「今後10年間で最も重要なのは艦艇の建造速度を高めることだ」
今年9月、米下院外交委員会の聴聞会に出席したカート・キャンベル国務副長官は「この25年間、地上軍と特殊部隊に多くの投資してきたが、今は海軍の時代だ。造船業を復興させなければならない」と強調した。
米国覇権の柱、海軍が揺らいでいる。世界最強を誇っていた米国の造船業が徐々に崩壊し、船の建造と修理能力が著しく低下したためだ。米海軍は軍艦の数を増やすどころか、維持にも困難を来たしている。「グローバル1位」で造船業の崛起を完成した中国は、海軍艦艇数においてすでに米海軍を上回っている。
■米中の造船業生産力の差「232倍」
「半世紀ぶりに海で敗北する可能性が高まっている」。今年6月に発刊された米シンクタンク「戦略国際問題研究所」(CSIS)の報告書「中国の海軍構築分析」(Unpacking China’s Naval Buildup)には米国の危機感が集約されている。ソ連崩壊後、初めて海上支配力が挑戦を受けていると診断した報告書は、この流れを覆すことは容易ではないという暗い見通しを示している。数十年間続いた米国造船業の衰退から始まった結果であるからだ。報告書は「中国が現在の速度で艦隊を拡張し続け、米国が造船業を再活性化できなければ、(海上で)中国が勝利する可能性がさらに高まるだろう」と予想した。
海戦の勝利は艦艇の数に左右される。米国海軍研究所の月刊誌「プロシディングス」2023年1月号に掲載された寄稿文「より大きな艦隊が勝つ」(Bigger Fleets Win)で、著者は「少数の高品質の艦隊を保有するより、多くの艦船を保有した方がほとんどの場合において勝利する」とし、「歴史的に28の海戦で25回勝利した」と分析している。初期の損失後も迅速にそれに代わる予備艦隊があり、より多くの偵察資産を通じて敵を効果的に感知し対応できるためだ。多数のプラットフォームから同時多発的に攻撃できる点も艦船数が多いことのメリットだ。著者は「中国海軍の艦船は2030年までに460隻に達すると予想される一方、米国海軍は260隻に減る可能性がある」とし、「大規模艦隊の不在は長期紛争で致命的な危険につながりかねない」と警告した。艦船234隻を保有している中国は、すでに世界最多の艦船保有国だ。米海軍は219隻を保有しており、しかも世界に分散している。
中国海軍が米国海軍を上回っているのは艦船数だけではない。中国の軍艦のうち約70%が2010年以降進水した比較的新しい船だ。米海軍の軍艦は約25%だけが2010年以降進水したものだ。海軍作戦の中核とされる駆逐艦の場合、中国はこの10年間で23隻を進水したが、米国は11隻にとどまった。駆逐艦より大きく、戦艦よりは小さいが、強力な武装と長距離航海能力を持つ巡洋艦の場合、中国は2017年以降8隻を進水したが、米国は1隻も造れなかった。
問題は、この差がさらに広がっていることにある。造船能力に差があるためだ。米海軍情報局の資料「中国海軍建造傾向と米国海軍建造計画(2020-2030)」によると、中国は米国最大の造船所より規模と生産性がさらに高い商業用造船所を数十カ所保有している。昨年7月に流出した米国海軍ブリーフィング資料には、米海軍情報局が評価した米中の造船能力の差がグラフィックでまとめられているが、一国が一年に建造できる総トン数の基準で、中国造船所の生産能力は約2325万トンとされる。一方、米国は10万トン以下だという。中国の生産能力が米国の少なくとも232倍に達するという意味だ。
■世界1位の米国造船業、没落の元凶は米国
強力な米国の造船業は、第二次世界大戦における勝利の立役者だった。ドイツ海軍の潜水艦攻撃で「米国-欧州」間の大西洋補給路が塞がれると、米国は「リバティ船」として知られる貨物船を大量生産して補給に活用し始めた。単純で効率的な設計で素早く造ることに特化した「大量建造プロジェクト」だった。短くて数日で1隻の船が完成した。このような形で1941年から1945年まで計2710隻のリバティ船が誕生した。大量生産されたリバティ船は、船舶の損失を速やかに埋め、大西洋の補給路を復活させた。リバティ船が運んだ莫大な品物は連合軍の勝利に決定的に貢献した。
しかし、米国の造船業は戦後、徐々に没落していった。造船業を保護するために制定した法律がその原因だった。1920年に誕生したジョーンズ法は、米国内の貨物運送に使われる船舶の米国内での建造を義務付けた。同法によって、米国の造船業は外国の造船業者との競争を避け、安定的に受注できるようになった。
ところが、結果は意図とは真逆の物だった。外国との競争で保護された米国の造船業は徐々に競争力を失った。海外の造船所が造った安くて良い船の代わりに、国内の造船所が生産した高価で質の悪い船を使わなければならなかった。それによって海上運賃が上がった。運賃の上昇に伴い、海上運送の需要が減った。輸送需要の減少で、船の注文も減った。メンテナンスの仕事もなくなった。悪循環だった。造船業そのものが衰退した。
法制定から約60年後の1981年に発刊された米会計検査院(GAO)の報告書は、このような実態をよく示している。報告書は「米国で大洋航海用船舶を建造するためには、海外よりさらに約2年はかかる」と明らかにした。1985年に発刊された米国際貿易委員会(USITC)の報告書は「米国で商業用船舶を建造するには費用が2倍以上かかる」と指摘した。1990年代に入ると、建造費用は外国造船所の3倍に達した。現在、米国で建造されたタンカーの価格は、同船のグローバル価格より約4倍、コンテナ船は約5倍にのぼる。
造船業が国際競争力を失ったことで、1983年から2013年まで約300の造船所が米国から消えた。造船業の雇用人員は1981年18万6700人から2018年基準で9万4000人に減少した。現在、大型商業船舶を建造できる造船所は米国に4カ所のみ。第二次世界大戦が終わる当時、11の公共海軍造船所と60以上の民間造船所を保有しており、これを通じて驚くべき海軍艦艇生産記録を立てた昔の米国に比べると、隔世の感がある。
ドナルド・トランプ次期米大統領は7日、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領と初めて電話会談を行った。話題は造船業だった。トランプ氏は「韓国の世界的な軍艦と船舶建造能力はよく知られており、船舶輸出だけでなくMRO(維持・補修・整備)分野でも韓国と緊密に協力する必要がある」と述べた。
トランプ氏が強調した「協力」には大きく分けて2つを意味する。「修理」と「造船所買収」だ。米バーンズ・トリプソン修正法(USC8679)は、外国の造船所で艦艇の建造を禁止している。安保問題のためだ。同法が改正されない限り、韓国や日本など外国の造船所が米海軍の船を作ることはできない。一方、「修理」については例外条項を設けているため、一部可能だ。海外に配置された米海軍の軍艦を韓国や日本など同盟国の造船所で速やかに修理し、これらの国の企業が米国の造船所を買収して米国の造船業の生産性を引き上げることが期待されている。韓国と日本の複数の造船会社はすでにこの市場に参入したか、参入の準備をしている。韓国海洋戦略研究所は報告書「米海軍復活に向けた韓国の役割」で、「韓国が米国で米海軍艦艇を建造し、韓国で米軍艦艇の整備に参加すれば、韓米安保協力を強化し、米国の戦略的計算で韓国の地位を高めるのに大きな役割を果たすだろう」と見通した。
2024/11/26 15:30
https://japan.hani.co.kr/arti/international/51730.html