空気タンパク質の工場が世界で初めて稼働を始めた。
フィンランドの食品技術企業「ソーラーフーズ」(Solar Foods)は、首都ヘルシンキ近隣のバンタに年間最大生産量160トン規模の空気タンパク質第1号工場を建て、最近稼動を始めたと明らかにした。ソーラーフーズ社は「300頭の乳牛農場で生産される牛乳のタンパク質と同量の空気タンパク質を生産する」と明らかにした。
空気たんぱく質とは、空気を微生物に食べさせて作ったたんぱく質で、植物肉、培養肉に続く新しい代替肉食品として注目されている。ソーラーフーズが開発した空気タンパク質は、空気の成分と栄養物質を微生物に食べさせて作った黄色いタンパク質の粉末で、製品名は「ソレイン」という。空気から分離した二酸化炭素と、水を電気分解して得た水素と酸素を一緒に微生物の餌にする。
同社は空気タンパク質を「太陽の食品」(ソーラーフード)と言う。植物が太陽エネルギーを利用した光合成を通じて二酸化炭素と水からブドウ糖と酸素を作り出すように、空気タンパク質も太陽光の電気を利用して作るためだ。
微生物に二酸化炭素などを食べさせてタンパク質を生産
酸素、水素、二酸化炭素の供給を受けた微生物は、これらを餌にしてたんぱく質などの栄養物質を作り出す。ここに鉄、マグネシウム、カルシウム、リンなどのミネラルを含む溶液を混ぜ、微生物を低温殺菌し、遠心分離機と熱風で乾燥させればソレイン粉末が完成する。
ソレインの栄養成分は、たんぱく質65-70%、脂肪5-8%、食物繊維10-15%、ミネラル栄養素3-5%で構成されていると同社は明らかにした。栄養成分の構成が豆や海藻類と似ている」と説明した。ソーラーフーズは「ソレインは代替乳製品と肉類、スナックと飲み物、麺とパスタ、パンなど多様な食品で既存たんぱく質の代わりに使用できる」と明らかにした。
空気タンパク質のように農耕地や牧草地が必要ない代替食品は、食品と農業部門の炭素排出量を減らすことができる点で注目されている。この部門の炭素排出量は、地球全体の炭素排出量の約4分の1を占める。
ソーラーフーズによると、ソレイン1キログラムを作るには、植物の栽培を通じて同量のたんぱく質を得る場合より、水は99%、土地は95%減らすことができる。生産過程で排出される二酸化炭素量は5分の1に圧縮される。ソーラーフーズは「ソレインは生産過程に動物や光合成植物が必要としないという点で世界で最も持続可能なタンパク質」と主張する。
シンガポールではすでに食品承認…来年までに欧米に進出
ソーラーフーズはすでに2022年にシンガポールの食品当局からソレインの市販承認を受け、現在日本の味の素グループとともに空気タンパク質を入れた食品を開発している。これまでチョコレートバーや乳製品を含まないチョコレート、ジェラート、アイスクリームなどを披露してきた。
しかし、これまではヘルシンキ近隣の研究所で少量だけ生産し、限定的な試験販売に止まっていた。今回の量産工場の稼動を契機に本格的な市場形成が可能になると見ている。今年秋には米国、来年末には欧州の食品市場にも進出する計画だ。
この会社の共同創業者であり最高経営者であるパシ・ヴァイニッカ氏は英国日刊ガーディアンに「この技術を立証することこそ人類の食革命で重要な段階になるだろう」と話した。
再生エネルギーシステムを研究していた彼が空気タンパク質食品の開発に飛び込んだのは、2014年に応用生物学者のヨハ・ペッカ・ピッカネンとの出会いが契機になった。彼はピッカネンから水素を酸化させてエネルギーを得る土壌微生物がいるという話を聞き、彼と共にこの微生物を利用した食品を開発することで意気投合した。2人はヘルシンキ近くの倉庫に200リットルサイズの発酵装置を作って実験を始めた。彼らはこの微生物の正体については、「バルト海付近で発見した」と言うだけで、具体的な内容は公開していない。
1960年代の宇宙食品開発研究が元祖
空気タンパク質を研究開発しているところはソーラーフーズだけではない。
空気タンパク質技術の元祖は、1960年代の米航空宇宙局(NASA)の宇宙飛行士の食品調達システムの研究だ。NASAが当時見つけたのは水素をエネルギー源とする水素栄養バクテリアだった。この微生物が二酸化炭素を食べてタンパク質を吐き出すことを発見した研究陣は、これを利用すれば宇宙でも食品用タンパク質を自給できるシステムを作れるという結論を下した。宇宙飛行士が呼気を通じて排出する二酸化炭素を現場で直ちにタンパク質に転換する食品自給システムだ。この研究は1967年12月の報告書で発表された。
米マサチューセッツ工科大学(MIT)物理学博士出身のリサ・ダイソン博士は、この方式を土台にして2019年に空気タンパク質企業「エアプロテイン」を設立した。この会社は2022年に空気タンパク質で肉の食感まで再現した「エア・ミート」(空気肉)の試作品を開発し発表したのに続き、昨年には食品加工業者ADMと量産工場を建てることで契約を結んだ。エアプロテインのたんぱく質含有率は80%だ。同社は現在、工場で捕集した二酸化炭素を使用しているが、これからは大気中から直接二酸化炭素を捕集して使用する計画だと明らかにした。
英国のディープ・ブランチ・バイオテック(Deep Branch Biotech)は、石炭火力発電所が排出する二酸化炭素を利用して空気タンパク質を生産する技術を開発している。同社は、オランダの魚飼料会社「ディープ・ブランチ」と英国の電力企業「ドラックス」の合弁会社だ。
米カリフォルニアの生命工学企業「カリスタ」は、空気の代わりに天然ガスから抽出したメタンを利用したタンパク質の生産を研究している。土の中に豊富なメタン栄養バクテリアを発酵器に入れて、ここに天然ガスの主成分であるメタンを供給すれば、単細胞タンパク質が作られる。
このほか、オランダのファームレス(Farmless)、米国のノボニュートリエンツ(Novo Nutrients)、オーストリアのアルケオン・バイオテクノロジー(Arkeon Biotechnologies)も空気タンパク質製品を開発中だ。
2024/05/01 14:43
https://japan.hani.co.kr/arti/culture/49891.html