提灯と国益【コラム】

投稿者: | 2025年6月30日

 「昨年の7月であったかと思います。大統領になられる前でしたが、狙撃をされたときに、ひるむことなく立ち上がられ、拳を天に突き上げて、そのときの写真が非常に印象的でありました。そこの背後には星条旗がはためき、そして、青い空が映っていた。あの写真はおそらく、歴史に残る1枚だったと思います。あの写真を見て私は、おそらく、大統領閣下(はその)のときに、自分はこうして神様から選ばれたのだと、必ず大統領に当選し、ふたたびアメリカを偉大な国に、そして世界を平和に、そのように確信されたに違いないと思ったことでありました」

 2月7日(現地時間)午前11時55分。米国ホワイトハウスの大統領執務室で、ドナルド・トランプ大統領に途方もない「チョチン・コメント」(追従性の称賛)を口にした日本の石破茂首相を眺めて、複雑な感情が交錯するのを抑えられなかった。韓国メディアがよく使う隠語の「チョチン」は、漢字の「提灯」を日本式の発音で読んだものだ。召使いが暗い夜道を先に歩き、明かりで主人の前の道を照らすように、誰かの機嫌を取ったり、お世辞を言ったりする、あるいは、そのような記事を書くという意味で用いられる。

 恥ずかしい接待の言葉を口にした石破首相とは、どのような人物なのか。安倍晋三元首相が絶対権力を確立した2010年代の日本政界において、一匹狼の孤独な挑戦を拒まなかった反骨の勝負師であり、「集団的自衛権」について単著を出版したことがある、自尊心の強い安全保障の専門家であり、そのために人間関係が得意ではない「不器用さ」が、むしろ魅力だと呼ばれた、やぼったい孤立無援の将軍だった。おそらく、予測不可能なトランプ大統領との間に円満な関係を形成し、日米関係を安定させることが、日本の「国益」だと信じ、気の向かない称賛の言葉を口にしたのに違いなかった。朝日新聞はこの奇妙な光景について「首相の表情は一貫して硬く、普段よりもゆっくりとしゃべっていた」と描写した。

 もちろん、1期目のトランプ大統領と蜜月関係を構築した安倍元首相を皮切りに、24~25日の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議を無事に終えたマルク・ルッテ事務総長まで、「トランプ大統領の機嫌を取る」という、全員がある程度は甘受しなければならない、一種の国際的な通過儀礼になった。さらに、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長でさえ、北朝鮮・米国間の対話がなされた2018~2019年には、様々な甘い言葉でトランプ大統領の歓心を買おうと、必死の努力をした。

 では、そのような試みは成功したのだろうか。石破首相は対等な日米関係を作るという長年の「持論」を曲げて米国にひれ伏したが、これまで何を得たのか明らかでない。まずは貿易だ。日本は「トランプ関税」問題を解決するために、赤沢亮正経済再生相を交渉代表として派遣し、29日の時点までに、米国と7回にわたる強力な閣僚級交渉を行った。特に16日の日米首脳会談では、中心的な争点である自動車の「品目関税」(25%)について目に見える成果を期待したが、そのようなことはなかった。石破首相は会談後、「わが国にとって、例えば自動車は本当に大きな国益だ」と悲鳴を上げざるをえなかった。

 安全保障も同じだ。日本メディアは22日、「米国が日本に防衛費(国防予算)を国内総生産(GDP)の3.5%まで上げるよう、具体的な数値目標を非公式に提示」し、日本政府が7月1日に予定されていた外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2会議)を延期したと報じた。ウィ・ソンラク国家安保室長は4日後の26日、「米国が(国防予算5%の公約を引き出した)NATOと同様に、様々な同盟国に似た注文を出している」と述べた。韓国と日本の双方に同じ圧力が加えられている以上、ここでも日本に対する「値引き」はなかったと断定できる。

 金正恩委員長が、トランプ大統領に対する「提灯」には、期待とは違い大した効果がないという事実を理解したのは、「ハノイ・ノーディール」から半年が経過した2019年8月のことだった。米国のジャーナリストのボブ・ウッドワード氏が「失望した恋人の手紙」のようだと描写した5日付の親書で、金委員長は「私は明らかに気分を害し、それを閣下に隠したくありません」と書いた。

 石破首相も同様にこの事実を理解し、3日間の全日程に出ると言っていたNATO首脳会議への出席を、出発直前(23日)に取りやめたのではないだろうか。

 意外にも「提灯」が通じないトランプ大統領の様子から、大統領が掲げる現実主義の厳しい実態がみえる。米国の利益だけを掲げるトランプ時代には、言葉でごまかして守れる国益はない。トランプ大統領は、われわれが考えるより、はるかに難しい人物だ。トランプ大統領の存在は、われわれにとっての真の国難だ。

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https://japan.hani.co.kr/arti/opinion/53600.html

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