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■動画配信サービスの影響力で限韓令の被害が減少
西欧文化の浸透を懸念した中国政府は2001年WTO加盟を前後して「文化安全保障」という概念を掲げた。「儒教伝統文化の復活と文化産業の競争力向上を通じた文化アイデンティティの確立」という戦略の下、中国式社会主義文化を守ろうとしたのだ。当時、中国内で幅広く広がっていた米国文化に代わる新しい大衆文化が必要だったが、そこで選ばれたのが韓流だった。
米国文化に代わる新たな文化として韓流が選ばれたのは自然な流れだった。1992年に韓中国交正常化を結び、両国関係は急速に改善された。その上、韓流はアジア国家で現れる価値対立の問題、すなわち産業化の副作用とこれを解決する過程で浮上する東洋的価値観などをうまく取り上げていた。中国政府も、視聴者もそのような韓流を違和感なく受け入れた。中国で初めて成功した韓流ドラマが時期的に先に進出した「ジェラシー」や「黎明の瞳」ではなく、「愛が何だって」だったことがこのような背景を示している。
中国は韓国の大衆文化が自国の文化産業発展のための足場の役割を果たすことを期待した。中国文化産業の競争力強化のため、韓流を活用することにしたのだ。限韓令直前の2010年代半ば、中国資本が韓国大衆文化産業に積極的に投資し、多くの韓国人スタッフを誘致したのも、このためだった。
しかし、韓流の人気が高まり、中国内の影響力も高まるにつれ、中国政府は気楽ではいられなくなった。受け入れの臨界点を超えたように見えたからだ。結局、たまたま「THAAD配備」という政治的事件が起きると、限韓令で対抗することになったというのが多くの中国専門家の分析だ。韓流が中国文化産業の発展に役立つまでは許したが、中国文化産業を侵食すると判断した途端、禁止したということだ。
限韓令が敷かれたことで、韓国企業は多くの問題に直面したが、次第に他の市場を開拓していった。K-POPの場合、防弾少年団(BTS)、BLACKPINKなどのアイドルグループがユーチューブを活用し、米州、欧州などへと市場の基盤をさらに広げた。Kドラマは限韓令発効とほぼ同じ時期にグローバルオンライン動画配信サービスの市場が大きくなり、市場縮小の影響を減らすことができた。丁度、ユーチューブやネットフリックスなどのようなプラットフォームの影響力が大きくなった時期で、中国市場の封鎖の危機を越え市場の拡大が進んだ。むしろ過度に中国中心にだけ事業戦略を練っていた慣行から抜け出し、より広い世界を目指すきっかけにもなった。観光業界や化粧品、中国内流通産業の被害は大きかったが、限韓令のターゲットだった大衆文化の被害は予想より早く回復した。
一方、中国内では「非公式的な」韓流の流入が増えた。中国では現在、ネットフリックスのようなグローバルな動画配信サービスが許可されていない。中国内の放送や現地の動画配信サービスでは公式的に韓国ドラマや映画などが放映されない。にもかかわらず、中国内の韓流ファンは迂回的な方法で韓国ドラマを楽しんでいる。一例として「イカゲーム」が世界的にヒットすると、中国の中でもダルゴナブームが起きた。仮想プライベートネットワーク(VPN)を通じてネットフリックスを楽しんだり、違法韓国ドラマ流通サイトでドラマを見たからだ。
■予想だにしなかった限韓令の効果、「反中感情」
しかし、予期せぬ否定的な影響もあった。韓国人の反中感情が非常に高まったのだ。各種の調査によると、韓国人の反中感情は、「限韓令」以降、著しく高まっている。韓国ドラマに中国企業の間接広告(PPL)が見つかると、「中国資本が韓国芸能界を浸透しようとしている」という批判世論が直ちに高まるのもその余波の一つだ。
歴史や文化問題をめぐり両国が鋭く対立することも増えた。韓国の伝統文化や食べ物、韓服(ハンボク)について、「韓国人が中国の伝統文化を自分のものだと主張する」という愛国主義の中国ネットユーザー、すなわち「小彭紅」が増えたのも、限韓令以降のことだ。習近平時代の影響でもあるが、両国の国民感情が悪くなり、韓国映画やドラマで中国人に対する描写は否定的になり、中国人は再びこれを非難する悪循環に陥った。携帯電話や電子製品の輸出を制裁していたら、起きなかったはずの現象だ。それが文化の力であり、そのため世界貿易ルールでも文化は慎重に扱うよう例外を適用している。
振り返れば、韓国にも日本の大衆文化を公式に開放した後、韓日関係が肯定的に改善された経験がある。懸念とは裏腹に、日本文化の否定的な影響は少なかった。実際、限韓令を解除しても、韓国企業が以前ほど高い「中国特需」を謳歌することは難しいとみられている。中国の文化産業がこれまで大きく成長し、すでに門戸を閉ざした経験のある中国は、初めて門戸を開いた時とは違うからだ。何事においても、一方的な関係は成り立たない。互いに文化を分かち合うことができてこそ、互いの市場も大きくなり、誤解も解ける。
2025/01/04 09:19
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