混沌の「アメリカ・ファースト」だった。29日(現地時間)で2期目の任期開始から100日を迎えた米国のドナルド・トランプ大統領は、力を前面に押し立てた自国利益優先主義を推し進めることで、第2次世界大戦後に米国主導で構築された自由貿易と安保秩序を根本から揺るがした。しかし、そのことによって同盟が崩壊し、国内経済が動揺していることで、支持率が歴代大統領で最低値を記録するなど、結果は芳しくない。
■関税爆弾、自由貿易を脅かす
トランプ第2期において関税は信念の結果だ。交渉の手段だった1期目とは異なる。「米国を再び偉大に」するために、苦くても飲み込まなければならない「必須薬」だ。
発足直後から世界に対して砲門を開いた貿易戦争は、今月2日の「解放の日」に頂点を極めた。すべての貿易相手国に10%の基本関税を、韓国を含む57の経済主体に高率の相互関税を課した。特に中国には、数日間にわたって実に145%の超高率関税を課した。これは第2次米中貿易戦争を触発した。
米国の平均実効関税率は2.5%から18~22.5%に急騰し、大恐慌以降の最高水準を記録した。市場は動揺した。一時は株、債券、ドルが同時に下落した。
国際通貨基金(IMF)は、貿易戦争の余波で今年の米国の国内総生産(GDP)の成長率が0.9ポイント低下するとの見通しを示した。貿易戦争の相手国である中国の予想低下幅は0.6ポイントにとどまった。高付加価値の電子製品をはじめとする様々な消費財を中国に依存しているため代替供給者を探すのが難しい米国とは異なり、中国は米国産の大豆や石油などをその他の国から輸入して被害を最小化しているからだ。
トランプ大統領には、小さくても成果が必要だ。韓国、日本、インドなどとの2国間協議を通じて貿易戦争の正当性を得ようとしている理由はここにある。「3~4週間以内に交渉を終える」と公言しているが、進展は遅い。米国通商代表部(USTR)の事情に詳しいある人物はハンギョレに、「USTRはそもそも小さな組織だ。物理的に、短期間で数多くの国と2国間交渉を進められるほど職員が十分にいるわけではない」と語った。
中国との大規模な交渉はこう着状態に陥っている。トランプ大統領は最近になって融和的ポーズをとっており、中国も米国製の一部の半導体製品に課していた125%の関税を撤回したと伝えられている。両国の関税交渉の扉が開かれるかどうかが注目される。
貿易戦争において一貫した戦略を見出すのは難しいという批判は強い。当初、同盟国と敵性国を問わず開始された貿易戦争は、突如として中国のみをターゲットとした「米中貿易戦争」へと変質。それさえも最近の交渉雰囲気のせいで変化し、こう着局面にある。ピーターソン国際経済研究所のマーカス・ノーランド副所長はハンギョレとの書面インタビューで、「トランプ政権の関税政策は奇怪すぎるため、理性的分析は不要だ」と語った。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のマーク・ピーターソン教授(公共政策学)はハンギョレとのオンライン・インタビューで、「トランプ政権の不確実な関税政策は企業経営を阻害した。それは雇用の減少、政府支出の増加へとつながるため、成長ではなく悪循環を招いた」と指摘した。CNNはトランプ大統領就任100日を前に27日に発表した世論調査で、支持率が41%にとどまったと伝えた。これは1953年に就任したドワイト・アイゼンハワー大統領以降で最低だ。CNNは、この70年間の歴代大統領の中で最低水準だと報道した。
■孤立主義外交、領土不可侵原則も揺さぶる
「アメリカ・ファースト」にもとづく孤立主義外交路線も、混乱を深刻化させている。代表的な例がウクライナ戦争への対応だ。
