第2次トランプ政権が触発した関税戦争が世界経済の不確実性を増幅させ、内外の株式市場に連日途轍もない変動性を起こしている。その渦中に米国は9日、対米交渉の意思を明らかにした75カ国に対し相互関税措置を90日間猶予すると発表した。
トランプ政権が信念を持って関税政策を押し進めたが状況は容易でない。株式、為替、債券など金融市場が混乱に陥っている。トランプ大統領が長期金利下落を目標にすると明らかにしたが、ドル相場が急落するのに米国債10年物利回りが4.5%を超える珍現象が現れている。実体経済も懸念されるのは同じだ。ウォール街は関税戦争が続けば米国経済が沈滞に陥るだろうと警告する。米国全域でトランプ大統領を批判する抗議デモが拡散している。バイデン政権の物価上昇のためトランプ大統領に投票した支持者まで街頭に出ている。
90日間の相互関税猶予発表後、韓国は日本、英国、インド、オーストラリアなどとともに優先関税交渉国に選ばれた。米国はこれらの国が親密な友好国で与しやすい相手と考えたためとみられる。米国はこれらの国と先に有利な交渉を結び、これを他の国との交渉で圧力カードとして活用しようとするだろう。
国際通貨基金(IMF)・世界銀行春季会合に参加するため22日に米国を訪問する崔相穆(チェ・サンモク)経済副首相と産業通商資源部の安徳根(アン・ドックン)長官は24日に韓米財務・通商担当相が参加する「2+2」通商協議をする予定だ。
米国側の事情と韓国の国内政治状況を考慮すると、対米関税交渉で刻まなければならない最も重要な原則は、韓国が決して急ぐ必要はないということだ。むしろ他の国との協議結果を見た後に交渉を進めれば良い結果を生む可能性が高そうだ。交渉に向けた韓国側の準備期間があまりに短かっただけに、交渉結果を早く出すよりは90日という交渉期間を十分に活用する必要がある。
先週閣僚会談を進めた日本の石破首相も関税交渉は容易でないだろうと吐露した。よく知られた通りトランプ政権はあまりに気まぐれで予測不可能なため合意後でも何度でも態度が変わる可能性が高い。時間が過ぎるにつれトランプ政権が世論悪化など対内外圧力から関税を緩める可能性はある。したがって韓国が急いで水の泡にするよりは戦略的曖昧さを維持して時間を稼ぐのも方法だ。
交渉に臨んでは現在の韓国政府が大統領代行体制という事実を十分に説得し活用する必要がある。代行体制が交渉の重さに耐えようと努めるよりは、6週間後に発足する次期政権に交渉の結論を先送りするのが当然な道理とみられる。防衛費分担金、米国産LNG購入、貿易不均衡、造船業協力など関税交渉と関連したさまざまな議題に対しても先に譲歩する必要はない。急いで結んだ交渉結果が場合によっては次期政権の足を引っ張り、今後10~20年にわたり韓国の国益に甚大な影響を与えるかもしれない。
合わせて、交渉過程で「主人-代理人問題」が発生しないように留意しなければならないだろう。国の利益を代理すべき政府が国益に反する交渉をしてむしろ交渉妥結という私的成果に誤認されかねないという老婆心から強調する。昨年12月に発生した戒厳事態とその後の収拾過程で現れた韓国人の国民意識と民主主義成熟度は驚くほどだった。どうにか戒厳の峠を乗り越えたこの時期に国民は関税交渉というまた別の峠にして代理人が国と国民の利益に向け働くのか両目を見開いて注視するだろう。
韓悳洙(ハン・ドクス)大統領代行体制の対米関税交渉は6月4日に発足する韓国新政権が最善の交渉結果を導出できるようにする予備交渉または事前の地ならし作業の意味を持っているといえる。可能ならば最終結論を出さずに、重要な内容であるほど後回しにする慎重な戦略が要求される。同時に韓国の利益だけ無理に追うのではなく、どちらか一方に偏らない韓米両国の国益均衡点を探す努力を期待したい。韓国のこうした努力は韓国の交渉結果を注視する他の国々にも良い先例として作用し、国際社会で韓国のリーダーシップと地位を高めるだろう。
シン・ミニョン/弘益(ホンイク)大学経済学部招聘教授
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2025/04/22 13:02
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