真実を伝えた職員2人死亡 パワハラ兵庫県知事再選の裏にユーチューブの存在

投稿者: | 2025年5月16日

 昨年11月に行われた兵庫県知事選挙は選挙運動の段階から全国的に注目が集まったが、その結果に多くの人たちが衝撃を受けた。この選挙は兵庫県の斎藤元彦知事が県職員や取引業者などへのパワハラを告発され失職したことで行われた知事選だった。斎藤知事のパワハラを告発した県職員が自ら命を絶ち、斎藤知事は県議会での不信任決議可決による失職だったため一層注目を集めていた。

 斎藤知事がパワハラ告発に不満を示し、改めて知事選への出馬を宣言した時点では、メディアは斎藤知事に批判的だった。そのパワハラはメディアを通じて何度も報じられ、前回の知事選で斎藤知事を推薦した日本維新の会や自民党も独自調査の結果から「支持撤回」を発表した。ところがそれから約40日後に行われた選挙で日本国民は衝撃の結果を目の当たりにした。斎藤知事が45%の得票率で再び知事に当選したのだ。

 パワハラが告発され失職した政治家が直後の選挙で再び当選するという衝撃の結果だったが、その背景にはさまざまなうわさや陰謀論を事実関係以上に短時間で広めるユーチューバーの存在があった。話題を提供しチャンネル登録者を集めることに力を入れた第3の政治家が、「加害者の斎藤」をメディアや政界から一方的に批判を受けた「被害者の斎藤」と主張する刺激的な動画を広めたのだ。多くの有権者がその影響を受け、日本の自由民主主義70年の歴史で前例のない衝撃の結果となった。県議会調査特別委員会(百条委員会)の委員を務めた現職の県議会議員は、彼らユーチューバーの攻撃を受けた末に、選挙結果が出た直後自ら命を絶った。

 サービス開始から20年を迎えたユーチューブが、今は真実に関係なく怒りや不満をあおる面白さ中心のコンテンツをより幅広く拡散している。そのため事実関係を判断材料とすべき選挙制度はもちろん、自由民主主義そのものを危機的状況に追い込みかねないとの指摘も相次いでいる。兵庫県知事選挙を前後した時期に起こった一連の事件は、ユーチューブが持つこの種の脅威を象徴するものだった。

 事件の発端は昨年3月、兵庫県のある職員が公益通報者として県議会と警察に斎藤知事のパワハラや裏金のやりとりを告発したことだった。斎藤知事は告発者の個人情報を突き止め、虚偽事実の流布および誹謗(ひぼう)中傷を理由に停職3カ月の処分を下した。告発者は昨年7月「死をもって抗議する」との遺書を残し自ら命を絶った。

 その後、議会の百条委員会や複数のメディアの調査で斎藤知事のパワハラが事実であることが明らかになった。飲食店の予約が難しいときには「俺が知事だ」と大声で脅迫し、公用車を少し前に止めてあったとして暴言を吐き、イベントの記念品に自らの顔が入っていないとして強く叱責(しっせき)するといった別のパワハラ告発も相次いだのだ。調査の際には兵庫県庁の職員約300人が斎藤知事のパワハラを実名で証言したという。

 その後、県議会は満場一致で斎藤知事の不信任を可決したが、斎藤知事が失職後に再び知事選に出馬を表明したためメディアは一斉に批判に乗り出した。その後突然ある有名なユーチューバーが「プレーヤー」として参入し、劇的な反撃が始まった。「NHKから国民を守る党(NHK党)」の代表を名乗るもその実態はユーチューバーである立花孝志氏が知事選に出馬し、(自分ではなく)斎藤知事の支持をユーチューブを通じて訴えた。動画での訴えの根拠はその多くが単なるうわさで、最初に告発し故人となった県職員や百条委員会を何度も激しく攻撃した。

 立花氏はNHKの受信料支払い拒否を掲げる政党を立ち上げ、その後ユーチューブを通じて有名になった人物だ。2019年の参議院選挙に比例代表で当選したが、後に衆議院補欠選挙に出馬するためわずか4カ月で辞任し、さらに何の縁故もない複数の地方で知事選に出馬するなど、選挙運動をユーチューブで紹介する手法でチャンネル登録者を集めてきた。立花氏はこのようにして得たユーチューブチャンネル登録者を集めるノウハウを兵庫県知事選挙でも大きく活用した。

 まず過激な陰謀論を訴え斎藤知事を被害者に仕立て上げた。その際に斎藤知事を失職に追い込んだ県議会やメディアを批判し「既得権という巨大な闇に一人立ち向かって戦う改革派の斎藤知事」というスローガンで分裂をあおり、怒りを誘発しチャンネル登録者を集めた。「県議会議員はメディアと共にパワハラを捏造(ねつぞう)した」とか、「告発した県庁職員の自殺は斎藤知事のせいではなく、県議会議員のわなにかかったため」など虚偽の情報を広めたのだ。百条委員会の委員を務めた県議会議員の自宅に拡声器とユーチューブ撮影用のカメラを持って何度も訪問し「おい、出てこい」「脅迫ばかりしてると自殺するかもしれないからやめろ」などとやじを飛ばす非常に過激な場面も映し出した。ユーチューバーたちはこの種の動画を別のSNS(交流サイト)に数多く掲載した。

2025/05/16 07:00
https://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2025/05/12/2025051280008.html

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