ハン・ガンの初の日本語版出版から15年…「日本のハン・ガン熱風、突然ではない」

投稿者: | 2024年10月18日

 「韓国文学の神髄を日本に紹介しようと読書ノートを細かく書いたのですが、最初の項目はいつも『ハン・ガン』でした」

 15日、日本の東京都千代田区の神保町の古書店街で「出版社クオン」とブックカフェ「本のたね」を運営するキム・スンボク代表に、ハン・ガン氏について尋ねると、「驚くほど繊細で優れた文体のなかに、人間の弱さと深い悲しみを描く世界観を形成してきた」と語った。ソウル芸術大学文芸創作科を卒業し、1991年に来日したキム代表は、韓国文学を紹介すべきだと考え、2007年に韓国文学専門出版社「出版社クオン」を設立した。2010年初めて出した韓国文学の書籍がハン・ガン氏の『菜食主義者』日本語版だった。

 キム代表は「最初の出版のときから日本の主要な新聞が書評を出すほどで、『別水準の小説』という評価を受けてきた」と振り返った。これまで同社が出した120冊あまりの本のうち、ハン・ガン氏の翻訳本は、『菜食主義者』に加え、『少年が来る』(小説)、『そっと 静かに』(散文)、『引き出しに夕方をしまっておいた』(詩)の4作品だ。他の日本の出版社3社の本を含めると、ハン・ガン氏の作品は全部で7作品が翻訳された。

 「ノーベル賞効果」は絶大だ。受賞のニュースが報じられた翌日、一般書店で販売される分とは別に、出版社に残っていた600冊あまりの本がわずか2時間で完売した。キム代表は「本がなくて売れない状況」だと述べた。キム代表とのインタビューを行っている最中にも、書店の職員はかかってくる電話に「(ハン・ガン氏の)本は残っていない。韓国でも予約を受け付けている状況で、ここも同じだ」と答えるなど、応対に忙しかった。キム代表は、とりあえず2万部を目標に重版計画に着手したが、本が新たに出てくるまでには10日以上かかる見込みだ。

 日本の「ハン・ガン熱風」は、単にノーベル文学賞の受賞によって突然吹いたものでないというのが、キム代表の診断だ。キム代表は「韓国文学の本質には、歴史・文化・社会的な話が背景にあることが多いが、海外の読者たちは、思弁的でなくて現実に踏み込んだその特有の重たさを好むようだ」と解説した。さらにキム代表は「日本で韓国文学の人気の秘訣は単純だ」として、「良い作品が多いため」だと述べた。

 出版人や文学者が長い間に積み重ねてきた成果も見逃せない。キム代表は最近、パク・キョンニの『土地』の20冊からなる完訳本を出した。土地文化財団とともに日本語版を出すことにしてから10年、最初の翻訳本として1~2冊が出版されてから、8年かけて成し遂げた成果だ。キム代表は「日本で韓国文学の裾野が広がっただけでなく、深さまで深化し、パク・キョンニの『土地』のような作品も出す環境が用意されたと思われる」としたうえで、「出版社としては、より立派な韓国作品をさらに多く出せるという信頼を読者に示そうとする切実さが反映されたもの」だと説明した。キム代表は日本で30人ほどの読者と19日、慶尚南道統営(トンヨン)にあるパク・キョンニの墓地を訪れ、日本語版『土地』の献呈式と出版記念会を開く。

 キム代表は、ハン・ガン氏のように韓国文学が海外で評価されるためには、長きにわたり培われてきた翻訳の力も必要だと説明した。「ハン・ガン氏の作品5冊をはじめ、『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ)や『カステラ』(パク・ミンギュ)などを翻訳した斎藤真理子氏は、1990年代初めに韓国で勉強しました。そのときには、すでに日本語になっていたキム・ジハやユン・フンギルの小説を読んでいました。誰かすでに事前に道を整えていたのでしょう」。キム代表が主催する「K-BOOK振興会」が毎年「日本語で読みたい韓国の本」翻訳コンクールを開催することも、同じ流れだ。韓国の短編小説2作品を選定し、韓国と日本の市民は誰でも翻訳を提出でき、受賞時には本が出版され、翻訳家としてデビューするシステムだ。キム代表は「多いときには1年で応募者が200人を超える」として、「本1冊に対して日本語翻訳本が200冊誕生するという興味深く意義ある実験」だと評した。

 キム代表は、韓国国際交流財団と「K-BOOK振興会」が共同主催する「K-BOOKフェスティバル」の執行委員長も務めている。韓国文学と日本の読者が出会う場として、韓国と日本の出版社それぞれ10社、35社をはじめ、作家・編集者・翻訳家が参加するイベントだ。キム代表は「日本にいる韓国文学の読者たちに直接会いたいという思いで始めたイベントで、すでに6回目になる」と述べた。

 キム代表は「ノーベル文学賞の受賞後」を尋ねた質問に「ハン・ガン氏の文学だけでなく、韓国文学の裾野全体を広げる絶好の機会が来た」として、「ここで出版社をやって本当によかったと思う」と語った。

2024/10/17 20:51
https://japan.hani.co.kr/arti/international/51389.html

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