尹錫悦大統領の日本観の退行…個人的好感が「奇怪な水準」に

投稿者: | 2024年8月19日

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が8月15日の79周年光復節の慶祝式で、「自由統一」という新たな統一ビジョンと戦略を提示しました。金泳三(キム・ヨンサム)大統領のときに登場した「吸収統一論」の延長のようです。

 しかし、尹錫悦大統領の自由統一論よりはるかに関心を集めたのは、「分裂した光復節」でした。光復会をはじめとする独立運動団体が政府主催の慶祝式に参加せず、ソウル市龍山区(ヨンサング)の孝昌(ヒョチャン)公園の白凡金九(キム・グ)記念館で個別に記念式典を開催しました。共に民主党をはじめとする野党の議員たちがこれに大挙参加しました。独立活動家の子孫であるウ・ウォンシク国会議長も政府主催の式典に参加しませんでした。光復80周年を目前にして、私たちはいったい今、何か問題を起こしているのかというみじめな思いしかありません。

 今回の事態の直接的なきっかけは、尹錫悦大統領によるキム・ヒョンソク独立記念館長の任命強行です。しかし、根本的には、尹錫悦大統領の就任から続いたニューライトと極右派の要人抜てきが累積した結果だとみるのが妥当だと思います。光復会のイ・ジョンチャン会長は、今回の光復節記念演説で「最近、真実に対する歪曲と親日史観に染まった低劣な歴史認識が幅をきかし、韓国社会を混乱に陥れている。光復会は決してこの歴史的退行とき損を、みているだけではいられなかった」と述べました。

 尹錫悦大統領の就任後、歴史・歴史教育関係の機関の役員のうち、少なくとも25の席をニューライトや極右派の人たちが占めたという記事を、京郷新聞が8月13日付の1面と3面に詳しく掲載しました。京郷新聞はこれを、李明博(イ・ミョンバク)大統領と朴槿恵(パク・クネ)大統領時の「歴史修正」の動きに回帰するものだと規定しました。

■尹大統領にとって日本はいったい何なのか

 尹錫悦大統領は、ニューライトや極右派の人たちをなぜたびたび起用するのでしょうか。尹錫悦大統領にとって、日本はいったい何なのでしょうか。

 一部の人たちは、尹錫悦大統領は親日派だからこのようなことをするのだと言います。尹錫悦大統領にとって、日本は少し特別な国であることは事実です。2023年3月の日本訪問を控えて読売新聞と行ったインタビューの最後の問答は、次のようなものです。

 ――尹大統領の父親が一橋大学にいたことがあり、大統領も幼い頃、日本によく行ったと聞いた。日本に対する印象は。

 「私の父が65年の国交正常化の後、66年に一橋大へ1年間行っていた。当時、(韓国の)漢陽大学の教授をしていた。私の家族も休みの時に父に会いに行った。今も一橋大のある(東京都)国立市が目に浮かぶ。(東京の)上野駅から鉄道に乗り、国立駅で降りて、父のアパートまで行ったことを思い出す。

 学生の時に思ったことは、先進国らしくきれいだということだ。日本の方々は正直で、(何事にも)正確だということを多く感じた。一橋大の教授の家にも招待されて食事をした。とても美しい記憶として残っている。また、私は日本の食べ物が好きだ。盛りそばやうどん、うな重などが好きで、今も(日本のテレビドラマ)『孤独のグルメ』が(韓国の)テレビで流れていれば必ず見る」

 尹錫悦大統領の父親のユン・ギジュン教授は、公州農高、延世大学、延世大学大学院を出た後、漢陽大学教授をしていました。その後、日本の文部省の国費奨学生第1号に選抜され、一橋大学大学院で経済学を勉強し、1968年から延世大学応用統計学で教授をしました。

 幼いころに訪問した国に対して個人的に好感を持つことはありえます。しかし私は、尹錫悦大統領は親日派ではないと考えます。日本で生まれた李明博大統領が親日派ではないことと同じです。大韓民国の大統領が親日派だとすれば、彼を大統領に選出した大韓民国の国民を冒とくすることです。私は李明博大統領と尹錫悦大統領の愛国心を信じます。

 尹錫悦大統領が検察官だったころに彼に直接会って取材した記者たちは、尹錫悦検事は「博学多才」でしたが、外交と安全保障分野については特に話をしなかったことを記憶しています。その年齢と学歴にふさわしい程度の常識的な思考を持っていたということです。

 尹錫悦大統領の日本に対する理念と政策は、ほとんどが大統領になった後に形成されたとみるのが妥当です。政治家の思想と思考の流れを追跡するために、彼の話と文章を詳しく調べてみる方法があります。言葉と文章は人の考えを反映するからです。尹錫悦大統領の就任後の8・15祝辞と3.1節記念演説には、日本について述べた言葉と文章は山ほどあります。

 「かつて、私たちの自由を取り戻して守るために、政治的支配から抜け出さなければならない対象だった日本は、今や世界市民の自由を脅かす挑戦に対抗し、ともに力を合わせて進まなければならない隣人だ。韓日関係が普遍的価値に基づき、両国の未来と時代の使命に向かって進むとき、過去の問題も正しく解決されることができる」(2022年8月15日)

