トランプ関税戦争の脚本となった「ミラン指針」…成功するだろうか

投稿者: | 2025年4月12日

 「米国民の同胞たちよ、今日は長い間待ち望んでいた解放の日です」

 2025年4月2日(現地時間)、ホワイトハウスのローズガーデンに立ったドナルド・トランプ大統領の演説はこのように始まった。トランプ氏は数十年間、米国は敵国だけでなく友好国にも「略奪され、強奪され、蹂躙された」とし、今後米国に入ってくるすべての輸入品に10%の基本関税を課し、対米貿易黒字を記録している国に対してはその規模によって最大49%に達する「相互関税」をさらに賦課すると宣言した。トランプ氏はこの日を「私たちが米国を再び豊かにし始めた日として永遠に記憶されるだろう」と述べた。

 同日の発表は世界に衝撃を与えた。トランプ大統領の当選直後から予告された政策路線ではあったものの、その「レベル」が予想をはるかに越えるものだったからだ。実際、先月末までもスコット・ベッセント(Scott Bessent)財務長官、ケビン・ハセット(Kevin Hassett)国家経済会議(NEC)議長のようなトランプの主要な経済参謀たちは、大半の国々は新たな政策の影響を受けないだろうし、10~15カ国だけが関税賦課の対象になると述べてきた。ところが、事実上世界のすべての国が関税対象国のリストに上がった。一体、トランプ大統領の「超強硬」な政策の狙いは何であり、どこから生まれたのだろうか。

■予想を超えるトランプ発関税戦争の起源とは

 この質問と関連し、トランプ大統領職当選直後の昨年11月に発表された「グローバル貿易システム再構築のためのユーザー指針」(A User’s Guide to Restructuring the Global Trading System.以下「指針」)という論文が注目されている。著者のスティーブン・ミラン(Stephen Miran)氏は2010年、ハーバード大学のマーティン・フェルドシュタイン教授の指導で経済学博士号を取得した後、主に学界外で活動してきた。同論文を発表した当時も「ハドソン・ベイ」(Hudson Bay)という投資会社のシニア戦略担当者だった。そのようなミラン氏がトランプ大統領の経済諮問委員会(CEA)議長に抜擢され、世間の注目を集め始めた。それと同時に上記の「指針」も今後繰り広げられる第2次トランプ政権の経済政策の羅針盤とみなされている。

 ミラン氏は「指針」で、雪だるま式に増える米国の貿易赤字を問題視することから議論を始める。ミラン氏の論理は以下のとおりだ。米ドルは世界経済の基軸通貨だ。全ての国が国際決済などのためにドルを求めているため、その価値が高く評価されざるを得ない。ドル高によって米国製の商品の対外競争力が低下し、米国の貿易赤字が増える。これは米国の製造業の破壊につながる一方、金融業は過剰好況を享受することになる。実は、ここまではありきたりの話だ。いわゆる「帝国的過剰拡大(imperial overstretch)」で、他の論者たちはこれを根拠に米国の衰退、中国へのヘゲモニー交替などを説明してきた。

■ドル高は米国の衰退を招くのか:ミラン氏の質問

 ところが、ミラン氏は違った。おそらくトランプ大統領の心を掴んだのもそのためだろう。ミラン氏はこのような不均衡を正すことができると主張する。ミラン氏は事態の原因がドル高にあると指摘したため、これを必要な水準まで安定させれば、赤字問題を解決するとともに製造業復活の基盤を作れるだろう。しかし、どうやってそれを進められるのか。しかもドルの価値が下がれば、米国は世界経済で「ヘゲモニー」としての地位も譲るはめになりかねない。これは米国を偉大にするというトランプ大統領が追い求めるものではないはずだ。米国の対外不均衡を是正し、製造業を蘇らせながらも、米国を引き続き偉大にする方法はないだろうか。

 ここでミラン氏が取り出した武器がまさに関税だ。関税は輸入品の価格を高めるため、国内製商品の生産と消費を促進し、貿易不均衡の解消に貢献できる一方、国内の消費者が海外商品を安く手に入れることを妨げ、結果的に自国民の厚生を弱める結果をもたらす。後者の影響を恐れ、第二次世界大戦後、世界経済では自由貿易を奨励するムードが広がっていた。それでも強大国は、例えば弱小国を特定低付加価値産業に特化するよう強制することで、あるいは、国際貸付など金融的方式を通じて搾取するという「従属理論」などの問題提起があった。自由貿易体制下でも弱小国が自国産業の保護・育成のために関税を手段とすることがある程度は容認されたのは、そのような意味からだった。米国も一時は高率の関税政策を展開したが、それは米国が今のような地位を築く前のことだ。

