米国・欧州はなぜ「中国の過剰生産」を叩くのか…未来産業の主導権争い

投稿者: | 2024年5月1日

 中国の電気自動車(EV)、バッテリー、太陽光パネルなどのエコ産業の急成長をめぐり、米国と欧州が過剰生産批判を強く提起している。半導体や人工知能(AI)などの先端技術産業に対する制裁、いわゆるデリスキング(危険回避)政策に続き、「米欧」対「中国」間の対決が未来の核心産業であるエコ産業をめぐる競争に拡大されたかたちだ。
■中国製EV・太陽光パネルなどの過剰生産をめぐる論議が激化

 中国のエコ産業に対する制裁は、昨年下半期に欧州連合(EU)が先に火ぶたを切った。EUは昨年10月、「中国製EVが不法な補助金の恩恵を受けているが、この補助金が欧州のEV生産者に経済的被害を誘発するかどうかを判断する」として、中国製輸入EVに対する不法補助金の調査を始めた。欧州製より20%以上安い中国製EVの欧州進出が本格化したため、これに対する規制に乗りだしたのだ。米国は今年に入るとEUの主張に同調し、同時に範囲を広げた。米国のジャネット・イエレン財務長官は4月初めの中国訪問に先立ち、「われわれは、太陽電池、EVバッテリー、EVの産業を育成しようと努力しているが、中国の大規模投資がこれらの分野で過剰生産を誘発している」として、3大エコ産業を取り上げ、中国の過剰生産に対する対応に着手する意向を表明した。米国はこれに留まらず、中国製鉄鋼や海運、物流、造船などの伝統産業についても不公正な行為が疑われるとして、本格的な対応に乗りだす準備をしている。

 中国の反論と反撃も少なくない。中国は、該当の産業に対する自国の比較優位は自然な経済現象だと主張する。中国の王文濤商務相は今月初めにフランスを訪問し、「中国のEV企業は、持続的な技術革新や生産およびサプライチェーンの改善、市場競争によって発展してきた」としたうえで、「過剰生産に対する米国と欧州の非難には根拠がない」と述べた。

 中国はさらに、EVや太陽光パネルなどはまだ過剰生産の段階ではなく、長期的にはより多くの生産が必要だと主張する。米国や欧州などの西側先進国が、自国の半導体とエコ産業の振興のために莫大な補助金を投入しておきながらも、自国のことは棚に上げて中国を非難しているという主張も展開している。中国はまた、4月26日に報復関税を明示した新たな関税法を史上初めて通過させた。この法案の第17条は、中国と特恵貿易協定(PTA)を締結した市場が高率関税を課す場合、「相互主義の原則」によって相手国の商品に同等の関税を課すようにした。

 中国のエコ産業は、米国と欧州が脅威を感じるほどの超高速成長をした。中国は10年ほど前から、EVとバッテリー、太陽光産業を集中育成していた。国際エネルギー機関(IEA)の資料によると、昨年の世界のEV販売量(1380万台)の58.7%にあたる810万台が中国市場で売られ、中国が世界市場に輸出したEVは120万3000台(8.7%)に達する。EVの販売に力づけられた中国は昨年、日本を抜いて世界最大の自動車輸出国になった。太陽光パネルの中国のシェアはさらに高く、世界の太陽光パネルの70~80%が中国で生産され、世界のEVバッテリー生産の約60%も中国が占めている。中国が3つのエコ産業の主導権をすでに相当部分を握っていることになる。

 中国はそれに留まらず、今年になり「古きものを新しいものに変える」という、いわゆる「以旧換新」政策を進め、エコ産業の比較優位をよりいっそう強化している。以旧換新政策は、既存の産業と住民たちの消費生活にまで適用されるが、中国の不動産と内需の停滞と重なり、中国市場が消化できなかった鉄鋼、化学、軽工業分野の様々な製品が世界市場に安値で流出すると予想される。このため、チリ、ブラジル、インド、メキシコ、インドネシアなど自国産業育成に乗りだした国々の不安感と不満が強まっている。
■中国の未来産業規制が本質