 「3・1運動から1世紀が過ぎた今、日本は、過去の軍国主義侵略者から、私たちと普遍的価値を共有し、安全保障と経済、そしてグローバル・アジェンダで協力する協力パートナーに変わった。特に、複合危機や深刻な北朝鮮の核の脅威などの安全保障の危機を克服するための韓米日間の協力が、これまで以上に重要になった」(2023年3月1日)

 「朝鮮半島と領域内において、韓米日の安全保障協力の重要性が日増しに強まっている。北朝鮮の核とミサイルの脅威を基本的に遮断するためには、韓米日3カ国間に緊密な偵察資産協力と北朝鮮の核とミサイルの情報のリアルタイム共有が行われなければならない。日本が国連軍司令部に提供する7カ所の後方基地の役割は、北朝鮮の南への侵略を遮断する最大の抑制要因だ。北朝鮮が南を侵略する場合、国連軍司令部の自動的かつ即刻の介入と報復が後に続くことになっており、日本の国連軍司令部の後方基地はそれに必要な国連軍の陸海空戦力が十分に備蓄されている場所だ」(2023年8月15日)

 「韓国・日本両国は、つらい過去を乗り越え、「新しい世界」に向けてともに進んでいる。自由、人権、法治の価値を共有して共同の利益を追求し、世界の平和と繁栄のために協力するパートナーになった。北朝鮮の核とミサイルの脅威に対する両国の安全保障協力は、よりいっそう強固になった」(2024年3月1日)

 尹錫悦大統領の日本に対する認識がどのように変ったのか、流れが感じられますか。再読してみても、少し背筋が寒くなります。

■野党「没歴史的な屈従外交」と批判

 今回の2024年8月15日の祝辞では、日本や韓日関係に対する言及自体がほとんどありませんでした。ユ・スンミン元議員は「本当に異常かつ奇怪なこと」だと指摘しました。そうです。日本に対する尹錫悦大統領の認識は「異常かつ奇怪な」水準にまでなりました。どのようにして、このようになったでしょうか。

 先に申し上げましたが、尹錫悦大統領は、外交と安全保障については偏見がほとんどない状態で突然政治に飛び込み、大統領に当選しました。そのような尹錫悦大統領の目と耳を「『韓米日』対『朝中ロ』」対決論者が魅了しました。キム・テヒョ国家安保室第1次長やキム・グァンジン全国家安保室長たちです。これらの人たちによって、尹錫悦大統領は冷戦時代の極右理念の路線に急速に意識化されたようです。もともと「晩成の人」が一番恐ろしいものです。これに、北朝鮮と米国の対話断絶、米中関係悪化、ロシア・ウクライナ戦争などの国際情勢も、尹錫悦大統領の信念を固める方向に作用したのでしょう。

 国内政治で尹錫悦大統領と敵対関係である「イ・ジェミョン代表の共に民主党」が日本に対して相対的に強硬な反日路線を取ったことも、尹錫悦大統領が親日路線を強化するうえで影響を及ぼしたのでしょう。作用・反作用の法則です。政治の両極化が深刻な状況では、尹錫悦大統領としては「保守既得権」勢力の守護者を選択するしかなかったのでしょう。

 朴露子(パク・ノジャ)教授が最近ハンギョレに「尹錫悦政権はなぜニューライトをひいきするのか」と対するコラムを書き、この点を鋭く指摘しました。

 「ニューライトの日帝合理化は、究極的に彼らの近代資本主義と帝国主義に対する肯定一辺倒の態度と結びついている。日帝だけが正当化されるのではなく、私企業と私有財産に根差した近代資本主義文明そのものが人類にとって「祝福」とみなされるのだ。一方、私有財産を否定した革命に政権の由来を置き、私企業を国家に服属させる中国や北朝鮮は「文明の敵」とみなされる。このような二分法と世界体制の覇権国家とその地域的同盟勢力に対する無条件的な美化は、尹錫悦政権の外交的構想と完璧に合致する。尹錫悦政権の北朝鮮に対する超強硬対決路線や、中国からの無理かつ多分に人為的なデカップリング(分離)は、中国と北朝鮮を悪魔化する史観で完璧に合理化される。さらに、日本と事実上の軍事同盟を結ぼうとする路線と米国に盲従する路線は、米国と日本を「資本主義文明の伝道師」と位置づける史観で正当化される。そのような意味で、ニューライト史観は、尹錫悦政権の国政哲学の「基本精神」に近い」

 そうです。尹錫悦大統領は当選から今に至るまで、日本に非常に多くのものを渡しました。それに見合ったものを返してもらえていないのです。日本メディアが日本政府に時々「「誠意を示すべきだ」と求めるほどです。尹錫悦大統領の対日外交を野党が「没歴史的な屈従外交」だと批判する理由です。尹錫悦大統領はそのような野党に対して「反自由・反統一勢力、黒い扇動勢力」だと毒舌を浴びせました。

 最後に、4月10日の第22回総選挙の惨敗後、尹錫悦大統領は、野党との協力政治を行うより「確実な味方」を結集させて国政を率いていくことが、政権維持に有利だとする結論を下したそうです。大統領室の雰囲気に詳しい人たちからの伝聞です。

 だとしたら大変です。尹錫悦大統領の残りの任期中に中道と統合を期待するのは難しいという意味だからです。ニューライトと極右派の人たちをさらに多く抜てきするという意味だからです。この事態をどうしたらいいのでしょうか。皆さんはどう思いますか。

2024/08/18 15:51
https://japan.hani.co.kr/arti/politics/50877.html

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)