学問の自由、法で断罪すべきではない【朝鮮日報コラム】

投稿者: | 2025年7月20日

 「11年もかかるとは」。今年1月、ソウル高裁の307号法廷を後にした朴裕河(パク・ユハ)世宗大名誉教授は苦々しい表情でこう言った。旧日本軍の慰安婦被害者たちが朴教授を相手取って起こした損害賠償請求訴訟の控訴審判決が出た直後のことだった。裁判所は「学問的な研究で使用された表現は、学界・社会の評価及び討論によって検証するのが望ましい」として原告敗訴の判決を下した。一審では、朴教授が慰安婦被害者たちの名誉を傷つけたとして、朴教授に9000万ウォン(約960万円)の賠償を命じたが、二審ではこれが覆された。その後、慰安婦被害者側が上告しなかったため、この判決は今年2月に確定した。

 そして、6カ月後の今月3日、ソウル高裁の決定により、国から朴教授に刑事補償金875万ウォンが支払われることが確定した。刑事裁判でも無罪が確定している朴教授が、訴訟の過程で負担した弁護士費用などを国に補償してもらえることになったのだ。朴教授が民事・刑事の両訴訟に巻き込まれて11年目でようやくだ。

 875万ウォンで、法廷で耐えてきた11年という歳月を補償できるだろうか。この事件の発端は、朴教授が『帝国の慰安婦』を出版した2013年8月にさかのぼる。同書には「慰安婦の不幸を生んだのは植民支配、貧困、家父長制という複雑な構造だった」という主張が書かれている。これは慰安婦に関する従来の記述とは視点が異なっていた。翌年の6月、慰安婦被害者たちは「本に書かれた虚偽事実によって名誉を毀損(きそん)された」として朴教授を相手取って民事訴訟と刑事訴訟を起こした。

 刑事裁判の一審は「朴教授の見解に対する判断は、裁判ではなく学問の場でなされるべきだ」として無罪と判断した。しかし二審は、本の中の一部表現が被害者たちの名誉を毀損しているとみなし、罰金1000万ウォンを言い渡した。その後、最高裁は2023年10月「本の中の表現は学問的主張として評価するのが妥当だ」として無罪の趣旨で事件をソウル高裁に差し戻した。昨年4月に行われた差し戻し審では朴教授に無罪判決が下され、検察が再上告しなかったため、この判決は確定した。

 同様のケースは他にもある。柳錫春(リュ・ソクチュン)元延世大教授は「慰安婦は現代の売春と似ている」と発言して起訴されたが、今年2月に最高裁で「柳・元教授の発言は社会通念から外れており、比喩が不適切だが、抽象的な意見であるため名誉棄損には当たらない」と判断された。

 二人の学者の主張が正しいかどうかの評価は、それぞれがすべきことだ。しかし、学者が自分の見解を表明したという理由で法廷に立たされるという状況は憂慮すべきだ。これまで慰安婦問題は既存の観点と異なる見解を認めないという雰囲気があり、なかなか先に進めなかった。しかし、ファクトと主張があるのなら公の場で議論し、反対意見をぶつけながら解決していくべきだ。全員が同じことばかり言っていては学問は停滞するだけだ。

 裁判所は世の中の争いごとが最後に流れ着く「下水口」だ。しかし、学問の自由までそこに滞ってはならない。学問の自由を国家機関が法で断罪するということが、二度と繰り返されないよう願っている。

パク・ヘヨン記者

2025/07/20 09:00
https://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2025/07/14/2025071480011.html

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