 中国のエコ産業に対する米国の問題提起をめぐり、今年11月に大統領選を控えた米国バイデン政権が選挙を意識して着手した攻勢だとみる解釈もある。

 しかし、中国経済の専門家らは、米国と欧州が歩調をあわせて対応する姿勢などをみて、今回の問題提起は単なる選挙のための対応ではないとする見方をしている。韓国金融研究院のチ・マンス選任研究委員は、ハンギョとの電話インタビューで「EV、バッテリー、太陽光パネルは、気候変動への対応の中心要素であり、未来の核心産業」だとしたうえで、「中国のエコ産業の過剰生産に対する米国と欧州の問題提起は、半導体やAIなどの先端産業に対する規制(デリスキング)であるとともに、未来産業をめぐる両者の生死をかけて繰り広げられる戦いとみなさなければならない」と述べた。製造業の回復を推進中の米国と製造業の割合が小さくないEUが、未来の製造業の中核領域であるエコ産業において主導権を握る「中国引きずり下ろし」に乗りだしたということだ。世界銀行の資料によると、2022年時点の国内総生産(GDP)に製造業が占める割合は、EUが15%、米国が11%(2021年)だった。同期間に韓国は26%、中国は28%だった。

 中国の過剰生産に対する問題提起は、2013年にもなされたことがある。中国の鉄鋼、セメント、ガラス、アルミニウム産業などに対して過剰生産の論議が提起され、中国はそのような批判と懸念を受け入れ、一部の製品の生産を調整した。当時の中国経済は年平均10%以上成長していて、速度調節が必要だったし、過剰生産にともなう自国の被害も小さくない状況だった。米国との戦略競争を始める前だったため、世界市場の顔色を見なければならない必要性もあった。

 今は当時とは状況がかなり違う。米国との戦略競争が深刻化するなか、先端技術やエコ産業などの未来の核心産業の分野が、米中対立が爆発する場所になっている。単なる貿易摩擦ではなく、国家の未来をめぐってなされる経済と安全保障の戦争が繰り広げられているのだ。中国経済は、2020年代に入ると年5%成長を大言壮語することが難しくなり、青年失業率も史上最高を記録するなど、経済全般が低迷している状況であるため、他国の懸念を考慮する状態でもない。
■反論は強く世界各国の反応もさまざま

 米国とEUは強く問題提起しているが、中国のエコ産業に対する規制は、デリスキング政策に比べると、実現は容易ではないとみられる。半導体やAIなどの先端技術での制裁は、中国がまだ技術を確保できていなかった状況のもとで、米国や欧州などの先進国が主導権を持って進める戦いだったが、エコ産業の場合、中国がすでにかなりの比較優位を確保した状況のもとで、米国と欧州が遅れて規制に乗りだしたためだ。

 エコ産業への制裁に対する各国の利害関係は、先端技術への制裁に対する利害関係に比べると国ごとの違いが大きい。先端技術での制裁の場合、米国、韓国、欧州、日本などの半導体・AI技術を保有する一部の国に限定されたが、エコ産業に対する規制は、先進国のみならず、気候変動への対応が必要な開発途上国などの相当数の国が、それぞれ利害関係を持っている。

 先月中国を訪問したドイツのオーラフ・ショルツ首相は、中国の過剰生産に対する懸念を明らかにしたが、米国やEUに比べると、はるかにトーンが低かった。むしろ、ショルツ首相は、訪中の過程で自国の企業人を多数同行し、中国に到着してからは、中国との経済協力を強調した。装備産業が非常に発達しているドイツの立場としては、中国のエコ産業の急成長は脅威ではなく、良い機会になりうるためだ。

 サウジアラビアの国営石油会社「サウジアラムコ」のアミン・ナセル最高経営責任者(CEO)は、3月末の世界エネルギー会議の演説で、「太陽光発電の費用減少における中国の役割は大きかった。EVについても同じ現象を目撃することができる」としたうえで、「私たちが2050年までにエネルギー目標を達成するためには、世界との協力がさらに必要だ」と主張した。ナセルCEOの発言は、気候変動への対応のためにEVや太陽光パネルなどが必要な国にとっては、米国とEUの対中国けん制を喜べないところがあることを示している。

2024/04/30 08:31
https://japan.hani.co.kr/arti/international/cn_tw/49888.html

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