米国のトランプ政権は日本と韓国を含む5カ国を優先交渉対象国に選定し、関税交渉を進めている。最近、韓国も関税・非関税措置、経済安全保障、投資協力、為替政策の4つの分野に分けて米国と交渉を始めている。今回の関税交渉はグローバル経済はもちろん韓国経済にも大きな影響を及ぼしかねないだけに政策当局の適切な対応策の準備が求められる。
今後グローバル経済はスタグフレーションを迎える可能性がある。高関税は世界貿易を萎縮させ、輸出を減らし、景気を沈滞させる。トランプ大統領の政策の不確実性で消費と投資も萎縮している。特に韓国の場合は政治的混乱と高金利で内需沈滞が深刻である中、高関税で輸出までが減少する場合、経済成長率は大きく鈍化すると予想される。米中貿易葛藤で中国の成長率が鈍化すれば、これも韓国の輸出減少につながり、景気沈滞を招く要因となる。
すでに1-3月期の韓国の経済成長率は-0.2%と、マイナス成長になった。国際通貨基金(IMF)も最近、今年の韓国成長率予測値を従来の2.0%から1.0%に引き下げ、米国など主要国の成長率予測値も下方修正している。成長率鈍化による景気沈滞は金融問題と資産価格のバブル崩壊を呼ぶという点で懸念が強まるしかない。
インフレ(物価上昇)圧力も強まる見通しだ。景気沈滞は需要を減らして物価を下落させるが、供給に衝撃がある場合は景気が沈滞しても物価は上がる。関税による価格上昇のほかにもグローバルサプライチェーンの変化で価格が上がるからだ。実際、トランプ政権は中国貨物船に対する規制を強化し、従来の中国中心のグローバルサプライチェーン構造を再編しようとしている。生活物価が上がる場合、時差を置いて賃金も引き上げられ「賃金上昇-物価上昇」の悪循環に入ることもある。これは米国をはじめとする各国の期待インフレと生産者物価が上昇する傾向を見てもよく分かる。
◆米国、中国に資本自由化など要求か
関税戦争の後に訪れる為替戦争も問題だ。米国は貿易赤字が拡大するたびに貿易相手国に対して今のように高関税を警告しながら、実際には為替レート調整を選択する戦略を使ってきた。関税は米国内の物価を直接的に引き上げ、米国の輸入業者が関税を負担する副作用を招く。半面、貿易相手国の通貨が値上がりする場合、貿易相手国の輸出業者がその負担を負うことになる。また、輸出企業が通貨上昇分を利潤の減少で吸収し、輸出価格に部分的に転嫁したり徐々に輸出価格を引き上げたりして米国内の価格上昇衝撃を緩和できる。このほか、懸念される報復関税も避けることができるという利点もある。
1985年のプラザ合意当時も日本は関税の代わりに日本円を引き上げる為替レート調整を選択し、30年間にわたる景気沈滞を経験した。韓国も1990年代初期、関税よりも資本自由化を選択し、過度な資本流入で1ドル=700ウォン台までウォン高ドル安が進み、結局、貿易赤字で1997年に通貨危機を迎えた。
今回も米国は韓米通商交渉の協力課題として為替と通貨政策を含んでいる。日本と中国にも為替戦略を使う可能性が高い。中国の対米貿易黒字が増えると、米国は中国の資本市場開放と為替レート調整を要求したが、中国がこれを受け入れなかったのが今回の関税戦争の背景にある。したがって中国との関税交渉で関税を引き下げる代わりに、資本自由化と為替レート調整を要求する可能性が高い。この場合、中国人民元と同調化現象を見せる韓国ウォンもまた値上がりすると見込まれる。ウォン高になる場合、輸入物価が下がるという利点はあるが、輸出が大幅に減少して景気沈滞が深刻になり、過去の日本のように長期沈滞に入ると懸念される。
◆為替レート変動性拡大も
米国が通貨政策への協力を提案する可能性も排除できない。貿易相手国が米国の関税政策を無力化する戦略には市場介入で為替レートを調整する方法と、日本のアベノミクスのように低金利政策で通貨価値を低める方法がある。市場介入の場合は米国が為替操作国に指定して制裁できるが、国内政策の低金利政策は米国も対応が容易でない。今回の韓米通商交渉で米国が通貨政策協力を提案する可能性を考慮しなければならない背景だ。
韓米関税交渉の影響を最小化するためには、まず内需を活性化させて輸出減少による成長率の急激な鈍化を防がなければいけない。補正予算を通じて財政支出を一時的に増やして内需景気を活性化しなければならず、利下げと貸出規制緩和政策を使う必要がある。このほかにも首都圏の交通インフラを拡充するなど内需と密接な関係にある建設景気を回復させる案も求められる。
ウォン高につながる為替および通貨政策協力には慎重でなければならない。トランプ政権は韓中日3カ国が莫大な経常黒字にもかかわらず通貨高にならないことに対し為替操作を疑っている。しかし中国を除いた韓国と日本は変動為替相場制を選択しているため市場で為替レートが決定する。また米国と両国の為替レートは経常黒字のほか両国の経済・政治的要因に影響を受ける。交渉当局は国内の政治的混乱と中国の追撃による産業競争力の低下、対米投資の増加でドル需要が増えた影響である点を説得する必要がある。
またプラザ合意当時とは違い、市場介入で為替レートを調整するのが容易でない点も強調するべきだろう。中国は通貨バスケット制を選択していて、為替レート調整が可能だ。韓国と日本も市場介入で為替レートを調整できるが、政治的不安定と経済のファンダメンタルズ(基礎体力)弱化が持続する限り市場でまたウォン安となる可能性が高く、結局、為替レートの変動性が大きくなる。この場合、市場介入で外貨準備高を減らし、対外信用度までが落ちるという問題が発生する。
2025/05/05 15:58
https://japanese.joins.com/JArticle/333391