世界秩序は崩壊しているのか【寄稿】

投稿者: | 2025年7月21日

 停電が発生すると、ときには、全員が協力して秩序を維持する。弱い立場の住民を助け、一時的な混乱に対処する方法を探ったりもする。しかし、反対に、無政府状態に陥ることもある。多くの人は、現在の世界は後者に近いとみている。ロシアとイスラエルは弱い近隣諸国に侵攻し、ドナルド・トランプの米国は、世界経済を麻痺させる貿易戦争を始めたが、国連のような国際機関は対応できずにいる。あまりに多い違反のために、もはやルールを守る意味が失われてしまい、なんらかの転換点を越えてしまったのだろうか。無政府状態が世界の未来なのか。

 冷戦期の二極体制は、表面上は安定を提供していた。おかげで欧州は統合することができ、韓国と日本のような東アジア諸国は急激な成長を成し遂げ、第三世界の諸国は2大超大国の間でバランスを保ちながら、自分たちの位置を模索することができた。

 しかし、冷戦体制は表面上でのみ安定的だった。資本主義と共産主義の世界はしばしば衝突した。韓国やベトナムでの戦争、カンボジアでの集団虐殺、ビアフラ(ナイジェリアの一部に存在していた国家)・バングラデシュでの飢饉、ラテンアメリカ・アフリカ・アジアでの軍事クーデターなどがその例だ。その時期に安定と繁栄を享受したのは、「グローバル・ノース」の国々だけだった。

 1989年のベルリンの壁崩壊後の数十年間、法治と人権保護を基盤とする国際共同体が確立された。欧州連合(EU)が拡大し、米ロ関係は一時的な雪解けを迎え、中国は急速な経済成長を始めた。しかし、この新たな世界秩序にも混乱はあった。ボスニアとルワンダでの集団虐殺、湾岸戦争、9・11テロとアフガニスタン・イラクでの戦争、スーダン虐殺、1997年のアジア経済危機、2008年の世界金融危機などが続いた。

 こんにちのほとんどの国は、いまでも国際ルールに従っている。世界貿易機関(WTO)と国際司法裁判所(ICJ)に事件を提訴し、国際刑事裁判所(ICC)は引き続き逮捕令状を発行しており、最近では、フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ前大統領のような有名人も拘束した。米国が加盟していなくても、ブラジルが今年の気候交渉をふたたび活性化することができるという慎重な楽観論もある。

 無政府状態に対する恐れは、現在より未来に向けられている。第2次世界大戦前のように、世界の相当部分が極右で切り替わるとすれば、どうなるだろうか。確かに、米国、ロシア、ハンガリー、インド、エルサルバドルでは、右派民族主義者が政権を取っている。極端主義者はドイツとフランスでも勢力を広げている。これは、EUが自由主義的国際主義から遠ざかるきっかけになる可能性がある。チリ、コロンビア、ブラジル、メキシコで左派政権を発足させたラテンアメリカの「ピンク・ウェーブ」も、アルゼンチンのハビエル・ミレイとエクアドルのダニエル・ノボアの勝利以降、「ブラウン」に変色する危険がある。

 一部では、トランプが世界秩序を19世紀の帝国主義時代の影響圏分割体制に誘導していると推測もしている。米国はアメリカ大陸、中国は東アジアと東南アジア、ロシアは旧ソ連地域、欧州はユーラシアの一部とアフリカの一部に影響力を行使する図式だ。しかし、現実ははるかに複雑だ。トランプの米国は相変わらず全世界的に活動している。イランを爆撃し、ウクライナに兵器支援パッケージを提供し、中国との対決のための軍備支出を拡大している。中国もまた「一帯一路」を通じて、全世界でインフラ開発と鉱山プロジェクトに投資している。EUは引き続き、ウクライナとモルドバを含む旧ソ連地域にまで加盟国拡大を推進中だ。

 多くの場合、世界を動かすルールはいまでも有効だ。英国の詩人のウィリアム・バトラー・イェイツが第1次世界大戦の直後を描写して言及した「純粋な無政府状態」が世界に広がっているのではない。問題はこれからだ。米国の作家レベッカ・ソルニットは、「停電」状況のもとで大衆は、協力して新たに解放的な解決策を見いだすと説明した。ソルニットの理論はまもなく世界的なレベルで俎上に載せられるだろう。この世界のトランプが間違っていて、ソルニットが正しいことを望む。

2025/07/20 19:04
https://japan.hani.co.kr/arti/opinion/53787.html

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