[寄稿]帰ってきた国家、だが国家は有能なのか

投稿者: | 2024年5月3日

 まさに非平和の時代だ。いつもそうだったと言われるが、今は異なる。今のように2つの大陸で大国が深く関与する2つの大きな戦争が同時に起こるという事態は、第2次大戦後初めてだ。万一、これより危険千万な3つ目の戦争が勃発するとしたら、その戦場は朝鮮半島や台湾海峡になる可能性が高い。国民の生存と安全が危ぶまれる厳しい時期だ。

 まさに保護主義の時代だ。いつもそうだったと言われるが、今は異なる。安保の論理が伝家の宝刀であるかのように乱用され、保護主義が正当化され、価値観とイデオロギーを大義名分として敵味方に分ける保護主義の陣営化の時代だ。米国は安保と直結する先端製造業の復興に向け、古びた産業政策を引っ張り出した。これに対抗して主要国は補助金競争をはじめた。その対象も「狭い庭、高い塀」と言っていたと思ったら、徐々に「より広い庭、より高い塀」へと移りつつある。どうしろというのか。

 韓国を取り巻く昨今の環境から送られてくる最もはっきりとしたシグナルは「国家の帰還」だ。したがって、私たちがいま問うべきなのは、有能な国家であるかどうかだ。政策の力量だ。国際通貨基金(IMF)は「2024年財政モニター」で、産業政策は魔法ではないと厳しく警告している。あえて使うには、炭素排出の低減や産業全般の知識の普及などの社会的利益の創出、外国企業差別の禁止、政府の政策力量が優れていることを成功条件として掲げる。ゲイリー・ピサノとウィリー・シーは共著『Producing Prosperity: Why America Needs a Manufacturing Renaissance(なぜ製造業ルネサンスなのか)』で、製造業全般の知識の普及に寄与する基礎研究や人材育成などの「産業の共有資産」の役割を強調する。それは私的利益と対比される社会的利益の創出だが、これこそ国家固有の役割だ。実際に韓国は、ジョー・スタッドウェルが著した『How Asia Works』で中国、日本、台湾と共に、成功を収めた産業政策を推進した数少ない国として称賛されている。

 そのような韓国に危険の兆候が見られる。2023年6月28日、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は研究界のカルテル廃止を理由に、国の研究開発予算の見直しを指示した。その結果、2024年度予算は前年より14.7%削減され、計1623件の基礎研究の65%を超える1069件が減額された。1991年以降で初だ。一律の予算削減で研究界は混乱に陥り、激しく反発した。すると政府は、来年度には2023年度より多くの予算を策定するという。この間に研究開発システムの非効率を取り除いたというが、実際にそうなったかは定かではない。これは政府の政策に対する予測可能性と信頼を失わせたひとつの例に過ぎない。

 非平和の時代、保護主義の陣営化の時代に、大国に苦しめられる韓国が誰にも揺さぶられることのない国になるためには、国家がよりいっそう有能にならなければならない。韓国がこのさ中に先端戦略産業の育成、サプライチェーンの回復力の向上、素材・部品・装備産業の競争力の強化などを推進しておきながら、それに対応して未来の食いぶちを作る研究開発予算を削減するというのは、つじつまが合わない。

 筆者は機会あるごとに、韓国の経済安保の未来は製造業にかかっていると力説してきた。製造業は韓国のアイデンティティーに合致する生命線だからだ。韓国製造業の国内総生産(GDP)に占める比率は1988年に27.6%で頂点を迎え、2021年には25.5%に低下しているが、依然として経済協力開発機構(OECD)平均の14%を大きく上回る。韓国は国際比較が可能な1991年以降、一貫して主な製造大国の中で中国に次ぐ地位にある。韓国は世界の製造業生産で6位(2023年)、製造業競争力指数で4位(2021年)を誇る。米国政府がグローバルなサプライチェーンの再編を告げるものとして打ち出した4大重要製品(半導体、二次電池、医薬品、重要鉱物)のうち、該当事項のない重要鉱物を除く3製品の製造協力が可能な唯一の国でもある。

 しかし、中国がメモリーチップを除けばほぼ追いついた今、韓国の製造業の地盤沈下が深刻だ。ヤン・スンフンが自著『蔚山ディストピア、製造業強国の不安な未来』で細かく描写したように、蔚山(ウルサン)が揺らぐほどなら他地域は言うまでもない。そのような韓国が先端製造大国としての地位を保つためには、基礎研究のような産業の共有資産に関する政策は透明で合理的な設計にもとづいて推進しなければならない。

 第22代総選挙は終わった。少数与党国会がさらに強固になったことを受け、4月29日、ついに大統領と野党第一党の代表が会談した。韓国を取り巻く厳しい内外環境を認識しているのなら、野党もばらまき式の現金支給カードは切らないという責任ある姿勢が求められる。有能な国家は与党だけでは作れない。

2024/04/30 18:34
https://japan.hani.co.kr/arti/opinion/49903.html

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