「今回の選挙で、韓米同盟の『再調整』のような重要な問題が争点にならない理由は何でしょうか。ドナルド・トランプ大統領は在韓米軍をそのままにしておかないだろうし、北朝鮮と米国の接近も確実にあるでしょう。韓国は今、非常に危険です」
日本の朝日新聞の牧野愛博・外交専門記者(朝鮮半島、外交・安全保障分野担当)が「韓国大統領選の取材のために、近くソウルに行くので、少しお話しできないか」と連絡してきたのは、先月初めのことだった。牧野記者は韓日・朝日・南北関係について、何と10冊ほどの著書を出した日本国内最高の「朝鮮半島専門記者」として知られている。5月30日午後、ソウル市鍾路光化門(チョンノ・クァンファムン)の近くで、3日の大統領選について色々な話を交わしていたなか、牧野記者が投げかけた質問を受けて、少しの間、深く考え込まざるをえなかった。
「今回の選挙の最大の目的は、尹錫悦(ユン・ソクヨル)前大統領が引き起こした12・3内乱を整理し、秩序を回復するためのものです。進歩側の専門家たちも、今後なされる多種多様な変化については、覚悟して備えています」
相手は依然として疑問をぬぐい切れないという表情だった。その後交わされた多少“熱くなった対話”については、あえて書かないことにする。
牧野記者の言葉どおり、第2次トランプ政権発足後に進行中の様々な変化を調べてみると、朝鮮戦争(1950~1953)以来最大の「国難」に直面していると言っても過言ではない。トランプ大統領は文字通り、これまで韓国の繁栄を支えてきた「自由貿易秩序」(経済)と韓米相互防衛条約(1954、安全保障)という2本柱を同時に倒している。信じていた同盟国が突然、鋭い刃物でわき腹を刺している状況であり、あまりの痛さで悲鳴さえ上げられないというのが、率直な気持ちではないかと思う。
米国が要求することになる韓米同盟の「再調整」は、具体的にどのようなものになるだろうか。米国から聞こえてくる様々な情報を総合すると、有力に検討されている第1案で挙げられているのは「在韓米軍の縮小」だ。ウォール・ストリート・ジャーナルは5月22日、米国政府当局者の話を引用し、韓国に駐留する米軍人約2万8500人のうち約4500人を、グアムをはじめとするインド太平洋内の別の地域に移転する案を検討していると報じた。4500人は、米国が韓国に輪番制で配置しているストライカー旅団の兵力を意味する。最終的にこの兵力をグアムなどの後方に配置し、必要に応じて中国けん制に活用するという意図だと理解される。米国防総省の当局者は、5月29日のAP通信のインタビューでも、朝鮮半島の兵力を削減する案を完全には排除していないと述べた。
第2案でみられるのは、在韓米軍の存続を前提とした大規模な役割変更論だ。この案の強力な擁護者とみられるのが、ザビエル・ブランソン在韓米軍司令官だ。ブランソン司令官は5月15日と27日、朝鮮半島は中国と日本の間に存在する「不沈空母」という言葉で、この地の地政学的重要性を繰り返し強調した。実際により注目すべき発言は、「力による平和を維持するために、時には別の場所に行かなければならない」という主張だった。北京の「喉元に突き立てられた匕首」のような朝鮮半島の地政学的重要性を最大限活用するためには、兵力規模は可能な限り維持するが、主な役割を「韓国防衛」から「中国けん制」に変えるという意味だと解釈できる。このようになる場合、在韓米軍は、「極東の平和と安全の維持に寄与」するために、「戦略的自律性」を最大限発揮する在日米軍のように変わることになるとみられる。米軍の「発進基地」としての役割を一手に引き受けることになる韓国は、中国との関係で途方もない負担を背負うことになるのが明らかだ。
記憶を呼び起こしてみると、韓米は2006年1月、この難題をめぐり「共通した認識」に到達したことがある。当時の文書によると、韓国は在韓米軍の「戦略的柔軟性の必要性を尊重」するとして、米国は「韓国国民の意志とは無関係に東北アジア地域の紛争に介入することはないという、韓国の立場を尊重する」という意向を表明した。この問題を担当した「盧武鉉(ノ・ムヒョン)の策士」ことイ・ジョンソク元統一部長官は、後に出した回顧録『刃の上の平和:盧武鉉時代の統一外交安保備忘録』(2014、未邦訳)で、「米国の縮小計画に受動的に引きずられていくのではなく、堂々かつ能動的に交渉しなければならない」という盧武鉉元大統領の発言を詳細に伝えている。
19年前になんとか封印した難題がよみがえろうとしている。慎重に顔色をうかがって退いたとしても、韓国の事情を配慮するトランプ大統領ではない。韓米同盟の未来像とその中でわれわれが最善だと判断する明確な方針を持ち、今後行われる壮絶な交渉に堂々かつ能動的に臨むことを望む。
2025/06/01 18:34
https://japan.hani.co.kr/arti/opinion/53361.html