■安全保障と結びついた関税政策

 ミラン氏の関税の提案が独特なのは、このような脈絡においてだ。こんにち、政府はたいてい国内産業の保護など、国内政策の手段としてのみ関税を使う。ところが、世界最強の大国によって関税が使われると、独特の性格が生まれる。関税は安全保障というグローバル必須財と結びつき、国際的な戦略交渉のための強力なテコになりうる。この時、テコの威力を極大化するため、税率を国別に差を設けることが重要だ。今や関税は米国という大きな市場に接近し、米国が提供する安全保障傘下に入るための「入場料」となる。トランプ大統領は、これまで米国がこの入場料をもらえてこなかったと考えている。彼が敵国と友好国の両方から米国が略奪されてきたと述べたのはそのためだ。もちろん入場料が高すぎるとして、入場を拒否する国も出てくるだろう。また、ミラン氏によると、関税賦課は輸入国において一定の非効率を生むが、それによって商品に対する需要が減りその均衡価格が下がれば、結果的に輸入国の消費者の厚生を高める可能性もある。要するに、米国の関税が同盟国を効果的に自国の安全保障のもとに留まらせながらも、自国の消費者の厚生は損なわない、米国にとって「最適の税率」がありうるという話だ。「指針」でミラン氏はその最適関税率を20%前後と推定した研究を引用している。ここまでくると、「指針」がトランプ政権の政策指針と言っても過言ではない。実際、2日の発表でトランプ大統領が「相互関税」という名目で国ごとに異なる関税率を適用し、それに伴い米国の実効関税率が従来の2%水準から24%に上がった(英国エコノミスト分析)からだ。

■ドル安のリスクも力づくで跳ね除ける…マール・ア・ラーゴ合意に進むか

 一方、以上の方法で貿易不均衡が是正されれば、それに比例してドルの魅力も落ちるだろう。ドルが魅力を失えば、上記の関税体系が米国の意図通りに作動しないだけでなく、米国の対外部門の赤字とともに米国を圧迫するもう一つの赤字、すなわち財政赤字の圧力を強めかねない。実際に昨年、米国政府が毎年支給すべき利子額は国防費を越えており、特段の措置が必要な状態だ。ここでミラン氏が出した代案は、米国債を100年満期の超長期債に転換することであり、これを強制するために持ち出した手段として安全保障を掲げている。関税以外にも、また米国が他の形の入場料を要求することができるという話だ。実際、これは投資銀行「クレディ・スイス」出身のアナリスト、ゾルタン・ポズサー(Zoltan Pozsar)氏が先に出した提案である。ミラン氏はこれを過去に米国が日本を圧迫しドルヘゲモニーの維持を試みたプラザ合意(Plaza Accord)に倣い、「マール・ア・ラーゴ合意」(Mar-a-Lago Accord)と命名した。マール・ア・ラーゴはフロリダ州パームビーチにあるリゾートで、1985年からトランプ大統領の所有だった。

 結局、ミラン氏の「指針」はグローバル貿易システムだけでなく、米国のヘゲモニーの延長に向けた物的土台の強化までをも視野に入れている。国際貿易・為替・通貨体制にわたるミラン氏の提案は、国内的にインフレのような問題を伴う可能性がある。ミラン氏が通貨政策と財政政策の緊密な共助を主張する背景でもある。ミラン氏は中央銀行の独立性まで俎上に載せている。実際、最近トランプ大統領は露骨に米連邦準備制度理事会(FRB)を圧迫しており、FRBのジェローム・パウエル議長はこれを必死に防御している。

 ミラン氏のビジョンは成功するだろうか。まだ不確実性が大きいとみられる。トランプ政権の要人たちの間にも意見の相違があり、関税賦課に反発して中国や欧州連合、カナダなどが強硬対応の方針を示しているうえ、先週末を経てトランプ大統領を批判する「ハンズ・オフ(hands off、手を引け)」デモが全国に広がっているためだ。ミラン氏とその仲間たちはマール・ア・ラーゴまで進めるだろうか。

2025/04/10 08:11
https://japan.hani.co.kr/arti/economy/52921.html

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