トランプ大統領は、ウクライナ戦争について「欧州とウクライナが自ら解決すべき問題」とみなし、兵力や兵器の支援を遅延したり撤回したりした。これは親ロシア姿勢へとつながった。2月末にホワイトハウスを訪れたウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領を公開の場で「ウクライナはカードを持っていないのだから米国の要求に従え」と大声で脅したシーンは、アメリカ・ファーストの下での米国の変質を世界の外交史に刻んだ。
トランプ大統領は最近、ウクライナ領土の約20%に当たるロシアの占領地をロシアに譲り、現在の戦線を凍結するとする休戦案を提示した。「ウクライナ全体を占領しなかっただけでも、ロシアは相当な譲歩をした」とも主張した。これは、戦後の世界秩序の要となる原則である領土不可侵と主権の尊重に真っ向から反するもので、米国の国際的信用を深刻に傷つけているとの評価が支配的だ。ただ、このところ交渉がこう着状態に陥っていることで、ロシアを非難する方向へと若干旋回する雰囲気も感じられる。
米国最大のウクライナ支援団体「ラゾム・フォー・ウクライナ(Razom for Ukraine:ウクライナとともに)」のジュリアン・ヘイダ公共参加副局長は、26日のハンギョレの電話取材に対し、「『就任から24時間以内に戦争を終わらせる』というトランプ大統領の野心に満ちた主張は印象的だが、プーチン(ロシア大統領)がそのような状況を許さないということに今は気づいていてほしい」とし、「プーチン大統領はこれまで提示されてきたすべての合意と休戦に背いた」と語った。
■アメリカ・ファースト…「脱米国化」の開始
トランプ第2期の100日間で示された「アメリカ・ファースト」の姿勢は、全世界に「脱米国化」という課題を投げかけている。ベン・ローズ元大統領副補佐官は先日の「ニューヨーク・タイムズ」への寄稿で、「トランプ大統領の孤立主義と民族主義は、米国自らを世界秩序から孤立させている」として、「ブレグジット(英国のEUからの脱退)が英国にもたらした混乱を、トランプが世界的規模で再現している」と指摘した。
欧州は最も速く動いている。米国製の兵器システムに対する欧州の依存度は急速に低下しつつある。欧州の諸情報機関は米国との情報共有もためらいはじめている。英国の外交・安保専門家エドワード・ルーカスは、米国の外交専門誌「フォーリン・ポリシー」への23日の寄稿で、「米国があれほど望んでいた欧州の自主防衛は現実のものとなりつつある。それは米国の雇用、利益、支配力に打撃を与えるだろう」として、「米国は失ってからようやく『欧州の米国依存』によってもたらされていた恩恵を懐かしむことになるだろう」と指摘した。
国際貿易構造にも変化が感じられる。欧州連合(EU)は中国との関係回復を模索している。EUは中国製の電気自動車に対する関税問題の解決に向け、中国との交渉再開に乗り出した。
コーネル大学歴史学科のニコラス・モルダー教授は「フォーリン・アフェアーズ」への寄稿で、「米国が圧力を加えれば加えるほど、同盟国は自律性を追求するようになる。それは米国が長きにわたって維持してきた覇権秩序の解体を加速する」として、「トランプ政権は、当面の交渉での勝利のために米国の長期的利益を犠牲にしている。カナダやメキシコのような、米国との関係において代替財の少ない国は依然として圧力に弱いが、欧州や東アジアの主要国は米国市場から徐々に離脱しうる」との見通しを示した。
専門家は、トランプ大統領のリーダーシップのスタイルが変わらない限り、状況が好転する可能性は低いとみる。ウェンディ・シャーマン元国務副長官は先日、ニューヨーク・タイムズに「トランプ大統領の取引中心的なアプローチは、不動産開発業にその起源がある。不動産では取引に失敗しても、次の取引に移るか、裁判所に行けば済む。しかし、外交的な事案においてはそういうわけにはいかない」と指摘した。
2025/04/29 06:00
https://japan.hani.co.kr/arti/international/53064.html