「アイテム取引」「ガチャ」で壊れる「ゲーム王国」大韓民国

投稿者: | 2024年10月7日

 ゲーム強国、大韓民国。韓国のゲーム産業の地位を示す、かつてはよく耳にした言葉だ。今でもゲームは、依然として韓国のコンテンツ輸出で最大の利益を生む分野だ。2022年時点での韓国のゲーム輸出額は89億ドル(約1兆3000億円)に達する。これは韓国が1年に輸出する全体コンテンツ輸出額の67.8%を超える。

 全世界のゲーム産業内でも韓国の地位は変わっていない。282兆ウォン(約31兆円)に達する全世界のゲーム市場において、韓国は米国、中国、日本に続き世界4位を占めている。毎年若干の変動はあるが、韓国のゲーム市場が躍進を始めた2000年代初期から、ほぼ20年近く変わっていない。数字だけをみれば、今でも韓国はゲーム強国だ。

 しかし、業界内部の声に耳を傾けると、ゲーム強国という言葉は聞こえてこない。少し業界動向を調べてみるだけでも、「韓国のゲーム産業は危機だ」 「もはや革新がない」という話しか聞こえてこない。K-POPやK-ドラマよりはるかに多い輸出額と市場規模を誇る韓国コンテンツ産業の核心であるゲーム産業から、なぜこのような声が聞こえてくるのだろうか。

■誤ったビジネスモデルが作った誤った成長

 韓国ゲーム産業の成長の一番の功労者は、2000年代初期の超高速インターネットブームに乗って広がり始めた、PCオンラインゲームだ。すでに他国ではゲーム開発がアーケードゲームや家庭用ゲーム機市場に定着していた時期だった。後発走者だったため、ちょうど普及し始めたPCオンラインゲームというジャンルに真っ先に進出したのが、神の一手として作用した。他国より一足早い市場進入で市場の主導権を握り、パラダイムを自ら切り開いた韓国のゲーム産業だが、今ではかつて韓国の牙城だった中国市場にまで押され、内需市場でも苦戦を強いられている。

 その理由はゲーム業界人であれば誰もが知っている。ゲームアイテムの取引(リアルマネートレーディング、RMT)などに代表される韓国のゲームだけの独特のビジネスモデルが、産業成長の最大の障害となっていることは、すでに公然の事実だ。

 「サルモク」(米食い)というインターネット・スラングがある。「ゲームアイテムを売って米を買って食べる」という意味で、ゲームプレーを通じてお金を稼ぐという意味だ。最近のゲーマーがゲームを選択する動機をみると、サルモクになることを目的とする割合が最も大きいという。現在の韓国のゲーム産業の売上の60%がゲームアイテムの取引であることだけをみても、ゲームアイテムの取引が韓国のゲーム産業に占める立場が分かる。

 サルモクの中心は、他人が欲しがるゲームのアイテムや、アイテムを得るために必要なゲームのプレー時間を節約できるゲーム内通貨の販売だ。そのためゲーム制作会社は、そのようなユーザの心理を利用し、確率型アイテムというビジネスモデルを作った。別名「ガチャ」と呼ばれる確率型アイテムは、簡単に言えば、一種の宝くじのようなシステムだ。確率が急上昇して大当たりを得ることもできるが、運が悪ければ、大金を使っても良いアイテムを得られない。言葉こそ確率型アイテムだが、実際にはギャンブルに近い。

 これまでゲーム業界は、確率型アイテムモデルに射倖性とギャンブル性があることを必死に隠してきた。少しでも射倖性とギャンブル性に世論が集中すれば、文字通り業界全体が共倒れになりうるからだ。きわめて簡単に巨額の売上を得られる黄金の卵を産むガチョウの腹を、誰もそんなに簡単に割くことはできず、誰もが問題であることを知りながらも、簡単に直すことはできなかった。

 問題は、このような文化が長きにわたり韓国のゲーム産業全体を支配してきたため、ゲーム産業全体の多様性や競争力が大きく損なわれたという点にある。現在の危機も結局のところは、相次ぐ確率型アイテムの操作疑惑によって引き起こされたゲーム産業全体の信頼度低下と、それによる売上減少から始まったのだ。

 ゲーム性やユーザサービスの強化ではなく、ひたすらギャンブル的な要素でユーザを引き込み、ユーザはこれでサルモクをするという射倖心から接近するこの危険な出会いが、現在のゲーム産業を危機に追い込んでいる最大の原因だ。誤ったビジネスモデルへの固執によってゆがんだ成長が生じたのだ。そして、ゲーム業界はこれまで、それで歯をくいしばって顔を背けてきた。

 自浄の声がなかったわけではない。これまで業界の多くの人たちが、このままではいつか一気に爆発して全滅することになると声を上げてきたが、市場の論理に押され、無視されるのが常だった。それが2023年、これまで化膿していたものが腐敗し、元に戻せないがんに成長した。

