【時論】政治ではなく科学の目で見た福島放流1年=韓国

投稿者: | 2024年8月27日

福島原子力発電所の汚染水(処理水)放流で韓国全土が大騒ぎした1年前、海洋環境を研究する筆者は知人らから多くの連絡を受けた。彼らは「今後海産物は食べられないということなのか」「天日塩もこれ以上安全ではないのか」と懸念した。海で生産された食べ物の安全性に関する心配が大部分だった。科学的根拠を基に知人らの不安を減らしたかったが、懸念と心配は絶えなかった。韓国政府は各種安全検査と水産物消費促進行事で1年間に1兆5000億ウォン(約1632億円)を超える予算を投じた。

2011年3月11日に東日本を襲ったマグニチュード9.1の大地震にともなう津波が福島原発を襲った。津波による浸水で原子炉1~3号機の冷却施設が止まると爆発が起き放射性物質が流出した。12年ぶりの昨年のいまごろ、保管してきた汚染水を海に放流すると「放射性物質が数カ月後には韓国海域に到達する」という主張が提起された。

 科学的な海洋学の知識ではそうした主張に同意しにくく、筆者が責任者を務める研究チームは福島で放流された放射性物質の移動時間と濃度変化をシミュレーションして提示した。それによると、海流によって放射性物質が韓国周辺の海に影響を与えられる時間は早くても9年という結果が出ており、国際学術誌に発表した。福島近海の海水は黒潮に乗り太平洋東部に流れ米国沿岸に到着するのに4~5年、再び西側に戻るのに4~5年かかるためだ。

海に放流された放射性物質は数年が過ぎる間に薄められ濃度が大幅に低下する。福島原発事故の影響がない日常の海でもセシウムは1立方メートルあたり1~2ベクレル、トリチウムは約100ベクレルの濃度で存在する。当時の研究チームのシミュレーションによると韓国海域に流入すると予測された放射性物質の濃度は現存する濃度の10万分の1程度と推定された。現場で変化を測定できないほどのわずかな値だ。

福島汚染水放流が始まって1年が過ぎた。これまで韓国海洋水産部が韓国周辺の海のさまざまな地点で持続して放射性物質の濃度変化をモニタリングし公開した資料を見ると幸い筆者の予測のように留意するほどの放射性物質濃度変化を見せていない。

福島原発の廃炉は2051年と予想され、それまでは汚染水放流が続くものとみられる。したがって韓国周辺の海には直接的な影響が少なくても測定可能な太平洋の複数の地点で放射性物質の濃度変化を持続してモニタリングする必要がある。測定結果をともに比較できるプラットフォームが構築されるならば観測結果に対する国民の信頼度が高まるだろう。

過去にさまざまな環境問題が起きるたびに専門家の科学的意見が国民にまともに伝わらないことが多かった。残念なことに福島放流初期も状況が似ていた。専門家の科学的意見が国民にまともに伝えわらない状況で、非科学的で政治的得失を狙った主張が乱舞し不必要に過度な恐怖心を呼び起こした。だが1年が過ぎたが真摯な反省は見られない。

人間活動にともなう社会的災害や自然災害が環境に与える衝撃と影響に対する判断は関連分野の専門家集団が科学的原理を基に十分な実験と討論を通じて導出しなければならない。科学者によって導出された結果を基に政治家は多様な利害当事者の合意過程を主導するのが当然な道理だ。もちろんこうした過程は大衆に透明に伝えなければならない。

ところがたびたび専門家の科学的判断に向けた熟考過程が省略され、科学的に精製されていない政治的利益を狙った主張ばかりメディアを通じて伝えられることが多い。時には陣営論理により科学者も賛否で分裂し科学的原理に基づいた声が埋もれたりした。政治が力で科学を圧倒すればそれにともなう被害はそのまま国民に転嫁されかねない。

福島汚染水をめぐり混乱した韓国社会ももう少し変われば良いだろう。専門性を備えた科学者の意見が正確に伝えられるようにシステムを再整備してこそ不必要な議論と社会的費用を減らせるはずだ。

チョ・ヤンギ/海洋研究所長、ソウル大学地球環境科学部教授

◇外部執筆者のコラムは中央日報の編集方針と異なる場合があります。

2024/08/27 11:17
https://japanese.joins.com/JArticle/322949

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