアルバムはファンたちの手に握られるやいなや捨てられる。どうせ必要なのはフォトカードとファンサイン会の応募券だ。円形のプラスチック(CD)はゴミだ。新作の発売日の販売店の周囲には、ファンたちが捨てていったアルバムが山積みになる。韓国だけでみられる光景ではない。2024年4月、日本の東京渋谷にある公園に、SEVENTEENのベストアルバム数百枚が捨てられた。「ご自由に持って行ってください」と書かれたメモがあったが、持っていく人はいなかった。正直な話、K-POPが好きな10代や20代のうち、CDプレーヤーを持っている人は何人いるだろうか。

■K-アルバム販売の秘密、フォトカード

 アルバム販売をそそのかすまたもう一つの要素は、初動販売枚数だ。販売枚数は人気歌手の尺度だ。ところが、アルバム販売枚数は時間が経つにつれ増えるため、発売されてから時間が経ったアルバムが販売枚数の面では有利だ。そのため、発売後1週間の販売枚数を人気歌手の尺度とするが、これを「初動売上枚数」という。初動販売枚数の1位は、2023年10月発売されたSEVENTEENのアルバム「Seventeenth Heaven」で509万枚が販売された。2位はStray Kidsの「5-STAR」の461万枚だ。

 初動販売枚数はアイドルのプライドだ。アイドルに力を与えたいファンたちはじっとしていられない。新しいアルバムが発売されると、ファンクラブの火力が集中する。製作会社は初動販売枚数を増やすために、販売会社に莫大な量を押しつける。これを「押し出し」という。膨大な枚数を抱え込んだ販売会社は、販売を増やせる武器が必要だ。製作会社は販売会社にファンサイン会の応募券や特定の販売店だけで入手可能な未公開フォトカードを与える。

 どうせフォトカードを集めるためにアルバムを複数枚買うなら、くじ引きではなくフォトカードを複数枚入れて価格を上げる方がより常識的だ。そのような試みもあった。SEVENTEENはベストアルバムを発売した際、アルバムにフォトカードを全種類を入れた。ファンたちにとっては歓迎すべきことだが、価格が問題だった。一般的なアルバムの価格は1~2万ウォンだが、アルバムが正式販売される前に流通会社に提示した価格は何と17万8000ウォン(約1万9000円)だった。それにしても酷いのではないかという怨念の声が上がると、所属会社は「運営上の誤りで、最終価格ではなく、最初に企画した価格で間違って案内された」として、「価格表記の誤り」だと解明した。所属会社はアルバム価格を6万9500ウォン(約7500円)に修正した。表記の誤りという説明をそのまま信じる人はいない。

 フォトカードのくじ引きが度を越していることを知りながらも、売上を見過ごすことができないエンターテインメント企業の内心が赤裸々にあらわになった。フォトカードのくじ引きの風土の決定的なシーンは、ADORのミン・ヒジン代表の記者会見だった。ミン代表はファンを金儲けの対象としてだけ考えるエンターテインメント産業の現実を批判し、「ランダムカード作って押し出しするようなことは、しないほうがいいだろう」と厳しく忠告した。過度なフォトカード商売は熱烈なファンさえ疲れさせた。2023年11月には月1500万枚まで売れたアルバム販売枚数は、2024年2月には月500万枚にまで減少した。エンターテインメント企業の株価も同時に落ちた。

 非正常的にまで増えたアルバム販売枚数は正常化している。エンターテインメント企業も、無理なアルバム販売から、ファンに感動を与えるコンサートや公演に比重を移している。2024年第1四半期のSMエンターテインメントのレコード売上は、前年度同期に比べて39%減り、HYBEは21.4%、JYPエンターテインメントは24%減少した。しかし、公演売上はSMエンターテインメントは106%、HYBEは74%、JYPエンターテインメントは355%増加した。

 エンターテインメントは人が人に喜びを与える産業だ。感動を与えて人生をより豊かにする産業だ。NewJeansの「青い珊瑚礁」に感動を受けたファンたちは、ふたたびアルバムを買ってグッズを買い、公演会場を訪れるだろう。K-POPの人気は過去のように特定の歌が短期間にうちに人気を呼んで消えるレベルではない。水が入ってきたら櫓を漕ぐという手法でファンとアーティストを減らす方式では、持続可能な産業にはなれない。K-POPの未来は、より多くのアーティストがさらに長くファンとともに良い思い出を作り、文化的領土を広めていく場合、よりいっそう明るくなるだろう。

2024/08/09 09:13
https://japan.hani.co.kr/arti/economy/50806.html

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)