 現在の韓国のゲームは、単にゲームのコンテンツで評価されるのではなく、いかにギャンブル性をうまく活用したのかがゲームの評価の中心になった。日本の国民的ギャンブルである「パチンコ」と違わないと思われる。これが韓国のゲーム産業の現状だ。さらに悲しいことには、これらすべてのことをゲーム制作会社は知っていながらも、目先の利益に目がくらみ、手のひらで雨を防いできたことに対する結果だということだ。

■優秀な人材が無視するゲーム産業

 このような誤ったビジネスモデルによるゆがんだ成長以外にも、韓国のゲーム産業についた赤信号は、1つや2つではない。最も目につく問題点は、新規のゲームの開発競争力がいちじるしく低下していることだ。最近はグローバル市場、いや内需市場でも、頭角を現わす新たな韓国のゲームを見つけることは難しくなった。モバイルにゲーム市場のパラダイムが変わってからはさらに深刻だ。2022年の全世界での売上トップ10のモバイルゲームのうち、韓国のゲームはわずか1つに過ぎない。韓国国内の売上順位も同じだ。韓国国内での売上順位のトップ10の大部分は、中国のゲームか、サービス開始から20年以上経過したゲームのモバイルバージョンだ。競争力がある新規のゲームが登場できずにいるということだ。

 専門家らは、ゲームをよく知らない専門経営者が意志決定を専門に担当する現在のゲーム開発会社のゆがんだ人材構造に、その理由を見出す。韓国のゲーム産業には、開発者一人ひとりの創意性よりも、厳格な上下関係やプロセスが支配する硬直した開発文化が蔓延しているということだ。

 韓国のゲーム業界の従事者の平均勤続年数は2.8年に過ぎないという調査資料や、ゲーム開発者の10人中6人は、現在の勤務条件に不満を抱いていることが明らかになった調査が、すべてを物語る。情熱あふれる開発者が斬新なアイデアで勝負する国外のゲーム業界とは異なる状況だ。夜勤や超過勤務を当然視する別名「クランチ文化」も、韓国のゲーム開発の発展の妨げとなる要因だ。他の開発職種に比べて高い労働強度は、他の情報技術(IT)企業に優秀な資源を奪われる効果を生じている。優秀な人材がゲーム開発を忌避しているということだ。これは単なる開発者個人の処遇問題を越えて、韓国のゲーム産業の未来に暗雲をもたらす構造的問題だといえる。画一化された開発文化の泥沼から抜け出せない限り、韓国のゲームの再跳躍は難しい。

 ゲームを取り巻く技術環境の急激な変化のスピードも、韓国のゲーム産業の危機感をよりいっそう強めている。メタバースやブロックチェーンなど、次世代ゲームをリードする新技術の導入や活用の側面でも、先導国に大きく後れを取っている状況にある。一時はゲームのパラダイムをリードしていた底力は、どれもどこへ行ってしまったのか分からない。

 業界関係者たちは、すべては結局、新たな挑戦を忌避して気楽に金を稼ごうとするゲーム開発会社の安易さが原因だと口をそろえる。回りまわってゆがんだビジネスモデルに戻ってしまうのだ。このような状況だけをみると、ますます広がる世界との格差のもとで、韓国のゲーム業界が過去の地位を維持できるのかという懸念の声が出てくるのは、ある意味当然のことだ。

■今が最後のゴールデンタイム

 危機に直面する韓国のゲーム産業が再跳躍するためには、言葉だけではなく根本的な革新が必要だ。過度な商業性の追求にだけ埋没してきた慣性から抜け出し、純粋な面白さと感動、没入を与えるゲーム本来の価値に重心を移さなければならない。このためには、ゲームの設計哲学から大々的に切り替えなければならない。決済を誘導することに重点を置くよりも、ユーザに楽しい経験を与えることに重点を置かなければならないだろう。長期的な観点からブランド価値を積み上げていくことが、短期の売上にこだわるよりも持続可能な戦略になるだろう。

 このような転換をリードしていく実験的かつ創意的な開発文化を根付かせることも急がれる。トップダウン方式の垂直的な意志決定の慣行から抜け出し、柔軟かつ自律的な開発体系を構築しなければならない。開発者一人ひとりの創意性が尊重され奨励される組織の雰囲気だけが、未来のヒット作の誕生を可能にする。革新的な試みには失敗のリスクがつきものだ。しかし、失敗を容認して教訓を得る開発文化が好循環を生むとき、ゲーム業界全体の躍動性もよみがえるだろう。安定的な収益に安住してきた惰性から抜け出し、新技術や新ジャンルに果敢に挑戦する開発会社が増えるべきときだ。

 韓国のゲームの最後のゴールデンタイムを逃さずに、韓国のゲーム産業の地位を取り戻す道は、決して平坦ではないだろう。しかし、ゲーム業界のすべての構成員が渾然一体となり、ゲームの本質的価値を最優先に置いて一歩一歩進むのであれば、必ず道は開かれると信じて疑わない。今こそ、韓国のゲーム産業の未来のために皆が知恵を集めるべき最後のチャンスだ。

2024/10/06 16:57
https://japan.hani.co.kr/arti/economy/51292.html

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